141 / 150
再開花 二
しおりを挟む
エゴイはディオ王ともある意味似ていた。ディオ王、エゴイ、フェルディナンド王という権力者たちの手のなかでアベルは弄ばれていたのだ。そこへ、彼に異常な執着を持つ下僕の想いもからんできた。
まちがってもドミンゴ自身はアベルをどうこうしたいとは思わなかったのだが、その妄想と淫夢のなかで、清らかな彼の〝王子〟を徹底的に汚したかった――というより、汚されるアベルの姿を絵に描きたかったのだという。
その狂った欲望のためなら、死んでもいい、地獄に墜ちてもいいというほど思いつめていた。
実際、彼がエゴイの罠にかかったのは、酒場で悪酔いしたあげく、おのれの主への卑しい欲望を恥じるあまり、酒屋の裏で突発的に首をくくろうとしたとき、客をよそおっていたエゴイの部下に止められたのがきっかけだったそうだ。悪魔の使者は、愚かで弱く、そして一途なドミンゴにささやいた。
そこまで想っているのなら、いっそ地獄に墜ちる覚悟で、やりたいことをやってみたらどうだ、と。
どのみちこのままなら、自分がこのさき生きていけないことも、気が狂うことも覚悟していたドミンゴは、死んだつもりでその誘いに乗ったのだという。
そして……。そうして……、悪魔たちの告白はアベルを打ちのめす。
ドミンゴはディオ王も納得のうえで、アベルの凌辱される姿を絵にすることを許されたという。
アベルの恥ずかしい姿をあますとこなく見つづけ、それを絵に描いていたという。アベルの淫らな姿を絵に残したいという考えは、ディオ王の嗜好にも合っていた。
それは芸術家のみならず、情ある人間が、美しい花や蝶のすがたを形に残して永久にとどめたいという願望に沿ったものだったのだろう。だがディオ王やエゴイのような男たちは、その美の好尚が世間一般の人よりずれていたのだ。そしてまた、そういった美を好む人間は、世間が思っているよりはるかに多かったとういことだ。
アベルが菫と呼ばれる宦官少年たちに想像を絶するいたぶりを受け、あろうことか王の側室の手によって、男として最大の辱しめを受けているところも、すべて見つづけ、絵に描きのこしていたのだという。
その絵を見せられたとき、アベルは卒倒しそうになった。
『A伯爵調教日誌――』
グラリオン宮殿に来た最初の日にあてがわれた客人用の部屋で、エゴイにその画集の表紙絵を見せられた瞬間、アベルは体温が消えていくのを感じた。
ふるえる手で紙をめくってみる。アベルは眩暈を起こしそうになった。
菫たちによって連珠を体内に挿れられ、悶えるアベル。
淫具でなぶられ、喘ぐアベル。
卵を産み落とさせられ泣くアベル。
木馬の上で身をよじるアベル。
女物の下着をまとわされて恥じ入るアベル。
悲惨ではあるが、どれも匂いたつような峻烈な色気にあふれているのは、いずれの絵のアベルも、苦しげな表情のうちに、まぎれもなく愉悦を感じていることが知れるからだ。
まちがってもドミンゴ自身はアベルをどうこうしたいとは思わなかったのだが、その妄想と淫夢のなかで、清らかな彼の〝王子〟を徹底的に汚したかった――というより、汚されるアベルの姿を絵に描きたかったのだという。
その狂った欲望のためなら、死んでもいい、地獄に墜ちてもいいというほど思いつめていた。
実際、彼がエゴイの罠にかかったのは、酒場で悪酔いしたあげく、おのれの主への卑しい欲望を恥じるあまり、酒屋の裏で突発的に首をくくろうとしたとき、客をよそおっていたエゴイの部下に止められたのがきっかけだったそうだ。悪魔の使者は、愚かで弱く、そして一途なドミンゴにささやいた。
そこまで想っているのなら、いっそ地獄に墜ちる覚悟で、やりたいことをやってみたらどうだ、と。
どのみちこのままなら、自分がこのさき生きていけないことも、気が狂うことも覚悟していたドミンゴは、死んだつもりでその誘いに乗ったのだという。
そして……。そうして……、悪魔たちの告白はアベルを打ちのめす。
ドミンゴはディオ王も納得のうえで、アベルの凌辱される姿を絵にすることを許されたという。
アベルの恥ずかしい姿をあますとこなく見つづけ、それを絵に描いていたという。アベルの淫らな姿を絵に残したいという考えは、ディオ王の嗜好にも合っていた。
それは芸術家のみならず、情ある人間が、美しい花や蝶のすがたを形に残して永久にとどめたいという願望に沿ったものだったのだろう。だがディオ王やエゴイのような男たちは、その美の好尚が世間一般の人よりずれていたのだ。そしてまた、そういった美を好む人間は、世間が思っているよりはるかに多かったとういことだ。
アベルが菫と呼ばれる宦官少年たちに想像を絶するいたぶりを受け、あろうことか王の側室の手によって、男として最大の辱しめを受けているところも、すべて見つづけ、絵に描きのこしていたのだという。
その絵を見せられたとき、アベルは卒倒しそうになった。
『A伯爵調教日誌――』
グラリオン宮殿に来た最初の日にあてがわれた客人用の部屋で、エゴイにその画集の表紙絵を見せられた瞬間、アベルは体温が消えていくのを感じた。
ふるえる手で紙をめくってみる。アベルは眩暈を起こしそうになった。
菫たちによって連珠を体内に挿れられ、悶えるアベル。
淫具でなぶられ、喘ぐアベル。
卵を産み落とさせられ泣くアベル。
木馬の上で身をよじるアベル。
女物の下着をまとわされて恥じ入るアベル。
悲惨ではあるが、どれも匂いたつような峻烈な色気にあふれているのは、いずれの絵のアベルも、苦しげな表情のうちに、まぎれもなく愉悦を感じていることが知れるからだ。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
391
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる