110 / 360
三
しおりを挟む
「食べていくだけなんて、嫌なんだよ」
ナルキッソスは化粧の剥げた頬をふくらませた。いつごろからか、彼はひそかに薄化粧をほどこしていた。そういうところも陰間か色子じみていて、アンキセウスはつい蔑むような心持ちになってしまったが、召使としての習性で必死に感情をあらわさないように努める。
「……こんなことは……身体に良くないですよ」
これは本心だった。夜毎の乱行のせいか、最近ナルキッソスは顔色が悪いように見える。もしかしたら体調が悪いのかもしれない。
(この齢で、あれほど酒やむつごとに浸っていたら、それは身体もこわすだろうに)
嫌悪もあるが、やはり心配でもある。なんといってもリィウス不在の今、ナルキッソスはアンキセウスのゆいいつの主なのだ。
「身体をこわされたら、リィウス様がご心配されますよ。なんのためにリィウス様が苦労されているか」
「やめてよ、ここで兄さんの話なんか!」
激しい声に、アンキセウスは口を閉じるしかない。どこかで帳が揺れて、お香の煙が乱れる。
「あんな、優等生づらした、善人ぶった奴のことなんか、思い出したくもない!」
ナルキッソスの苛だった声に、さすがにアンキセウスはひとこと言い返したくなる。リィウスを侮辱されるのは、やはり嫌だったのだ。
(俺も勝手だな。自分もいっしょになってリィウス様を裏切るような真似をしているというのに)
アンキセウスがナルキッソスと肉体関係を持っていることをリィウスが知れば、さぞ怒り、悲しむだろう。リィウスにとっては、今やナルキッソスはただひとりの家族であり、ナルキッソスを守ることが自分の使命だと思っている節がある。
(そんなに、大事に想い大切にする価値が、この子にあるのか……)
複雑な想いでアンキセウスはナルキッソスを見下ろす。
「とにかく、帰りましょう」
「なんだか、まだ足りない。もう一人客をつかまえるよ」
「ナルキッソス様……」
呆れていると、背後から声が聞こえた。
ナルキッソスは化粧の剥げた頬をふくらませた。いつごろからか、彼はひそかに薄化粧をほどこしていた。そういうところも陰間か色子じみていて、アンキセウスはつい蔑むような心持ちになってしまったが、召使としての習性で必死に感情をあらわさないように努める。
「……こんなことは……身体に良くないですよ」
これは本心だった。夜毎の乱行のせいか、最近ナルキッソスは顔色が悪いように見える。もしかしたら体調が悪いのかもしれない。
(この齢で、あれほど酒やむつごとに浸っていたら、それは身体もこわすだろうに)
嫌悪もあるが、やはり心配でもある。なんといってもリィウス不在の今、ナルキッソスはアンキセウスのゆいいつの主なのだ。
「身体をこわされたら、リィウス様がご心配されますよ。なんのためにリィウス様が苦労されているか」
「やめてよ、ここで兄さんの話なんか!」
激しい声に、アンキセウスは口を閉じるしかない。どこかで帳が揺れて、お香の煙が乱れる。
「あんな、優等生づらした、善人ぶった奴のことなんか、思い出したくもない!」
ナルキッソスの苛だった声に、さすがにアンキセウスはひとこと言い返したくなる。リィウスを侮辱されるのは、やはり嫌だったのだ。
(俺も勝手だな。自分もいっしょになってリィウス様を裏切るような真似をしているというのに)
アンキセウスがナルキッソスと肉体関係を持っていることをリィウスが知れば、さぞ怒り、悲しむだろう。リィウスにとっては、今やナルキッソスはただひとりの家族であり、ナルキッソスを守ることが自分の使命だと思っている節がある。
(そんなに、大事に想い大切にする価値が、この子にあるのか……)
複雑な想いでアンキセウスはナルキッソスを見下ろす。
「とにかく、帰りましょう」
「なんだか、まだ足りない。もう一人客をつかまえるよ」
「ナルキッソス様……」
呆れていると、背後から声が聞こえた。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】 男達の性宴
蔵屋
BL
僕が通う高校の学校医望月先生に
今夜8時に来るよう、青山のホテルに
誘われた。
ホテルに来れば会場に案内すると
言われ、会場案内図を渡された。
高三最後の夏休み。家業を継ぐ僕を
早くも社会人扱いする両親。
僕は嬉しくて夕食後、バイクに乗り、
東京へ飛ばして行った。
身体検査
RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、
選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる