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第24話 色褪せる約束と、動き出す未来
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気づけば、心の中で何かが剥がれ落ちていた。
セリーヌは、ライナルトに向けていた想いが――静かに、けれど確実に、薄れていくのを感じていた。
どこか、遠くから自分を見ているような不思議な感覚だった。
空いた隙間に入り込んできたのは、新しい世界への好奇心。
ランベル国の妃や側室たちとの交流は、彼女の視野を広げ、他国の文化や人々への関心を育てていた。
(知らなかったことを知るって、なんて面白いのかしら)
外務官室での手伝いも、ただの“補佐”ではなくなっていた。
やりがいがあり、学ぶことがあり、何より――自分が必要とされている。
それが、思いがけないほど嬉しかった。
一方で、ライナルトとの関係は……。
(これからも、会えない時間ばかりが続くのなら……)
想像は難くなかった。
結婚しても、彼は任務に追われ、連絡すらままならない日々が続く。
いざというときに伝えたいことが、また届かないのだとしたら――それは、自分が望む未来ではない。
(……もう、“待つ”だけの人生なんて、嫌)
その思いを胸に、セリーヌは学園の授業が終わったあと、進路指導をしている教師のもとを訪ねた。
「先生、あの……卒業後の進路について、伺いたいのですが……外務官を目指すには、どうすればよろしいのでしょう?」
教師は驚いたように目を瞬きながらも、すぐに真剣な表情に変わった。
「外務官か……ちょうど、次の試験が二ヶ月後にあるよ。筆記試験と、面接。学園での成績も加味される。あとは、外国語での応対力も必要だな。君なら、語学は問題ないと思うけどね。」
「……ありがとうございます。挑戦してみたいです。」
頭を下げると、胸の奥に小さな炎が灯るのを感じた。
その足で、王宮へ向かい、外務官室の扉をノックする。
中にいたのは、いつものように執務に目を通していたシモン。
セリーヌは、まっすぐに彼を見て口を開いた。
「シモン様。……わたくし、外務官試験を受けてみようかと考えております」
「……ほう」
「今回、他国の方々と接して、ますます異文化に興味が湧きました。ただ、興味があるだけでは通用しない世界だと思って……けれど、それでも挑戦してみたくて」
その言葉に、シモンの瞳がわずかに揺れた。
(彼女が、そちらの道を選ぶとは……)
ライナルトとの婚約がある以上、セリーヌと自分が肩を並べる未来など夢物語に過ぎないと思っていた。
だが今、彼女自身が“歩む意思”を持って、その扉を叩こうとしている。
「セリーヌ。外交に最も必要なのは、君の言う通り“興味”だよ。相手の国を知ろうと思わなければ、交渉も交流も、何も始まらない。……嬉しいよ。外務官を目指してくれることも、ずっと一緒に働けるかもしれない未来も。」
そう言って、シモンは、ふっと笑った。
普段は厳しく結ばれている眉間、冷たい光を帯びた眼鏡の奥の瞳――その表情が緩んだとき、どこか見覚えのある温かさがあった。
思わず、セリーヌは吹き出してしまう。
「ぷっ……フフフ、ごめんなさい」
「ん? 何か、おかしなこと言ったか?」
「いえ。……笑った顔が、アレクサ様とそっくりで。まるで少年のように、可愛らしかったですよ」
「“可愛らしい”など、生まれてこの方、言われたことがないな……」
シモンは苦笑しながらも、どこか嬉しそうにその言葉を受け取った。
「でも……セリーヌに言われたなら、悪くないな」
二人は、静かに、けれど確かな笑みを交わした。
――
その夜、セリーヌは屋敷に戻ると、父サミエルに話す時間を願い出た。
暖炉の火がぱちぱちと音を立てる書斎。
父の前に正座し、まっすぐに目を見つめて告げた。
「お父様。……もう、待つだけの人生はやめました。わたくしは、わたくし自身の未来を歩みたいと思っております」
「……セリーヌ?」
「外務官試験を受けたいのです。婚約については……ライナルト様が団長へ昇格すれば、さらに多忙になるでしょうし、結婚の話も延期になると予想できます。……それならば、今、このタイミングで、自分の道を考えても良いはずだと、思ったのです」
言葉には、迷いはなかった。
サミエルは黙って、娘の話を最後まで聞いた。
そして、静かに頷く。
(そうか……もう、この子は“少女”ではないのだな)
少し前に、近衛騎士団団長・ジークから打診されたばかりだった。
後遺症による体調悪化のため、引退を視野に入れていること。
後任として、ライナルトを団長に推薦したいという話。
それに伴い、セリーヌとの結婚式を延期してもらえないか、と。
「……セリーヌ。君が選んだ道だ。挑戦してみるといい」
その言葉に、セリーヌの目が潤んだ。
「お父様……ありがとう!」
立ち上がり、勢いよく父に抱きついた。
サミエルは、驚きつつも、そっと娘の背を撫でながら、心の中で思った。
(……このまま、手元にいてくれたら、それも悪くないかもしれんな)
