黄金郷の夢

文月 沙織

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凌辱の宴 二

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 さらに極めつけは、四人の男たちが板に乗せて引いてきた小型木馬だった。
 アベルはあまりの衝撃に身体が震えてきた。
(な、なんという……。これは、なんということだ!) 
 醜悪なことに、木馬の背には、やはり淫靡な道具が備え付けられてある。
 もはやアベルは我慢できなかった。
 アベルは、まだ女性を知らなかった。
 夜の営みとは、男女の愛の行為とは、もっと神聖で清らかなものだと想像していたのだ。
 知識としては知っていても、肉体で味わったことのない未知の行為に憧れを持っていたのだ。ほのかな理想に泥をかけられた気分だ。
 汚れを知らぬ青年の純情さが、いっそうこの冒涜的な異国の宴に嫌悪感を起こさせる。
「どうだ、気に入ったか、伯爵? これはすべて今宵の花嫁であるそなたへの贈り物だぞ。ゆっくりと楽しもう」
 笑いながらそんなことを言うディオ王への憎悪と軽蔑にアベルは全身が燃えたった。
「この鈴など、なかなか楽しいぞ」
 そう言って銀の皿にある金の鈴を手に取った王は、それを二つ弄びながら、アベルの前で振ってみせる。どっ、と客たちが身をよじって笑う。
「陛下、最後の贈り物でございます」
 ハルムの声が響きわたる。
「第一側室、アイーシャ様からの贈り物でございます」
 数人の奴隷宦官たちが運んできたのは――。
 大き目の寝台であった。上には純白の絹布が敷かれてある。
「今宵の花嫁花婿への最後の贈り物でございます」
 拍手が広間じゅうに響きわたる。
(馬鹿馬鹿しい……! なんと馬鹿げた)
 唯一の救いはこれで終わりということだ。
 アベルは一刻も早くここから立ち去って、休みたい。旅の疲れでくたくたなのだ。
「では、陛下、私はこれで」
 これ以上ここにいると腹立ちでなにを言ってしまうかわからず、アベルは非礼とは知りつつも辞去の挨拶を述べようとした。
「失礼ですが、疲れておりますので、これで失礼させていただきます」
 ディオ王は黒い眉を丸めた。
「そうか。疲れておるのか。では、すぐそこに横になるがよい」
「……あの、」
「安心しろ。こういうときのために精が出る薬も贈り物のなかにはあった。さっそく使うとするか」
「あの、陛下」
 しん――と、広間は先ほどまでの馬鹿騒ぎが嘘のように静まりかえっている。
 どこか皆、獲物が罠にはまるのを固唾を飲んで待っているようだ。
「花嫁よ、そこへ横になると良い」
「あ、あの、ディオ陛下?」
 精悍な顔が悪戯っ子のようにゆがむ。ディオ王はあっさりと言ってのけた。
「さぁ、今宵は余とそなたの初夜だ。皆、待っておるぞ。衣を脱いで褥に横たわるがよい」
 アベルは数秒、開けた口を閉じることができなかった。

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