燃ゆるローマ  ――夜光花――

文月 沙織

文字の大きさ
182 / 360

しおりを挟む
 リィウスが見たら、どれほど嘆くか、などと、もう思うことすらアンキセウはしなくなっていた。ただ、ぼんやりと目の前でくりひろげられる醜悪な喜劇を見ていた。
「あれを見たら、物足りなくなったんだろう?」
「うん。たまらないよ。あんなの見たら、他のなにもかもが面白くなくなってしまったんだ」
「おまえは、いつもそうだろう」
 笑うメロペの肩に爪を立てて、ナルキッソスが餌をねだる猫のようにのけぞった。
「今度なぁ、もっと面白いことが、ウリュクセスの屋敷であるぞ」
 メロペがひどく淫猥な笑みを浮かべた。女なら背筋を寒くしたろう。
 彼はまだ二十歳になったかならないかぐらいのはずだが、その表情や動作は四十代の男のようである。この時代の四十代はもう老人だ。
 若さの瑞々みずみずしさや青春のきらめきというものが、今の彼からは微塵も感じられない。もともと、若々しさのない男だったが、最近、ひどく老けて見える。いっそアンキセウスはメロペが哀れになってきた。
「え? 本当? どんなことさ?」
 声だけは無邪気だが、ナルキッソスの表情は邪悪そのものだ。本来は美しい少年だったはずだが、今の彼を見て美しいと思う人間がいるだろうか。そんなことを思ってナルキッソスを見ていたせいか、アンキセウスは気になった。
(どうも……奇妙だ)
 メロペはともかく、ナルキッソスの変化は慣れていたアンキセウスですら訝しませるところがあった。
 メロペと二人並んでいると、ある意味この二人は似合いではないかと思うほどに饐えて、腐敗したものを漂わせている。だが、アンキセウスが気になったのは、別のことだった。
(なんだか、妙だぞ。この二人)
 ひどく……なんというのか、病んでいるような気がする。アンキセウスはついナルキッソスを観察するように目を凝らしていた。
(なぜ、今まで気づかなかったのだろう)
 ナルキッソスの様子に、違和感をおぼえた。身近にいながら今日まで気づかなかったことが、急に気になりはじめた。
(この少年は、どこか変だ)
 外見に似合わず、性格が異常に悪いことは知っていたが、どうもそういった精神的な意味だけではなく、ナルキッソスには妙なものが感じられる。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

完成した犬は新たな地獄が待つ飼育部屋へと連れ戻される

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

カテーテルの使い方

真城詩
BL
短編読みきりです。

身体検査

RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、 選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。

少年達は吊るされた姿で甘く残酷に躾けられる

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

ふたなり治験棟 企画12月31公開

ほたる
BL
ふたなりとして生を受けた柊は、16歳の年に国の義務により、ふたなり治験棟に入所する事になる。 男として育ってきた為、子供を孕み産むふたなりに成り下がりたくないと抗うが…?!

男子寮のベットの軋む音

なる
BL
ある大学に男子寮が存在した。 そこでは、思春期の男達が住んでおり先輩と後輩からなる相部屋制度。 ある一室からは夜な夜なベットの軋む音が聞こえる。 女子禁制の禁断の場所。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

処理中です...