火の揺らぎが照らすその背には、もう“誰かを待つだけ”の少女ではなく、未来を選び取ろうとする、ひとりの若き女性の姿があった。
セリーヌは、ライナルトに向けていた想いが――静かに、けれど確実に、薄れていくのを感じていた。
どこか、遠くから自分を見ているような不思議な感覚だった。
空いた隙間に入り込んできたのは、新しい世界への好奇心。
ランベル国の妃や側室たちとの交流は、彼女の視野を広げ、他国の文化や人々への関心を育てていた。
(知らなかったことを知るって、なんて面白いのかしら)
外務官室での手伝いも、ただの“補佐”ではなくなっていた。
やりがいがあり、学ぶことがあり、何より――自分が必要とされている。
それが、思いがけないほど嬉しかった。
一方で、ライナルトとの関係は……。
(これからも、会えない時間ばかりが続くのなら……)
想像は難くなかった。
結婚しても、彼は任務に追われ、連絡すらままならない日々が続く。
いざというときに伝えたいことが、また届かないのだとしたら――それは、自分が望む未来ではない。
(……もう、“待つ”だけの人生なんて、嫌)
その思いを胸に、セリーヌは学園の授業が終わったあと、進路指導をしている教師のもとを訪ねた。
「先生、あの……卒業後の進路について、伺いたいのですが……外務官を目指すには、どうすればよろしいのでしょう?」
教師は驚いたように目を瞬きながらも、すぐに真剣な表情に変わった。
「外務官か……ちょうど、次の試験が二ヶ月後にあるよ。筆記試験と、面接。学園での成績も加味される。あとは、外国語での応対力も必要だな。君なら、語学は問題ないと思うけどね。」
「……ありがとうございます。挑戦してみたいです。」
頭を下げると、胸の奥に小さな炎が灯るのを感じた。
その足で、王宮へ向かい、外務官室の扉をノックする。
中にいたのは、いつものように執務に目を通していたシモン。
セリーヌは、まっすぐに彼を見て口を開いた。
「シモン様。……わたくし、外務官試験を受けてみようかと考えております」
「……ほう」
「今回、他国の方々と接して、ますます異文化に興味が湧きました。ただ、興味があるだけでは通用しない世界だと思って……けれど、それでも挑戦してみたくて」
その言葉に、シモンの瞳がわずかに揺れた。
(彼女が、そちらの道を選ぶとは……)
ライナルトとの婚約がある以上、セリーヌと自分が肩を並べる未来など夢物語に過ぎないと思っていた。
だが今、彼女自身が“歩む意思”を持って、その扉を叩こうとしている。
「セリーヌ。外交に最も必要なのは、君の言う通り“興味”だよ。相手の国を知ろうと思わなければ、交渉も交流も、何も始まらない。……嬉しいよ。外務官を目指してくれることも、ずっと一緒に働けるかもしれない未来も。」
そう言って、シモンは、ふっと笑った。
普段は厳しく結ばれている眉間、冷たい光を帯びた眼鏡の奥の瞳――その表情が緩んだとき、どこか見覚えのある温かさがあった。
思わず、セリーヌは吹き出してしまう。
「ぷっ……フフフ、ごめんなさい」
「ん? 何か、おかしなこと言ったか?」
「いえ。……笑った顔が、アレクサ様とそっくりで。まるで少年のように、可愛らしかったですよ」
「“可愛らしい”など、生まれてこの方、言われたことがないな……」
シモンは苦笑しながらも、どこか嬉しそうにその言葉を受け取った。
「でも……セリーヌに言われたなら、悪くないな」
二人は、静かに、けれど確かな笑みを交わした。
――
その夜、セリーヌは屋敷に戻ると、父サミエルに話す時間を願い出た。
暖炉の火がぱちぱちと音を立てる書斎。
父の前に正座し、まっすぐに目を見つめて告げた。
「お父様。……もう、待つだけの人生はやめました。わたくしは、わたくし自身の未来を歩みたいと思っております」
「……セリーヌ?」
「外務官試験を受けたいのです。婚約については……ライナルト様が団長へ昇格すれば、さらに多忙になるでしょうし、結婚の話も延期になると予想できます。……それならば、今、このタイミングで、自分の道を考えても良いはずだと、思ったのです」
言葉には、迷いはなかった。
サミエルは黙って、娘の話を最後まで聞いた。
そして、静かに頷く。
(そうか……もう、この子は“少女”ではないのだな)
少し前に、近衛騎士団団長・ジークから打診されたばかりだった。
後遺症による体調悪化のため、引退を視野に入れていること。
後任として、ライナルトを団長に推薦したいという話。
それに伴い、セリーヌとの結婚式を延期してもらえないか、と。
「……セリーヌ。君が選んだ道だ。挑戦してみるといい」
その言葉に、セリーヌの目が潤んだ。
「お父様……ありがとう!」
立ち上がり、勢いよく父に抱きついた。
サミエルは、驚きつつも、そっと娘の背を撫でながら、心の中で思った。
(……このまま、手元にいてくれたら、それも悪くないかもしれんな)
火の揺らぎが照らすその背には、もう“誰かを待つだけ”の少女ではなく、未来を選び取ろうとする、ひとりの若き女性の姿があった。
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