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知己 一

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「お、おまえは……!」
 目の前にあらわれた相手を一目見て、サルドバは驚愕に身体をふるわせた。次に、今の己の不様な状況を見られることに激しい羞恥をおぼえる。
「お久しぶりです、将軍」
「な、なぜおまえが? し、死んだのではなかったのか? た、たしか去勢手術が失敗して、昨日亡くなったと……」
 相手は涼やかな黒い瞳で、驚いている美丈夫を見つめかえす。
「はい。……地獄から戻ってまいりました」 
 そこにいたのは、小姓のアラムだった。
 ラオシン王子の忠実な小姓だったが、彼を裏切り王についたため、ラオシンからは忌まれた。だが、尚ラオシンを慕って、彼の側にいるために去勢処置を受けて宦官となる覚悟を決めたのだと聞いていたが、不幸なことにその処置は失敗し、哀れにも亡くなったと聞いたのが昨日のことだ。
 それを聞いたサルドバは後味が悪く、酔って屋敷に帰り、そのまますぐ眠ってしまい、気づいたときにはこういうことになっていたのだ。
「死んではいなかったのだな」
 羞恥も屈辱もわすれて確認するサルドバに、アラムは悲し気に笑ってみせた。
「宦官になることはできませんでした。もう、ラオシン様のおそばにお仕えすることもかなわず……こうしてここへ来たのです」
「アラム、こっちへ来い」
 タルスに呼ばれてアラムはうっすら琥珀色の頬を赤く染めて、静かに歩みよって来る。その様は妙齢の乙女のようだ。だが見た目はいたって物静かなその少年が、実はその内に激しい想いを秘めて主ラオシンを見ていたことをサルドバは知っていた。
 アラムはサルドバのすぐまえに立った。いつものように額には飾り布を巻き、簡素な生成り色のお仕着せの衣をまとっているが、近くで見れば見るほど美しい少年だと思わせる。
 相手からもじっとりと舐めあげるように身体を見られ、サルドバは背に汗が走った。
「将軍、いい格好ですね。いつも武衣に身をつつまれ、剣をたずさえ馬にまたがられていたあなたが……、今はそんなお姿で私のようなものをまえにすべてをさらけだされて」
 言うや、アラムを細い指をのばしてサルドバの中心を飾る銀の繊毛せんもうを幾本かひっぱった。
「よ、よせ!」
「ふふ。逞しい身体ですね」
 ほっそりとした手がサルドバの胸を撫であげる。サルドバはどうにか身をよじろうとしたが、むなしく鎖を揺らすだけだった。
「ああ、可愛いな。ここも、こんなに感じて。やっぱり凄いものですね」
「よ、よせ」
 肉体の中心の先端を摘ままれ、サルドバはうろたえた。タルスがにやにやしながらその様子を見ている。
「な、なぜ、こんなことをする? 俺に恨みでもあるのか?」
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