燃ゆるローマ  ――夜光花――

文月 沙織

文字の大きさ
68 / 360

新床準備 一

しおりを挟む


「いい? 下準備をするわよ」
 リキィンナがかすかに酒の臭いを振りまきながら、帳をかきわけリィウスの前に姿を見せた。
「これはね、貴重な香料を練ってつくった、特別なお薬よ」
 リキィンナの突き出した掌には、赤い玉のようなものがある。
 リィウスはふと嫌なものを感じて身をすくませた。
 すでに身体を清め、身体には香油を塗りこまれている。嫌でたまらない薄化粧も強制的にほどこされ、客をむかえる準備は否応なしに終わっていたが、さらに目の前に出された奇妙な練香は、ぎりぎりの所で踏ん張っているリィウスの神経をさらに傷つけた。
「これを……入れておくのよ」
 言葉の意味するところを察して頬が燃えた。 
「そ、そんな……」
「これを入れておくと、気持ちよくなって、楽に客を受け入れられるわよ」
 リキィンナの顔は――多少酔ってはいても――いつになく真面目で、揶揄も嘲笑もなく、それがいっそうリィウスを困惑させる。
「さ、入れるから腰を突き出して」
「……!」
 当たり前のようにあっさり言われて、リィウスは涙ぐみそうになる。
 つい、目は扉口へと向かってしまったが、そこには、いつからいたのかアスクラが控えており、きびしい目でリィウスを睨みつけている。
 逃げようがない。リィウスは震えながら、リキィンナを前にして、言われたとおり屈辱的な姿勢を取った。
 娼婦のまえに臀部を突き出している今の自分が信じられない。悪い夢を見ているようだ。
 いや、この館へ来てからの日々はまさに醒めない悪夢のなかにほうりこまれたようなものだった。
「裾をまくりあげてよ。ほら、早くして、お客が待っているのよ」
「あっ……!」
 乱暴な仕草で衣をたぐられ、リィウスはあわてた。いつになくリキィンナの動作は手荒い。
 リィウスは瞑目した。
 臀部に風を感じ、羞恥に頬が痛む。
「うっ……」
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

R指定

ヤミイ
BL
ハードです。

少年探偵は恥部を徹底的に調べあげられる

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

身体検査

RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、 選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。

  【完結】 男達の性宴

蔵屋
BL
  僕が通う高校の学校医望月先生に  今夜8時に来るよう、青山のホテルに  誘われた。  ホテルに来れば会場に案内すると  言われ、会場案内図を渡された。  高三最後の夏休み。家業を継ぐ僕を  早くも社会人扱いする両親。  僕は嬉しくて夕食後、バイクに乗り、  東京へ飛ばして行った。

カテーテルの使い方

真城詩
BL
短編読みきりです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

とある男の包〇治療体験記

moz34
エッセイ・ノンフィクション
手術の体験記

処理中です...