燃ゆるローマ  ――夜光花――

文月 沙織

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滅びと再生 一

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「早く来なさいよ、愚図!」
 エリニュスが、乱暴にトュラクスの首にかけている縄を、駄犬にでもするようにしてひっぱる。
「エリニュス、こうやって全員で逃げるのは無理だ。もったいないが、トュラクスは置いていこう」
 煙の臭いに顔をしかめながら、ウリュクセスは、さも無念そうに言ってから冷たい目を、リィウスに向けた。
「だが、リィウスは手放せない。これは、まだまだかなり稼がせてくれそうだからね」
 リィウスはその言葉に屈辱を感じる余裕もなかった。
 いったい、何が起こったのかまだ把握できない。いきなり、武器を持った男たちが乱入してきたかと思うと、客同士で斬り合いをはじめ、屋敷じゅうが騒然となり、ウリュクセスにかされるままに廊下を進み、こうして地下へ逃げようとしているのだ。
 周囲にはウリュクセスの私兵たちが四人いるが、彼らの顔も青ざめ、緊張感に張りつめている。そこへ焦げ臭いにおいと、息苦しいほどの熱気が迫ってきたのだ。
 ナルキッソスの姿は見えないが、どうにかして一人逃げたのかもしれない。あんなことがあっても、ついナルキッソスの心配をしている己の間抜けなほどの人の良さをリィウスは笑いたくなった。
「まったく、あの狂人連中がここまでするとはな。不穏な動きがあるのは知っていたが……よもや皇帝の命を狙うとは」
 皇帝……。リィウスは小さく息を飲んでいた。では、客のなかに皇帝がいたのか。こんなところへお忍びで来ていたとは。
「地下には抜け道がある。そこから外へ行けるだろう。だが、もうトュラクスは置いていけ。彼を連れて逃げ出すのは危険だ」
「いやよ!」
 我が儘な子どものようなことを言うエリニュスを、ウリュクセスが睨みつけた。
「手負いの獅子を連れていくようなものだ。無駄な時間を食うだけだぞ。おい、マヌグス、トュラクスはそこへ縛りつけておけ」
 私兵のひとりが命令にしたがおうとすると、エリニュスはけたたましげに叫んだ。
「いやよ、いや、いや! 絶対に駄目よ」
 気に入りの玩具を取りあげられそうになった幼女のようだ。
「我々の命がかかっているんだぞ」
 ウリュクセスの声は苛立っている。
「いやよ、手放すぐらいなら……、剣をお貸し!」
「おい!」
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