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春
週末が明けて
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週末明けの月曜日。
(…よしっ。大丈夫!)
私は大きく深呼吸して、教室のドアを開けた。
窓際の1番後ろの席、いつもと同じようにぼんやりと外を眺めている友人の元に一目散に駆け寄る。
「りっか、おはよう。」
そっと声をかけると、りっかこと林葎花(はやしりつか)は素早く私の方を振り返った。
すると、
「うっわ!」
りっかは私を見るなり大きな瞳をさらに大きくして声を上げた。あれ、またまつ毛の数増やした?
「えー!芽衣子!すっごいかわいいじゃん!似合ってる似合ってる!」
と、りっかはすぐに破顔し、私を褒めてくれた。
「えへへ、そうかな。よかった。」
オシャレな友人に褒められて、私はホッと息をなでおろした。
そして、まだ慣れない短くなった髪を触る。
「いいねー!これが恋の力ってやつかい?」
このこのー!と私の腕を肘で突いてくるりっかの口元を慌てて抑える。
美人でオシャレな友人には欠点がある。
地声が大きすぎるところだ。
「りっか!声が大きいよ!」
焦りながら、さっき教室に入る時にすかさずチェックしていた想い人の方を見て…
「あ…」
そっとりっかの口元から自分の手を下ろした。そんな私を不思議に思ったのか、りっかも私の視線の先に目を向けると
「あー…」
あれはお姫様だわ。
と、私にとどめを刺した。
そこには私が想いを寄せている七瀬明日太くんと、彼の幼なじみの藤堂美咲ちゃんが人に囲まれて仲良く笑い合っていた。
というのは日常茶飯事なのだか…1番の問題はそこではない。
私は先週の木曜日の放課後のことを思い出していた。
その日、私は日直で、放課後の教室で残って日誌を書いていた。
そして教室には、これから部活へ行くだろう七瀬くんと数人の友人が準備をしながら話していた。
「なあなあ明日太!明日太は女子の髪型、どんなんが好き?やっぱロング?」
と私が食いつかざるをえない話をし始めた。
「えー、俺?」
七瀬くんの優しい声が迷うように揺れる。
「うーん、あんま考えたことないけど…ああ!あれ!ボブヘアっていうの?あれふわふわしててかわいいよな。」
そう言ってにこにこと笑った七瀬くん。
「…ボブヘアか。」
七瀬くんたちが去った後、私はぼんやりと物心ついた時から変わらない胸元あたりまでの長さの髪を触る。
「おっ、切るの?切るの?」
と七瀬くんたちの会話に夢中になりすぎてすっかり忘れていたりっかの存在を思い出し、少し飛び上がる。
「うーん、考える。」
そう答えたものの、私はその日のうちに美容院に予約を入れ、週末髪の毛を切ってもらい、月曜日の今、こうしてボブヘアになって学校にいるというわけだ。
パーマも当ててもらったが、初めてだったから上手く当たらなかったのか、もう取れかけてしまっている。
問題は美咲ちゃんだ。金曜日まで、彼女は綺麗なロングストレートヘアだったはずだ。でも、今、美咲ちゃんの髪にはふわふわとした綺麗なパーマがかかっている。
そういえば、彼女もあの話の輪の中にいたな…
華奢で色素が薄く、かわいい顔立ちの彼女にその髪型はすごくよく似合っていて…
よく分からずにとりあえず切ってしまった私とは大違いだ。自分を最大限にかわいくし、なおかつ七瀬くんのふわふわかわいいポイントもよく抑えている。
「かわいいー!」
とみんなから言われて恥ずかしそうに笑って七瀬くんを見る美咲ちゃんと彼女をにこにこと眺める七瀬くん。
お似合い以外のなにものでもない。
美咲ちゃんは、七瀬くんが好きだと有名だ。
その眩しい光景に、私は思わず目をそらした。
そんなどんよりとした私を見てか、
「何よ、芽衣子なんて妖精なんだから!」
と、りっかは焦ったようによく分からないフォローをしてくれた。
放課後、ゴミ出しをしに行ったりっかを自分の席で座りながら待つ。
教室で1人で過ごすのは、なんとなく好きだ。
今日の1日、いろんな人に髪型を褒めてもらい、結局七瀬くんの目に入ることはなかったけど、この髪型にしてよかったなと思った。
あー、そういえば明日英単語の小テストだったっけな。空いた時間に少しでもと、私はカバンから単語帳を取り出して勉強を始める。
すると、勢いよく教室のドアが開いた。
「あ、おかえりー!」
と言いながら目線をそちらにやると、バスケ部のユニフォーム姿の七瀬くんがいた。
…えっ、七瀬くん!?
