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二
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そのときは、多少驚きはしたが、よくあることだと聞き捨てた。そうするしかないし、俺にはどうしようもない、と思った。
だがまさにその翌日、顔を合わせた瀬津から、彼が安賀組を目の仇にする理由を聞かされ、憎しみの言葉をぶつけられたとき、俺は奇妙な〝因果〟というものを感じたのだ。
ヤクザの家に生まれたからには、背負わざるを得ない重荷というものはある。社会の道理に背を向けて生きるからには、それなりの負債は覚悟しなければならない。
だが、見たこともない瀬津の両親や姉、自殺した中学時代の同級生、亡くなった、いや殺された父、そして我が身に振りかかった病のことを思うと、俺は……甘っちょろいとは自分でも思うものの、あらためて自分が生きるということ、ヤクザとして生きるということに、限りない厭世観を持ってしまったのだ。
生きていてはいけない……。そんな女々しい想いを抱いたのは、やはり病気のせいで気が弱っていたかもしれない。
もともと、おまえも知ってのとおり、俺は妙にたまにセンチになるところがあった。自分でも笑うしかないのだが、時折、物事を哀しい目で見ている自分がいる。そんな自分を疎んじて、武道にいっそう精を出したり、やたら悪ぶってはみるのだが、それでも俺のなかに潜む気弱な寂しさがたまに出てきてしまう。
そんなところがヤクザらしくなくていい、知的に見える、と言ってくれる奴もいたが、俺はとうとうこの生まれ持ってしまった奇妙な性を克服できなかった。もしかしたら、俺の血や肉が、もともと短命に生まれたおのれの運命を悟って、人の世の哀しみを俺に知らせていたのかもしれない。
だがまさにその翌日、顔を合わせた瀬津から、彼が安賀組を目の仇にする理由を聞かされ、憎しみの言葉をぶつけられたとき、俺は奇妙な〝因果〟というものを感じたのだ。
ヤクザの家に生まれたからには、背負わざるを得ない重荷というものはある。社会の道理に背を向けて生きるからには、それなりの負債は覚悟しなければならない。
だが、見たこともない瀬津の両親や姉、自殺した中学時代の同級生、亡くなった、いや殺された父、そして我が身に振りかかった病のことを思うと、俺は……甘っちょろいとは自分でも思うものの、あらためて自分が生きるということ、ヤクザとして生きるということに、限りない厭世観を持ってしまったのだ。
生きていてはいけない……。そんな女々しい想いを抱いたのは、やはり病気のせいで気が弱っていたかもしれない。
もともと、おまえも知ってのとおり、俺は妙にたまにセンチになるところがあった。自分でも笑うしかないのだが、時折、物事を哀しい目で見ている自分がいる。そんな自分を疎んじて、武道にいっそう精を出したり、やたら悪ぶってはみるのだが、それでも俺のなかに潜む気弱な寂しさがたまに出てきてしまう。
そんなところがヤクザらしくなくていい、知的に見える、と言ってくれる奴もいたが、俺はとうとうこの生まれ持ってしまった奇妙な性を克服できなかった。もしかしたら、俺の血や肉が、もともと短命に生まれたおのれの運命を悟って、人の世の哀しみを俺に知らせていたのかもしれない。
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