燃ゆるローマ  ――夜光花――

文月 沙織

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 真顔で訊かれてディオメデスは困惑した。
「気づいていないのですか? あなたの御友人の顔を思い出すといい」
 数秒考えて、思いいたった。
「メロペか?」
 カニディアは笑ってうなずく。
「そう。彼はあなたが飲むはずだった毒杯を受けとり、哀れにも愚かにも地獄への道につきすすんでいるのですよ。もはや、すっかり毒に脳も身体も犯されている。あなたにも罪があるのですよ。あなたにまったく振りむいてもらえないマルキアが、腹いせに、あなたの友人であるメロペに毒を与えつづけたのです。すでに毒は脳まで来ているはずだ。彼もまた遅かれ早かれ破滅するでしょうよ」
「ど、どうやって毒を飲ませたのだ?」
「簡単ですよ。あの女はメロペをこっそり呼び寄せているのですよ」
 ディオメデスは驚き呆れた。この場合の「会う」という言葉は、メロペと身体の関係を持っていることを意味している。有夫の身でありながら、夫と、義理の息子である自分が住む邸に、あろうことかその友人を呼びよせ、毒を飲ませていたとは。
「そんなことをして何の益があるのだ?」
「益になろうが、なるまいが、どうでもいいのですよ。ほんの気晴らしに、遊び半分で男を誘惑し、毒を飲ませ、若い命を弄んで、それを酒のつまみにしてよろこんでいるのですよ。覚えておくといいですよ。あの女にとったら一人の若者の心身を破壊させることなど、実に容易たやすいことなのです。あなたは賢明だから、あの女の手管てくだに落ちることもなく、距離を置き、徹底的に無視してきた。たいしたものですよ。感心しているのです」
 最後のひとことを真面目な顔で告げられ、ディオメデスは苦く笑った。
「嫌いなのだ、あの女。虫が好かないというか……。それに、なんといっても父の妻だ。家の食事はかならず奴隷に毒見をさせていたし、料理人や召使には信用できる者を選び、あの女の手の者は俺の棟には絶対に入れないようにしてきた」
 カニディアは目を丸めた。
「本当に賢いですね。だが、あなたを意のままに出来ない怒りを、あの女は他の男たちに向けているのですよ。トュラクスやリィウスにね」
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