「あっ、ごめん、りっかと間違えた。」
恥ずかしくて思わず小さな声でそう言うと、
「あははっ、今日林、掃除当番だったっけか!」
あっけらかんと笑いながら七瀬くんが教室に入ってきた。
全然気にしてなさそうな態度にホッとする。
「俺はねー、忘れ物。」
七瀬くんは自分の机の中をガサゴソ探ると、英語の単語帳をひらひらと私に見せた。
「あ、明日小テストだもんね。」
「そう!いつもならスルーすんだけど、稲葉先生(英語の先生)が明日8割取れなかったら3日間補習してやるってー。」
ありがたいけどー、部活がしたい!と困ったように言う七瀬くんに思わず笑みがこぼれる。
「あっ、笑ったー、津島は英語の成績いいもんな。」
ちょっと不貞腐れたような表情の七瀬くんに、あ、気分悪くさせてしまったと顔が下を向いてしまう。
「あははっ!冗談だよ!全然気にしてないし!津島は気にし過ぎ!」
いつの間にか私の目の前に来ていた七瀬くんがにこにこと私を見ている。
え、なんだろう…?
しばらくにこにこと私を見つつ、どこか迷ったような表情の七瀬くんに首をかしげる。
すると、すうっと小さく息を吸う音が聞こえて、
「髪型変えたんだな。津島の優しい雰囲気に、よく似合ってる。」
満面の笑みで爆弾を落とした。
(…よしっ。大丈夫!)
私は大きく深呼吸して、教室のドアを開けた。
窓際の1番後ろの席、いつもと同じようにぼんやりと外を眺めている友人の元に一目散に駆け寄る。
「りっか、おはよう。」
そっと声をかけると、りっかこと林葎花(はやしりつか)は素早く私の方を振り返った。
すると、
「うっわ!」
りっかは私を見るなり大きな瞳をさらに大きくして声を上げた。あれ、またまつ毛の数増やした?
「えー!芽衣子!すっごいかわいいじゃん!似合ってる似合ってる!」
と、りっかはすぐに破顔し、私を褒めてくれた。
「えへへ、そうかな。よかった。」
オシャレな友人に褒められて、私はホッと息をなでおろした。
そして、まだ慣れない短くなった髪を触る。
「いいねー!これが恋の力ってやつかい?」
このこのー!と私の腕を肘で突いてくるりっかの口元を慌てて抑える。
美人でオシャレな友人には欠点がある。
地声が大きすぎるところだ。
「りっか!声が大きいよ!」
焦りながら、さっき教室に入る時にすかさずチェックしていた想い人の方を見て…
「あ…」
そっとりっかの口元から自分の手を下ろした。そんな私を不思議に思ったのか、りっかも私の視線の先に目を向けると
「あー…」
あれはお姫様だわ。
と、私にとどめを刺した。
そこには私が想いを寄せている七瀬明日太くんと、彼の幼なじみの藤堂美咲ちゃんが人に囲まれて仲良く笑い合っていた。
というのは日常茶飯事なのだか…1番の問題はそこではない。
私は先週の木曜日の放課後のことを思い出していた。
その日、私は日直で、放課後の教室で残って日誌を書いていた。
そして教室には、これから部活へ行くだろう七瀬くんと数人の友人が準備をしながら話していた。
「なあなあ明日太!明日太は女子の髪型、どんなんが好き?やっぱロング?」
と私が食いつかざるをえない話をし始めた。
「えー、俺?」
七瀬くんの優しい声が迷うように揺れる。
「うーん、あんま考えたことないけど…ああ!あれ!ボブヘアっていうの?あれふわふわしててかわいいよな。」
そう言ってにこにこと笑った七瀬くん。
「…ボブヘアか。」
七瀬くんたちが去った後、私はぼんやりと物心ついた時から変わらない胸元あたりまでの長さの髪を触る。
「おっ、切るの?切るの?」
と七瀬くんたちの会話に夢中になりすぎてすっかり忘れていたりっかの存在を思い出し、少し飛び上がる。
「うーん、考える。」
そう答えたものの、私はその日のうちに美容院に予約を入れ、週末髪の毛を切ってもらい、月曜日の今、こうしてボブヘアになって学校にいるというわけだ。
パーマも当ててもらったが、初めてだったから上手く当たらなかったのか、もう取れかけてしまっている。
問題は美咲ちゃんだ。金曜日まで、彼女は綺麗なロングストレートヘアだったはずだ。でも、今、美咲ちゃんの髪にはふわふわとした綺麗なパーマがかかっている。
そういえば、彼女もあの話の輪の中にいたな…
華奢で色素が薄く、かわいい顔立ちの彼女にその髪型はすごくよく似合っていて…
よく分からずにとりあえず切ってしまった私とは大違いだ。自分を最大限にかわいくし、なおかつ七瀬くんのふわふわかわいいポイントもよく抑えている。
「かわいいー!」
とみんなから言われて恥ずかしそうに笑って七瀬くんを見る美咲ちゃんと彼女をにこにこと眺める七瀬くん。
お似合い以外のなにものでもない。
美咲ちゃんは、七瀬くんが好きだと有名だ。
その眩しい光景に、私は思わず目をそらした。
そんなどんよりとした私を見てか、
「何よ、芽衣子なんて妖精なんだから!」
と、りっかは焦ったようによく分からないフォローをしてくれた。
放課後、ゴミ出しをしに行ったりっかを自分の席で座りながら待つ。
教室で1人で過ごすのは、なんとなく好きだ。
今日の1日、いろんな人に髪型を褒めてもらい、結局七瀬くんの目に入ることはなかったけど、この髪型にしてよかったなと思った。
あー、そういえば明日英単語の小テストだったっけな。空いた時間に少しでもと、私はカバンから単語帳を取り出して勉強を始める。
すると、勢いよく教室のドアが開いた。
「あ、おかえりー!」
と言いながら目線をそちらにやると、バスケ部のユニフォーム姿の七瀬くんがいた。
…えっ、七瀬くん!?
「あっ、ごめん、りっかと間違えた。」
恥ずかしくて思わず小さな声でそう言うと、
「あははっ、今日林、掃除当番だったっけか!」
あっけらかんと笑いながら七瀬くんが教室に入ってきた。
全然気にしてなさそうな態度にホッとする。
「俺はねー、忘れ物。」
七瀬くんは自分の机の中をガサゴソ探ると、英語の単語帳をひらひらと私に見せた。
「あ、明日小テストだもんね。」
「そう!いつもならスルーすんだけど、稲葉先生(英語の先生)が明日8割取れなかったら3日間補習してやるってー。」
ありがたいけどー、部活がしたい!と困ったように言う七瀬くんに思わず笑みがこぼれる。
「あっ、笑ったー、津島は英語の成績いいもんな。」
ちょっと不貞腐れたような表情の七瀬くんに、あ、気分悪くさせてしまったと顔が下を向いてしまう。
「あははっ!冗談だよ!全然気にしてないし!津島は気にし過ぎ!」
いつの間にか私の目の前に来ていた七瀬くんがにこにこと私を見ている。
え、なんだろう…?
しばらくにこにこと私を見つつ、どこか迷ったような表情の七瀬くんに首をかしげる。
すると、すうっと小さく息を吸う音が聞こえて、
「髪型変えたんだな。津島の優しい雰囲気に、よく似合ってる。」
満面の笑みで爆弾を落とした。
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