燃ゆるローマ  ――夜光花――

文月 沙織

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 ほぅっ、と息を吐いたのはリキィンナだった。
「すごい声ね……」
 絶頂をきわめたリィウスはあまりのことに気を失っているようだ。
「起こしますか?」
 アスクラの問いにタルペイアは首を横に振った。
「今日はこれぐらいでいいわ。あんまり苛めると、おかしくしてしまいそう。なんといっても名家の若様ですものね。あせらず、時間をかけて、じっくりと仕込んでいかないと。まぁ、でも、これは値打ちものね。この顔に、この身体。感度は充分だし、声も夢中になったときはすごいわね。これなら、全財産かけてもいいという男がいくらでも釣れそう」
 タルペイアの目が暗黒色に燃えた。それを見つめるリキィンナは頬を焦がす。
「ああ、後始末はしてやらなくていいわ。起きるまで待って、起きたら自分でさせるのよ。道具もそのままでいいわ」
 目覚めたとき、この潔癖な青年貴族は、己のありさまを自覚して、また羞恥に泣くのだろう。それを想像してタルペイアはほくそ笑んだ。
(そうよ。屈辱に泣いて、羞恥に悶えて、苦しんでもらわないと。そうして苦しめば苦しむほどリィウスは美しく男娼として花開くことになるのだわ)
 娼婦男娼となって働いているうちに、たいていの人間は感覚が麻痺してきて羞恥も恥辱も感じなくなるものだが、まれにけっして廉恥の心をなくさない者もいる。そういう人間を好む嗜虐的な客にはたまらない。
(これは、仕込みようでとんだ大物になれるかも)
 タルペイアのリィウスを見下ろす目は欲望に燃えていた。

 こうして、リィウスの柘榴荘での最初の夜が更けていった。
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