燃ゆるローマ  ――夜光花――

文月 沙織

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 以前から若いくせに酒好きで癖も悪かったが、今のメロペはいつも以上にかなり酔っているのか、足取りも老人のようにたよりない。
 この男もどこか体調に問題でもあるのではないか、とアンキセウスはする必要のない心配をしてしまう。たとえ死んでも別に気にしないような男だが、どうも今日の様子は普通ではない。
「兄さんはどうしている?」
「お前の兄か? 今ごろ娼館で、娼婦の手管で男娼としてみっちりしごかれているさ。くっ、くっ、くっ」
 ひどくいやらしい、下劣な笑みをメロペはその皮膚のたるんだ顔に浮かべる。アンキセウスは背に悪寒が走るのを感じた。
「ふーん。どんなことしているの?」
 これまた、毒のしたたるような笑みをナルキッソスは見せる。
「聞きたいか? 今日はな、尻の穴に道具を入れて奮闘していたぞ。大きい客の相手をすることもあるだろうからと、タルペイアが、少しずつ慣らしてやっていっているのだ」
「……兄さん、辛がっていなかった?」
 その表情には、案じるよりも楽しむような気配がある。清廉な兄がおとしめられ、淫蕩な虐待を受けているというのに、この異常な少年は、そこに嗜虐的なよろこびを見い出し、頬を染めて興奮しているのだ。
 ナルキッソスは、もしかしたらリィウスのことを憎んでいたのだろうか、とふとアンキセウスは思う。
 なさぬ仲の関係がうまくいくのは難しい。アンキセウスが記憶にあるかぎり、後妻のポルキアとリィウスとの関係はごく普通で、とくに確執があったとは思わないが、後添のちぞいいの連れ子のナルキッソスには、やはり周囲の対応は冷ややかだったかもしれない。だが、正嫡のリィウスと義弟のナルキッソスを同等にあつかうのは無理だろう。リィウス自身はナルキッソスを愛しているし、ナルキッソスもおもてむきはリィウスと仲睦なかむつまじくしていたはずだ。一緒に暮らしていたとき見た互いの親愛の情は……、
(あれは嘘ではなかったはずだが……)
 愛もあるが、憎しみもあるということなのだろうか。そんな複雑な家族関係も世間には多いという。
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