煉獄の歌 

文月 沙織

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「ほう。こっちも未経験か。ということは、正真正銘、純潔ということだな。ますます面白いな」
 瀬津は、怯えを見せはじめた敬に当てつけるようにわざとらしく下品に舌なめずりすると、右手の人差し指を舐めて、わざとゆっくりとその指を敬の背後にまわす。
「あっ、な、なにするんだ! よせ、やめろ、やめろ!」
 指の行き先に気づいてしまった敬は、泣きそうになりながら拒絶の声をあげつづけた。
 瀬津の指は、躊躇ちゅうちょなく、敬の菊の蕾をもとめる。同時に、前方の若い芽を剝こうとする。敬は悶絶した。
「ひぃっ! ひっ……! やめ、やめろ、よせ、ああっ、やめ!」
 つつましく、まだまだ固い蕾を無理やりひらかせる残酷な行為は、傍観者の欲望も煽る。食い入るように凝視している男が唾を飲む音が響いてきそうだ。
「くくく。安賀の坊やを、俺のオンナにしてやったら、兄貴はなんて言うだろうな?」
 敬は憤辱のあまり気を失いそうになりながらも、男の言う言葉を想像して、あらためてぞっとした。
 安賀組組長の息子である自分が、若頭勇の弟である自分が、敵である木藤組若頭の〝女〟にされてしまったら……、これほどの不名誉はない。敬自身も男として面目丸つぶれだし、安賀組は極道世界で笑われ者になってしまう。
「や、やめろぉ」
「ん? なんて言ったんだ?」
 白々しく瀬津は聞こえないふりをして、敬の口に自分の耳を寄せる。
「やめろって!」
「ん? なになに? 気持ちいいから、もっとしてくれ? よしよし、いい子だ」
「よ、よせ!」
 瀬津の指をさらにたしかにそこに感じて、敬はほとんど絶叫していた。その声は廊下まで聞こえているはずだ。
「た、頼みます! もう勘弁してください!」
 ふたたび嶋が這いつくばるように土下座するのに、さすがに舎弟の一人も言葉を添える。
「若頭、餓鬼を苛めてもなんの得にもなりませんよ」
 主をたしなめるようにそう言った男は、角刈りにしている額の右のえぎわあたりに、刀傷をうっすらと見せている。歳は三十代前半か。匂うような男臭さに、裏の世界で生きる者の風格が滲んでいる。
「まぁ、見てろ、陸奥むつ。ちょっとばっかり躾をするだけだ。二度と生意気な口を聞けないようにな。ほうら、坊主、どうだ、ここは?」 
「ひぃっ!」
 さらに菊口を指でおかされ、敬は身体を逸らした。瀬津のもう片方の手が、上半身もまさぐりだし、器用に着ていた上着とカーディガンを脱がしていく。
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