燃ゆるローマ  ――夜光花――

文月 沙織

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崩壊 一

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(なんだ?)
 アウルスは、一瞬、目を見張っていた。
 舞台となる中央にあらわれたものから、黒い布が剥ぎ取られたかと思った瞬間、かわりに薄紅のしゃが張りめぐらされたのだ。
 ちょうど、中央を皆の視線からかくすように四角の形に、淡い桃色の霧のような薄布が張りめぐらされ、一瞬、見えるか、と思ったものを巧みに隠してしまった。
 だが、薄い布のむこうに影がうごめくのは判った。それが生きているものであることも、おぼろに人らしき形をとっていることも。
 以前、下町で似たような妖しげな見世物を見たことがある。見えそうで見えないように薄幕を張った粗末な舞台でおこなわれていたのは、両脚のない女と腕のない男の情事だった。余分な金を出した客だけが幕の向こうを覗けるという仕組みになっており、つい好奇心からそれを見たアウルスは、眉をしかめた。
 アウルスには不快感しかもたらさなかったが、それを面白がって見る客もいた。追加料金を払ったものの、最後まで見ていられずアウルスは店を出たが、その後もなんとも後味悪い思いをしたのは、舞台の男女が、そういった見世物にされるべく、故意に奇形の身体にされたという事実だ。
 人権への意識がきわめて薄かったこの時代には、珍しくもなかった。
 生まれた赤子があきらかな奇形であれば、抹殺されることが法で定められていた時代である。常の身体とちがっている赤子が運良く生き延びることができたとしても、金持ちの館で道化として飼われるか、見世物にされるようなことが当然のように行われていた時代である。
 一瞬、アウルスも、そんな類の見世物かと勘ぐったが、やがて薄紅の幕をとおして、向こうで何がおこなわれているか、わかってきた。
 かすかに耳に聞こえてくる、喘ぎのような声と、にじみでてくる熱気、ほのかに伝わってくるような体温に、紗の向こうでおこなわれていることが、はっきりと察知できた。
 これも情事のひとつだろう。
(あっ、ああ……、あああっ!)
 はっきりと、声が耳に聞こえてきた。聞き覚えのある声である。
 薄い影は、確かにケンタウロスを思わせる。
 大柄な男が四つん這いになり、その上に別の人間が馬乗りになっているのだ。腕は後ろ手で縛られているのか。頭上で吊り上げられているようにも見える。
 淫靡で、下劣な見世物だ、と思う一方で、ひどくそそられる。
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