燃ゆるローマ  ――夜光花――

文月 沙織

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 アウルスは伸びて来た女の手をやんわり振りはらった。
 招かれて、来てはみたが、すぐにうんざりした。脂粉しふんの匂いが鼻につく。裕福な家庭の人妻らしき女が、しきりと秋波を送ってくるが、無視した。
 吹き抜けの広間では、客同士、寝椅子のうえで戯れあっている者もいれば、屋敷の主が用意した娼婦や男娼と床でふざけあっている客もいる。
 最近こういった乱れた淫靡いんびな宴が流行っていることは聞いてはいたが、少しも楽しいとも面白いとも思わない。
(つくづく腐っている……)
 自分がこんな潔癖そうなことを思っているのも奇妙だが、アウルスはもともと固い方だったのだ。ディオメデスやメロペのような悪友と出会い、かなり羽目を外すようなこともしてきたが、心の内はいつもどこか冷めていた。そんな自分を隠すようにして無理に遊んだり、馬鹿な真似をしたりもした。
 何故、己をいつわり隠さねばならないのか。自問してみると、心の底にはひとつの小さな火が燃える。
「おお、アウルス、おまえも来たのか?」
 声をかけてきたのはメロペだった。そばには小柄な金髪の連れがいる。どこかで見たことがある、と思ったらリィウスの義弟のナルキッソスだ。顔を見たことは幾度かあるが……、
(なんだか妙だな)
 咄嗟に頭にひらめいたのはその一言だった。
 ナルキッソスは悪戯っぽく笑うと、薄紫のヴェールで顔を覆うようにする。そんな仕草もどこか女のようだが、アウルスが気になったのは……。
(以前に見かけたときより……なんというのか、歳を取ったような。老成したということか? いや、ちがう……)
 毒を秘めてはいても、かつてのナルキッソスは、その毒を見事に隠しおおして、その姿を見た者なら誰もが認めずにはいられない美少年だったが、今の彼を見て、はたして美しいと感じる人間がいるだろうか。姿形が変わったというのではないが、雰囲気に違和感があるのだ。
 アウルスは複雑な感慨を持ってナルキッソスとメロペを見比べた。
(ナルキッソスだけでなく、メロペも変わったような)
 アウルスの凝視に気づいて、メロペが眉をひそめた。
「なんだ? そんな不思議そうな顔をして。俺の顔に何かついているか?」
「いや……、その、おまえ、かなり太ったのではないか?」
 もともと小太りな質だったが、しばらく顔を見ないうちに、贅肉がかなりついてしまったメロペの姿を観察して、あらためてアウルスは奇妙なものを感じた。
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