婚約破棄してきた強引御曹司になぜか溺愛されてます

裏 あしながおじさまは元婚約者でした

雛子からの手紙 side朝哉 2

あしながおじさま

こんにちは。
あしながおじさま……と勝手に呼んでしまいましたが、かまわないでしょうか？

校長先生からお名前を教えていただけなかったので、どういう呼び方がいいかと考えてみました。
『会長様』も『会長さん』もすごく他人行儀な気がしてしっくり来なかったのですが、おじさまからのメールを読み返してヒントをいただきました。

おじさま、お言葉に甘え、おじさまからの支援をありがたくお受け致します。

おじさまが孤独だというのなら、私も孤独です。
ですが、お互いの存在が支えになるのなら、今この瞬間から私たちは孤独ではありません、2人です。
もうこれからは寂しくなんかないですね。

私は『あしながおじさん』のジュディほどのユーモアも行動力もないし、『マイ・フェア・レディ』のイライザみたいに期待通りの淑女になれるかも怪しいです。
だけど御期待に添えるよう努力を続けるとお約束します。

おじさま、私を見つけてくださりありがとうございました。そして父のことを偲んでいただきありがとうございました。

また日々の報告をさせてくださいね。
お忙しくて迷惑な時は遠慮なくそう仰ってください。
そうじゃないと私は調子に乗って、おじさまをメール攻めにしてしまいそうですから。

それではまた。

雛子

P.S. じつを言うと、最初からおじさまには運命を感じていました。私は『あしながおじさん』のお話が大好きで、おまけに『雛の会』には私の名前が1文字入っているんですから。


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「よしっ！　よっしゃ！　やった――っ！」

　雛子からのメールを読んだ途端、朝哉は両手でグッと握りこぶしを作り、雄叫びを上げた。
　勢いよく動かした右手がガン！　とパソコンデスクの裏に当たったけれど、そんな痛みも気にならない。

――よかった……本当に。

　手紙でのやり取りのあと、駄目元で申し出た個人的支援を雛子が受け入れてくれた。

　最初のメールのとき、雛子が『もう御礼を言えたからこれで終わり』という空気を醸し出していたものだから、それはそれは本気で焦った。
　
――これきりにしてたまるか！

　せっかく繋がった糸を切らせてなるものか、どうにかして繋ぎとめねばと必死で……

　亡くなった宗介氏に雛子と出会わせてもらった恩があったのは本当。
　孤独な独り身で金の費い道は雛子しかないというのも本当。
　彼女が生きる力だというのも本当のことだ。


――2人だと言ってくれた……

　これで朝哉はもう孤独じゃない。
　雛子にも今は頼るべき『あしながおじさま』がいる。

　それがたとえ朝哉自身に向けた言葉ではないとしても、今の自分にはそれで十分だ。
　だってこれから何年間も、下手をしたら一生会えない可能性もあるんだ。
　前に進むために、せめてなんらかの糧がほしい。


　雛子は気づいているのだろうか。『あしながおじさん』も『マイ・フェア・レディ』も、最後はメインキャラクターの2人がくっつくということを。

　自分たちもそうなりたい。そうであればいい……と思う。


――調子に乗っちゃう……って……

「どんどん調子に乗ってくれよっ！　ヒナ、頼むから死ぬほどメール攻めにしてくれっ！」

　ヤバい、床をゴロゴロ転げ回りたいくらい嬉しい。
　窓を全開にして「わ――っ！」と叫びだしたいのを必死で堪えた。ニューヨークの街中で急に奇声を発したら、麻薬ジャンキーかと疑われてポリスに連行されそうだ。


　最後のP.S.の言葉、『『雛の会』には私の名前が1文字入っているんです』は嬉しかった。
　雛子はちゃんと気づいてくれたんだ。

『雛』の字が使われているのは当然だ。
　だって『雛の会』は雛子1人のための架空の団体なんだから。
　朝哉が無事専務になれた暁には、この団体を本当に設立して自分が代表になり、雛子のように優秀な生徒に奨学金を支給したいと思っている。


　校長には赤城を通じて『雛子のスポンサーはじつはクインパスの会長だ』、『クインパスの次期社長が雛子を将来の妻に望んでいる』、『雛子が快適に過ごせている限り学校への援助は惜しまない』と伝えてある。

　これで雛子は学校でも寮でも大事にされるだろう。


『最初から運命を感じていました……」
　それはそうだろう。朝哉の運命は雛子なのだから。

――あとは俺が1日も早く目標を達成するのみ……



　そして朝哉はそれから6年後、時宗や定治の予想を遥かに下回る27歳という若さで専務にまで登りつめるのだった。