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水晶の燃える夜 八

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「イハウ様、それならば、ここ、この紐を引っぱってみてください」
 ハジルはサイラスの腰の銀輪に結びつけてある紐の玉を指さした。

「ここか?」

 イハウがその真紅の結び玉のところをひっぱてみると、サイラスが声をはなった。
「あっ、ああ!」

「こちらがわ、左の紐先をひっぱると、後ろが、右がわをひっぱると、前が動くようになっております」

 ハジルの説明にイハウはうなずき、太い指で順番に引っ張ってみる。

「ひぃ……! うう!」
 もどかしげに、悔し気にサイラスがうつむけた顔を振っている。裸足の足で石床を踏みしめ、全裸にされるよりも惨めで淫らなかっこうで、顔を真っ赤にして、悶えたくなるのをどうにかこらえている様子はたまらなく嗜虐的だ。
 
 なまじ自由な手はやり場もなく、腰のあたりでひたすら握りしめている仕草が、華奢に見えても男性的で、サイラスの倒錯的な美を高め、その強情そうなところを突き崩してやろうという加虐者の欲望をますます煽る。実際、はりつめて踏ん張っているようなサイラスの手足を見るイハウの双眼からは情欲の黒い液がしたたりそうだ。

「ふふふふふ……。サイラスよ、自分でこっちを引っぱってみぃ」
「……!」

 イハウは肩を震わせているサイラスの手をとり、むりやり紐をにぎらせる。
「そうじゃ、ここじゃ、これを、こう、な……」 

 無残にも、自慰にも似た動作を、数人の憎むべき人々のまえで強要するのだ。

「あ、ああ! いやぁ、いや、こんな、こんなっ」
 元来、高潔で、自身の問題からも人一倍性的なことに禁欲的だったサイラスの奥ゆかしい心身は、この責めに裂けてしまいそうだった。サイラスは立ったままほとんど失神しているようだ。ダリクは息を飲んだ。

「はっ、ああ……!」
 紐のうごきに連動して、前部の異物がサイラスの体内で騒ぎたてているのだろう。

「ほれ、こうじゃ、もっと引っぱれ、こう、後ろや前へとな」

 引っぱり方によって角度や緩急が変わるらしく、サイラスは、耳朶みみたぶまで真っ赤になって、いや、いや、と天をあおいで苦痛の吐息をはなつ。

「はあ……ん。ああ……ああ……ん」
 意識をほぼ失くしてあられもない声をあげはじめたサイラスを面白そうに見ながら、ジャハギルが嘲りの声をたてた。

「んまぁ! なんて淫乱なのかしらねぇ? 場末の娼婦や男娼だって、もうちょっとは慎みっていうものがあるわよ。そうでしょう、マーメイ?」
 話を振られたマーメイは苦笑する。

 ジャハギルとは趣味や嗜好が共通しており、長いつきあいだが、彼にはマーメイ以上に粘着質なところがあり、とくに今のように素性ただしく、しかも美貌の相手を攻撃するときはその辛辣さが高まる。

 それは、ときにマーメイですら辟易するときもあるが、最高の責め具となって場を盛り上げてくれる。高貴な血筋の貴人が、身分も低く、外見もどこか特異で人から蔑まれやすいジャハギルのような男にいたぶられ、苛められる図が、ひどく嗜虐的な絵となって、見る者の心を昂ぶらせるのだ。

(そうよ……、もっと残酷になってちょうだい、ジャハギル)
 マーメイは貴婦人のように、孔雀の羽でつくった扇で笑みをかくしながら、そんな残忍なことを期待していた。

 美しく高貴なものが、醜く卑しいものに破壊される。これほど魅力的な展開があるだろうか。攻めるものが浅ましく下品であればあるほど、責められるものの高貴さ、気高さが際立つものだ。この場ではジャハギルが一番の攻め役だろう。

 自分で思うのもなんだが、マーメイは娼館の女主としての己の器量や貫録を自認している。美貌もなかなかのものだとうぬぼれもある。リリはもと貴族の出で賢く美しい。ディリオスももとは宮廷付きの兵で出自は悪くなく、また理性が勝っているところがあるので、今ひとつ〝下郎〟の役に向かない。サーリィーは小心で、口がきけない。イハウは御大臣で、大物であり、もとは貴族の家の出で、やや不適である。ハジルは職業的な欲求の方がつよく、性的なことについては淡泊そうで、これも責め手としての適性はない。

 ダリクを最初にサイラスにあてがったのは、間違ってはいなかったと思うが、時折浮かぶ彼の冷めた表情を見ていると、凌辱者としては迫力に欠けるとマーメイは分析している。

(ドルディスは、かなり刺激をくれるわね)
 かつての召使に嬲られる屈辱に耐えるサイラスの顔はなかなか見ものだった。またマーメイが見るところ、ドルディスはかなり強欲で性格も悪そうだ。これは、マーメイにとっては良い手駒となる。

 だが、サイラスに徹底的な屈辱を与えるのは、やはりこの場ではジャハギルが一番だろう。ドルディスの情欲にまみれた手や、ダリクの冷たい視線はそこそこ香辛料を効かせてくれそうだが、本番はやはりジャハギルを当てにしよう、とマーメイは娼館の主として、なかなか計算高く考えていた。

「見てごらんなさいよ、こんなちっちゃいもんでも、やっぱり男なのねぇ」
 ジャハギルが忌々し気に、少年のような象徴を指ではじく。
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