燃ゆるローマ  ――夜光花――

文月 沙織

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ローマの夏夜 一

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 ウリュクセスの屋敷で宴があるとタルペイアに告げられたとき、リィウスは唇を噛んでいた。
 行きたくはない。だが、嫌と言える立場ではない。
「他にもリキィンナとベレニケを連れていくわ。コリンナ、二人にそう伝えておいで」
 命じられたコリンナはあわてて室を出ていく。
「いい? 今更だけれど、何を言われても逆らっては駄目よ。逃げようなんて死んでも考えないことね」
 椅子に腰かけたまま脚を組んでいるので、裾がひろがり、タルペイアの白い肌が見える。それを気にするような女でもなく、上半身をひねるようにして平然と化粧をつづけている。その姿からは、いかにもしゃという雰囲気がにじみ出ている。それでいて下品に見えないのは、貴族の血筋というものだろうか。
「……あの男に睨まれたら、私だって無事じゃすまないんだから」
 かすかに眉をひそめた表情から怯えがうかがい知れる。
 タルペイアのような女でさえ怖れるウリュクセスという男を、あらためてリィウスは不気味に感じた。
「でも、うまくいったら、それなりの報酬をもらえるし。まぁ……いくらなんでも殺しはしないでしょうよ。ああ、大丈夫よ」
 一瞬、リィウスはこわばった顔をしていようだ。タルペイアがめずらしく取りなすように、機嫌を取るように柔らかな声であわてて言う。
「命は奪わない。あとに傷が残るような真似は絶対しないと約束してくれたから。そうでないと、いくら私だって、あんたやベレニケたちをったりしないわ。さすがに商売人だけあって、約束したことは、あの男はかならず守ってくれるわ」
 そう言われても、リィウスの心は楽にならない。あとに傷が残らないように、ということは、多少は傷つくことは許したのだろう。本当に自分たちは商品で物として扱われるのだ。
「いい、明後日よ。心の準備はしておいてよ。ちょうど、満月の晩だわ。祭りの晩ね」
 タルペイアの漆黒の瞳が一瞬うつろに光った。



 ※ 其れ者  遊女、妓女、水商売の女のこと
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