渡せなかった。

いとま

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渡せなかった。

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渡せなかった。

「私は渡せなかった。」
そう渡り廊下の半分より途中で
ボソッと私はガムのように吐き捨てる。
あの人はたくさんの好意を受け
たくさんの紙に書いた気持ちを受け取る。
私はその中1人だけど、渡せなかった。
脇役はあそこにいちゃ行けない。
あそこに入れるのはスポットライトを
当たっている人だけだ。

この4枚に綴ったあなたへの気持ちと
可愛くデコレーションした文字や顔文字
全てあなたの為に捧げたもの。
でも渡せなかった。渡す勇気が無かった。
渡した時の反応が怖かった。
他の人の目が怖かった。だから私は
臆病なままでこの温めた可愛い私の化身を
そっと自分の背中に伏せて隠す。
持っていることをバレないように。

そうして私は夕日が指すその渡り廊下の
中腹で人知れず泣く。上も前も見れないから下を向いて泣く。涙が落ちていく。
後ろに隠したその気持ち4枚を
くしゃっと握り、シワをつけて。

私は渡せなかった。
大好きなあなたへ。私の精一杯の気持ちを。
ずっと大好きなあなたへ。さようなら。
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