翠帳紅閨 ――闇から来る者――

文月 沙織

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紫縄遊戯 七

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 それでも、その真珠色の前歯が、堕落していくおのれ自身を戒めるように、時折唇を噛む様子はなまめかしいの一言である。
「うう……ん」
 だが、どれほどあがいたところで、二十歳の春のさかりの肉体はもろい。
 若い身体は、心より一足先に敵の手に落ち、逆に主を追い詰めてくる。
 はらりと、下肢を嬲っていた紐の一本が落ちたことに竹弥は気づいた。
「はぁー!」
 全身が跳ねたのは、とうとう杉屋が、後ろの花まで侵略してきたせいだ。
 指を一本入れられ、竹弥は絶叫した。
「ああっ、ああっ、あああっ!」
 すでに幾度かそこをいじられてはいたが、やはり、慣れることなどできない。
 男にとって、許してはいけない禁忌の場所をおかされる恐怖に竹弥は身悶えした。
「や、やめろぉ……!」
「怯えるな。……指一本ぐらい、もう平気だろう?」
「ううう……」
 竹弥が首を横に振るたび、白いうなじや鎖骨に玻璃をくだいたような汗が散る。
 竹弥の屈辱と怒りのにじんだその粒が、皮膚に当たれば、当たった方も傷つき血が流れそうだが、それで物怖ものおじするような男では、杉屋はない。
 杉屋の舌は、よろこんで竹弥の項を舐めあげ、銀色の汗粒を丹念に吸う。
「うう……ん!」
 頬をつたう、終わることのない竹弥の涙も吸いとっていく。
 これから竹弥が流す汗も涙も……恥ずかしいしたたりも、すべてこの男の舌に吸われていきそうだ。竹弥の燃えるような憎悪も怒りも哀しみも、すべてこの男は受け取って、吞み込んでいくつもりなのだろう。
 竹弥は、自分が本当に杉屋宗司という男の所有物になってしまいそうな恐怖に眩暈めまいがした。
 だが、意識はさえざえとして、身体が受ける感触を自覚せずにはいられない。
 しかも、今やもう、竹弥は凌辱行為をただ受け身で過ごしているだけではないのだ。
「はぁ……」
 背後の異物感はいつしかやわらぎ、そうなると、後ろからくる刺激も竹弥をますますそそのかす。
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