燃ゆるローマ  ――夜光花――

文月 沙織

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異形の宴 一

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 ウリュクセスの別荘は、なかなか趣味よい造りだった。けっして派手過ぎず、豪華過ぎず、それでいて建物も庭もひそかに贅を尽くしていることが知れる。白薔薇や紅薔薇、百合、水仙が夜闇に月光を受けて妍を競っている庭をぬけ、一行は本館に入った。
 石の柱廊を進むと、他にも招かれた客たちが見え、リィウスはあわててヴェールで顔をおおった。女のようだと自嘲しながらも、知っている顔を見るのは恐ろしかった。
(私が男娼になったことは、すでに知られているかもしれない)
 ディオメデスたちが黙っていたとは思えない。ディオメデスやアウルスはともかく、メロペは口が軽そうだ。かつての学友たちのあいだに、リィウスが男娼に身を堕としたことはすでに知れわたっているかもしれない。
 気がふさぐが、歩をすすめると、石壁の下際に映える真紅が目を刺す。貴婦人の衣のようなその造りは、ポンペイレッドと呼ばれる壁面装飾だ。
 床は白、赤、緑、黄金こがね色にかがやく大理石に埋めつくされている。白亜にひんやり光る列柱廊を進んでいくと、雨水貯めが見えてきた。中庭に面する広場でたむろんでいる客たちに、奴隷がせっせと酒や料理を運んでいる。
 客は三十人ほどだろうか。列柱に囲まれた中庭に当たる場所に集まっている彼らの前には、半月型の舞台のような場所が見える。月明かりに、雲母うんも大理石の床が妖しく光っており、そのなめらかな石床の上で、二人の剣闘士が戦っていた。
 彼らの剣がはなつ光と音が、リィウスの目と耳を刺激した。
「あら……、あれって」
 サラミスが首をかしげた。
 目を凝らすと、革の武衣をまとった剣士たちがかなり小柄なのがリィウスにもわかった。
「一人は女ね……」
 リィウスはタルペイアの言葉にうなずいた。
 あえて分厚い甲冑を身につけていないことで、女であることを客に強調しているのだろう。対戦相手も同じような軽装だ。リィウスはさらに目を凝らしてみた。
 ここからでも身体付きで一人は女人だと判断できるが、……彼女の敵はかなり背の低い男だった。
「ああ、女戦士と小人ね」
 納得したようにベレニケが言う。
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