煉獄の歌 

文月 沙織

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 だが、それでも、これほどに充分なまでに追い詰められても、完全に情を解放されることはゆるされぜ、敬はあまりの苦しさに悶絶していた。
 甘く切ない疼痛とうつうに脳髄も背骨も焼きつくされ、憎い男のまえで醜態を強いられ、敬は死ぬほどの辛さを味わいつづけるしかない。悪夢の世界で、生きていることを恨み、自分が男であることを切なく思った。
「あっ、も、もう!」
 しかも、どこまでも残忍な男は、敬がどうにかして理性でやり過ごそうと奮闘している様を見ながら、時折、戒められた箇所へ悪戯をほどこす。
 摘まれたり、揉まれたり、扱かれたりしたあげく、ふざけたように軽く、先を舌で舐めあげられ、敬は発狂しそうになった。
「あっ、ああん!」
 つい、あげてしまったはしたない声に男は笑みを浮かべ、敬の魂を切り刻むようなことを言う。
「もう、すっかり雌犬だな。え? 死んだ安賀の親父にこのざまを見せてやりたいな」
 そう言って、またゆるみかけてきた紐を締めなおされる。
 悔しさに敬は歯軋りした。
「な、何故だ?」
「……」
 苦し気な息を吐きだし、敬は相手に問わずにいられない。
「何故、こ、こんなことを……うっ!」
 余計な口をきいた仕置き、とばかりに右胸の突起を摘まみあげられ、痛みに敬は呻いた。
「ううっ……!」
「雌犬が。黙って脚をひろげてよがっていろ。それが、それだけがおまえの仕事だ」
 揶揄すら消えた顔は、冷酷そのものだ。
 降りそそいでくる怒りの波は敬を怯えさせると同時に、不可解さに戸惑わせもする。
(どうして……?)
 という疑問が去らない。
 たんに金のために敬を男娼として調教し、売り出すためだけにしているとは思えない。単純に欲望の解消のためだけとも思えない。瀬津から感じるのは、激しい執着と憎悪、怨恨だ。
 対立するヤクザの家の息子というだけで、ここまで異常な執念を見せるだろうか。第一、それほど憎いと思うなら、さっさと敬を殺してしまえばそれですむ話ではないか。
(畜生! なんだっていうんだよ!)
 敬のなかで、散々あたえられた理不尽な仕打ちへの恨みの炎が燃えあがる。
 ここまで、責め、いたぶられても……、いや、ここまでされたからこそ、決してがれることのない気骨が、敬のなかで火炎となって燃え上がる。やはり敬は極道の家の息子だった。
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