燃ゆるローマ  ――夜光花――

文月 沙織

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「食べていくだけなんて、嫌なんだよ」
 ナルキッソスは化粧の剥げた頬をふくらませた。いつごろからか、彼はひそかに薄化粧をほどこしていた。そういうところも陰間か色子じみていて、アンキセウスはつい蔑むような心持ちになってしまったが、召使としての習性で必死に感情をあらわさないように努める。
「……こんなことは……身体に良くないですよ」
 これは本心だった。夜毎の乱行のせいか、最近ナルキッソスは顔色が悪いように見える。もしかしたら体調が悪いのかもしれない。
(この齢で、あれほど酒やむつごとに浸っていたら、それは身体もこわすだろうに)
 嫌悪もあるが、やはり心配でもある。なんといってもリィウス不在の今、ナルキッソスはアンキセウスのゆいいつの主なのだ。
「身体をこわされたら、リィウス様がご心配されますよ。なんのためにリィウス様が苦労されているか」
「やめてよ、ここで兄さんの話なんか!」
 激しい声に、アンキセウスは口を閉じるしかない。どこかでとばりが揺れて、お香の煙が乱れる。
「あんな、優等生づらした、善人ぶった奴のことなんか、思い出したくもない!」
 ナルキッソスの苛だった声に、さすがにアンキセウスはひとこと言い返したくなる。リィウスを侮辱されるのは、やはり嫌だったのだ。
(俺も勝手だな。自分もいっしょになってリィウス様を裏切るような真似をしているというのに)
 アンキセウスがナルキッソスと肉体関係を持っていることをリィウスが知れば、さぞ怒り、悲しむだろう。リィウスにとっては、今やナルキッソスはただひとりの家族であり、ナルキッソスを守ることが自分の使命だと思っているふしがある。
(そんなに、大事に想い大切にする価値が、この子にあるのか……) 
 複雑な想いでアンキセウスはナルキッソスを見下ろす。
「とにかく、帰りましょう」
「なんだか、まだ足りない。もう一人客をつかまえるよ」
「ナルキッソス様……」
 呆れていると、背後から声が聞こえた。
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