51 / 225
罪の子 一
しおりを挟む
この言葉も意外だった。竹弥たちの大学は、比較的富裕層の生徒が通っており、地方から上京している生徒たちも、たいていは裕福な家の子弟だ。開耶も金に困っているようには見えなかった。アルバイトする生徒も多いが、たいていは自分の為に使うか、生真面目な者なら貯金している。
苦学生もいることはいるが、世界が違うとでも言わんばかりに、彼らの方からはあまり竹弥には寄ってこない。学生でも、やはり人は似た者同士がつどうものだ。
だから当然、文学サークルなどという気楽な会に入っている開耶も、生活の心配などない恵まれた育ちの人間だと思い込んでいたのだが。
思えば、開耶が誘われてもあまりなびかないのは、交際費を節約しているからだろうか。
「痩せているのに、よく食べるね」
竹弥は言葉をえらびつつ、気になることを訊いてみた。
「君って、生まれ育ちは都内かい?」
「んん」
口に入れているものを強引に飲みこんで答えようとする開耶の仕草は、まるで子どものようで、竹弥はつい微笑してしまう。
「……生まれたのは横浜ですけど、中学にあがるときに親が荻窪へ引っ越して。以来東京です」
「横浜か、いい所だろうね」
東京からはそう離れていないが、竹弥はまだ行ったことがない。京都や大阪へは父や兄に連れられて行ったことはあるが、どういうわけか横浜へは行く機会がなかった。
「まぁ……、東京とは違った良さがありますよ」
「今は一人暮らしなんだよね?」
「十六のとき家出同然に、お袋のもとを飛び出したんで」
子どものように、オムライスの上の焼き卵を突きくずしながら、開耶がまたいたずらっぽく笑う。
開耶のような美少年の唇から〝おふくろ〟というくだけた言葉が出るのが、また妙に微笑ましい。少年が、大人になろうと急いでいるようだ。自分もときにそんな態度を取っているのだろうか。竹弥はふと我が身をかえりみる。
「家を出てからは一回も帰ってないんですよ」
「へえ……、それじゃ、お母さん心配しているんじゃないか?」
苦学生もいることはいるが、世界が違うとでも言わんばかりに、彼らの方からはあまり竹弥には寄ってこない。学生でも、やはり人は似た者同士がつどうものだ。
だから当然、文学サークルなどという気楽な会に入っている開耶も、生活の心配などない恵まれた育ちの人間だと思い込んでいたのだが。
思えば、開耶が誘われてもあまりなびかないのは、交際費を節約しているからだろうか。
「痩せているのに、よく食べるね」
竹弥は言葉をえらびつつ、気になることを訊いてみた。
「君って、生まれ育ちは都内かい?」
「んん」
口に入れているものを強引に飲みこんで答えようとする開耶の仕草は、まるで子どものようで、竹弥はつい微笑してしまう。
「……生まれたのは横浜ですけど、中学にあがるときに親が荻窪へ引っ越して。以来東京です」
「横浜か、いい所だろうね」
東京からはそう離れていないが、竹弥はまだ行ったことがない。京都や大阪へは父や兄に連れられて行ったことはあるが、どういうわけか横浜へは行く機会がなかった。
「まぁ……、東京とは違った良さがありますよ」
「今は一人暮らしなんだよね?」
「十六のとき家出同然に、お袋のもとを飛び出したんで」
子どものように、オムライスの上の焼き卵を突きくずしながら、開耶がまたいたずらっぽく笑う。
開耶のような美少年の唇から〝おふくろ〟というくだけた言葉が出るのが、また妙に微笑ましい。少年が、大人になろうと急いでいるようだ。自分もときにそんな態度を取っているのだろうか。竹弥はふと我が身をかえりみる。
「家を出てからは一回も帰ってないんですよ」
「へえ……、それじゃ、お母さん心配しているんじゃないか?」
0
あなたにおすすめの小説
ふたなり治験棟
ほたる
BL
ふたなりとして生を受けた柊は、16歳の年に国の義務により、ふたなり治験棟に入所する事になる。
男として育ってきた為、子供を孕み産むふたなりに成り下がりたくないと抗うが…?!
鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる
結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。
冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。
憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。
誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。
鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。
屈辱と愛情
守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。
禁断の祈祷室
土岐ゆうば(金湯叶)
BL
リュアオス神を祀る神殿の神官長であるアメデアには専用の祈祷室があった。
アメデア以外は誰も入ることが許されない部屋には、神の像と燭台そして聖典があるだけ。窓もなにもなく、出入口は木の扉一つ。扉の前には護衛が待機しており、アメデア以外は誰もいない。
それなのに祈祷が終わると、アメデアの体には情交の痕がある。アメデアの聖痕は濃く輝き、その強力な神聖力によって人々を助ける。
救済のために神は神官を抱くのか。
それとも愛したがゆえに彼を抱くのか。
神×神官の許された神秘的な夜の話。
※小説家になろう(ムーンライトノベルズ)でも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる