燃ゆるローマ  ――夜光花――

文月 沙織

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 リィウスが見たら、どれほど嘆くか、などと、もう思うことすらアンキセウはしなくなっていた。ただ、ぼんやりと目の前でくりひろげられる醜悪な喜劇を見ていた。
「あれを見たら、物足りなくなったんだろう?」
「うん。たまらないよ。あんなの見たら、他のなにもかもが面白くなくなってしまったんだ」
「おまえは、いつもそうだろう」
 笑うメロペの肩に爪を立てて、ナルキッソスが餌をねだる猫のようにのけぞった。
「今度なぁ、もっと面白いことが、ウリュクセスの屋敷であるぞ」
 メロペがひどく淫猥な笑みを浮かべた。女なら背筋を寒くしたろう。
 彼はまだ二十歳になったかならないかぐらいのはずだが、その表情や動作は四十代の男のようである。この時代の四十代はもう老人だ。
 若さの瑞々みずみずしさや青春のきらめきというものが、今の彼からは微塵も感じられない。もともと、若々しさのない男だったが、最近、ひどく老けて見える。いっそアンキセウスはメロペが哀れになってきた。
「え? 本当? どんなことさ?」
 声だけは無邪気だが、ナルキッソスの表情は邪悪そのものだ。本来は美しい少年だったはずだが、今の彼を見て美しいと思う人間がいるだろうか。そんなことを思ってナルキッソスを見ていたせいか、アンキセウスは気になった。
(どうも……奇妙だ)
 メロペはともかく、ナルキッソスの変化は慣れていたアンキセウスですら訝しませるところがあった。
 メロペと二人並んでいると、ある意味この二人は似合いではないかと思うほどに饐えて、腐敗したものを漂わせている。だが、アンキセウスが気になったのは、別のことだった。
(なんだか、妙だぞ。この二人)
 ひどく……なんというのか、病んでいるような気がする。アンキセウスはついナルキッソスを観察するように目を凝らしていた。
(なぜ、今まで気づかなかったのだろう)
 ナルキッソスの様子に、違和感をおぼえた。身近にいながら今日まで気づかなかったことが、急に気になりはじめた。
(この少年は、どこか変だ)
 外見に似合わず、性格が異常に悪いことは知っていたが、どうもそういった精神的な意味だけではなく、ナルキッソスには妙なものが感じられる。
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