燃ゆるローマ  ――夜光花――

文月 沙織

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 そんな声が聞こえてきたが、それに対して聞こえたのはディオメデスの苛立った怒鳴り声だった。
 もはや、ディオメデスはリィウスを抱くことしか頭にないようだ。
 気のせいか、最近、遠目に見るディオメデスはやつれてきたように見える。
 まるで、精を吸い取られてしまったかのように。
 柘榴荘に来る客には、たまにそうなる客もいる。いや、柘榴荘にかぎらず、娼館や売春宿に来る客のなかには、完全に心も魂も娼婦に吸い取られてしまう男がいる。
 最初は金で買ってもてあそんでいた女や男たちに夢中になり、いつしか逆に心をうばわれ、魂を吸いとられ、ときには命を奪われることさえある。
 気力をなくして病に落ちたり、自殺してしまったり、金を使い果たしてしまい、そのために罪を犯し、揚げ句の果てに家庭を壊してしまったりと、さまざまな陥穽かんせいにおちいって人生を狂わせてしまうのだ。
 そんな哀れな客を肥やしにして娼館は栄え、そんな客の生き血をすすって名を挙げ、さらなる大物の客をつかまえる娼婦や男娼たちも、たしかに存在する。
 ローマにかぎらず、いつの世にもどこの国にも、そんなふうに人間の情欲や欲望をたてにして肥え太る色街というものがあり、その地に骨となって埋まる男たちがいるのだ。勿論、男たちの欲望に食いつぶされる哀れな娼婦や男娼も多い。
 いや、色街に埋まった骨の数でいうなら、身を売る側の方が圧倒的に多いものだが、そんな生贄たちの怨念にひかれたように、たまに客もまた身を滅ぼしあらたな骨となる。
(まさか……)
 まさか、とは思うが、ディオメデスはそんな愚かで哀れな客になってしまうのだろうか。そしてリィウスは、ディオメデスの血を啜り、魂を食らいつくして、伝説の男娼となるのだろうか。そんな逆転劇もたまにはあるのが、娼館という場所だ。
 そして……、ベレニケはつい、嬉しそうに金勘定をしているタルペイアを見た。
 タルペイアはそれを期待しているのではないか、という疑惑。
「どうしたのよ、そんな怖い顔をして」
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