紅蓮の島にて、永久の夢

文月 沙織

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攫われた花婿 一

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 背が揺れている気がする。
 ひどく不安定な感じがして、アレクサンダーはまだ自分が夢の世界にいることを自覚した。寝入りばなのような、半覚醒の状況なのだ。
 やがて耳に足音が入ってきた。
 コツコツコツ、という足音だ。子供や女性ではなく大人の男のものだと直感した。
 一人ではない。複数のようだ。大勢でもなく、二、三人というところか。
(うまくいったか?)
(問題ない。思っていたより簡単だった。身体にも支障はないはずだが、二、三日は安静にしておいた方が良いだろう)
 ここは病院なのかと、ぼんやりとした意識のなかでアレクサンダーは考えた。
 そういえば、かすかにアルコール消毒の匂いもする。
 自分が寝かされている場所からすぐ近く、手が触れそうなところに人の気配がした。
(医師か……?)
 自分は怪我をしたのか、もしくは病気なのか。
 少しずつ記憶がよみがえってきた。
 教会での結婚式の鐘の音、純白のドレス姿のアディーレがはにかむように笑う。祝福の言葉を述べたカールは笑顔だったが、茶色の目はいつになく翳を秘めていた。それから、グラスのたてる音、紳士たちの笑い声、淑女たちのさんざき……そして叫び声、銃声、それから……起こった銃撃戦、視界に入った死体、そして……それから……。
「着くにはあとどれぐらいかかる?」
 今度は先ほどよりはっきりと聞こえた。
「もう三日ぐらいだ」
「もう少し薬を与えたおいた方がいいかもしれないな」
 どちらかの声に聞きおぼえがある気もする。
「それから、例の薬も。今から少しずつ始めた方がいいな」
「楽しみだな」
「君はな。しかし、患者には相当の試練だろうな」
 くっ、くっ、くっ……。押し殺したような笑い声。
「先生、あんたが今更そんなことを言うのか?」
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