煉獄の歌 

文月 沙織

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 やんわりとその弟の唇をよけた勇は、優しくなだめるように敬の額に接吻を落とした。
 つぎに、頬に、首に。けれど、唇にはしてくれない。
 それはいつものことだった。どれほど戯れに愛撫をほどこしても、勇がけっしてそれ以上の線は越さないように自制していることに敬は気づいていた。だからこそ、瀬津に禁忌の場所に指を入れられたときは屈辱であり、打撃でもあったのだ。勇ですら触れたことのない場所をおかされてしまった……。
(俺の身体は、兄さんだけのものだ)
 敬は目を閉じ、瀬津の記憶を振りはらうように勇の胸にしがみつき、下肢のたかぶりを相手の腰に打ち付ける。
「じっとしていろ」
 兄の声。瀬津のとは違うが、これもまた男のかもし出す色気をふんだんに含んだ、聞く者の胸に迫ってくる声である。
「あん……兄さん……」
「敬。いい子だ。……可愛い俺のじゃじゃ馬」
「はっ……! ああ……」
 敬はじきに兄の手と指によって果てしない絶頂へと昇りつめた。
 感極まり、その瞬間には敬はまた涙を流していた。
 兄の指が、やさしく頬をぬぐう。
 だが、それで終わりではないことを敬の身体は知っていた。
「いい子だ」
 ぐったりした身体を布団の上に横にされると、脚を広げられるのを感じる。敬は抵抗しなかった。
 それどころか背骨をふるわせて、これから起こることを待ち望んだ。
「はぅ……!」
 じきに、敬の感受性の源である器官は、あたたかくぬめったものに包まれる。
 敬は、覚悟を決めたように下唇を噛み、これから起こることに対抗するように、両手でシーツをつかむ。
 ぴちゃ……。世にも淫靡な音が嘘のように大きく響き、敬の五体を刺激する。
 ぴちゃ、ぴちゃ、ぴちゃ――。
 実際にはそれほど聞こえるはずのない湿った音に脳髄を焼かれる。
「あっ……、はぁ! やめ、兄さん、やめて!」
 大きすぎる快楽は怖い。
 けれど、そこで兄が動きを止めてしまったことは、敬をさらに恐怖させた。
「い、いや!」
 思わず、シーツをはなして、兄の袖にすがってしまう。
 兄は一糸乱れぬ姿のままで、憎らしいことに今もネクタイは締めたままだ。
 一方、敬は下肢は完全に脱がされ、パジャマもたくしあげられるようにされて、白い腹部も晒されている。
「俺は、敬の嫌がることはしない」
 余裕の笑みで兄は告げる。
「う、ううう」
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