燃ゆるローマ  ――夜光花――

文月 沙織

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「それは、女に使うものじゃないのかい?」
 ウリュクセスはエリニュスの手にある淫らな道具を見て、好色そうに目を細めた。
「そうよ。でも、今回は、この二人に使わせてやろうと思っているのよ。お互い楽しめるようにね。ふふふふふ」
 想像して、リィウスは悲鳴をあげそうになった。
「それは、それは。しかし、リィウスはともかく、トュラクスは楽しめるのかい?」
 ウリュクセスは苦笑いを見せる。柘榴荘で男娼として教育されたリィウスとちがい、歴戦の剣闘士であり、逞しく男らしいトュラクスが、その道具を受け入れることができるのか、という好奇心と疑問が顔に浮かんでいる。
「あら、大丈夫よ。ここへ来てから、少しずつ練習させてきたもの」
 その言葉に、かすかにトュラクスの顔がこわばり、リィウスは顔をうつむけた。トュラクスもまたすでに彼らの毒牙にかかり、男の操を傷つけられていたのだ。リィウスはおのれの不幸も忘れて、彼のために涙ぐんだ。
「さぁ、明日の宴でおまえがちゃんとやれるように、やり方を教えてあげるわ」
 かすかに抗う素振りを見せたが、トュラクスは、熱いものを飲みくだすようにして、こらえるように目を閉じた。そんな彼をはさむようにして二人の私兵が、道具を彼に取りつけはじめる。今のトュラクスは、縛り首にされるのを待つ死刑囚の気分だろう。剣や弓矢を向けられても、うろたえることなどない男の額に汗が光っている。
「おい、おい、ちょっと待ってくれ。いくらなんでも、それはひどいだろう? これを塗ってやるといい」
 口をはさんだ男をエリニュスは鬱陶しそうに睨みつける。
「いいじゃないか。こわしてしまっては元も子もない。カニディア、塗ってやるといい」
 ウリュクセスが取りなすよう言い、許可を得た男は、みずからトュラクスの背後にまわった。
「うう……」
 今もトュラクスの足には動きを封じるための重しがつなげられており、逃げることも逆らうこともできず、カニディアという中性的な響きの名をもつ男によって、潤滑剤を中心に塗りこまれてしまう。
 男に繊細な箇所をさわられ、トュラクスはさすがに堪らなくなったようで声をあげた。
「よ、よせ!」
「じっとしていろよ。……ああ、素晴らしい筋肉だな。こんな男らしい男にこんなことするなんて、エリニュス、あなたは残酷な女神だ」
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