29 / 29
第28話 幸せの行き先
しおりを挟む
あの夜の、あの一瞬の真実が――すべてを変えてしまった。
結果として、ライナルトは騎士団から処分を受け、団長の肩書きを奪われた。
しばらくは平騎士として籍を置いたものの、周囲の目や噂に耐えきれず、あっさりと辞職し、
気づけば、マデラン伯爵家の屋敷に閉じこもる生活を送っていた。
後任の団長には、実力も統率力も申し分のないカイザーが選ばれた。
騎士団は再び安定し、王国の防衛線は以前にも増して堅牢なものとなっていった。
もちろん、セリーヌとの婚約は破棄。
ライナルト有責での正式な破談であり、セリーヌは“晴れて自由”の身となった。
ジークとバーバラもまた、あの夜を境に別々の道を歩むことになった。離縁後、バーバラは実家の男爵家へ戻ろうとしたが、迎え入れられることはなく、そのまま消息不明に。
ジークもまた、長年の裏切りに打ちのめされ、心に深い闇を抱え込んでしまったが、そんな彼を静か寄り添い癒したのは、治療院で働く女性の存在だったらしい。
ゆっくりと、確かに――彼の中に希望が戻り始めていた。
そんな中。
セリーヌは、外務官室に本採用となり勤務し始めた。フリーになった途端、舞い込む縁談の数は文字通り“山のよう”だったが――
「わたくし、シモン様との婚約決めましたの」
そう微笑んで彼女が選んだ人は、他でもない。
シモン=アークエル。外務大臣にして、かつて巻き戻る前に婚約者だった男。
彼は、涙を浮かべ、嬉しそうに
「……俺を選んでくれてありがとう。今度は、絶対に守る」
そんな彼に、セリーヌは柔らかく微笑み
「今度は、二人で幸せになりましょうね」
そう告げた。
周囲の反応は、驚き半分、納得半分。すでに、外務官室での補佐をしつつ、シモンの体調に気を配る彼女と、以前は不健康が代名詞で、眉間に皺が寄って人を寄せ付けない雰囲気があったが、セリーヌの献身で健康的になり雰囲気も穏やかになったのだから。
シモンの家族も、即座に賛成してくれた。
「父上が無理して倒れないのも、あんな穏やかな顔してるのも、セリーヌのお陰だからな。」
「セリーヌ先輩が……お義母さんだなんて、嬉しいです。」
息子達のそんな言葉に、シモンは安堵した。
あの日、過労で倒れたシモンを懸命に看病し、外務官室でシモンの補佐として働き、常に彼を気遣っていたセリーヌ、一方ライナルトからの冷遇からの浮気によっての婚約破棄。ようやく報われたのだ――と、誰もが感じていた。
そして、二年半の月日が経つ。
セリーヌは十八歳の誕生日を迎え――
ついに、シモンとの結婚式の日を迎えた。
鏡の前で白いヴェールを整えながら、自分で苦笑する。
巻き戻る前の人生では、式の直前に馬車の暴走に巻き込まれ、命を落とした。
でも今回は違った。
事故そのものは、確かに“起きた”。
だが、シモンがずっと傍にいて、買い物にも行かせてくれなかったせいで――いや、おかげで。
セリーヌはその場に居合わせることはなかった。
「過保護ですわ、ほんとに」と口では言いつつ、嬉しかったのも事実。
馬車の暴走は店先を壊しただけで、けが人も出ず、あっさりと収束した。
晴れ渡る空。
白無垢の袖をそっと揺らしながら、セリーヌは窓からその青を見上げる。
(……確かにあの時、聞こえた)
『今度こそ、幸せになれ』
あの夢の中。
過去の自分が、もう一人の自分が、そう囁いてくれた。
そして目を覚ました時――隣にはシモンがいた。
そして、感じたのだ。
もう一人の“わたし”が、すっと胸の奥から消えていく気配を。
(助けられたのね……また)
ありがとう、と心の中で囁いて。
そして、強く誓う。
「――幸せになるわ。必ず」
鐘の音が、遠くから響いてきた。
重ねた祈りと想いを乗せて、新しい物語が始まろうとしていた。
扉の向こうでは、シモンが微笑んで待っている。
手を差し伸べるその姿に、もう迷いはない。
愛する人と、ただ真っ直ぐに、未来へ進むだけ。
今日という日を、永遠に忘れない。
そう思いながら、セリーヌは静かに一歩を踏み出した。
結果として、ライナルトは騎士団から処分を受け、団長の肩書きを奪われた。
しばらくは平騎士として籍を置いたものの、周囲の目や噂に耐えきれず、あっさりと辞職し、
気づけば、マデラン伯爵家の屋敷に閉じこもる生活を送っていた。
後任の団長には、実力も統率力も申し分のないカイザーが選ばれた。
騎士団は再び安定し、王国の防衛線は以前にも増して堅牢なものとなっていった。
もちろん、セリーヌとの婚約は破棄。
ライナルト有責での正式な破談であり、セリーヌは“晴れて自由”の身となった。
ジークとバーバラもまた、あの夜を境に別々の道を歩むことになった。離縁後、バーバラは実家の男爵家へ戻ろうとしたが、迎え入れられることはなく、そのまま消息不明に。
ジークもまた、長年の裏切りに打ちのめされ、心に深い闇を抱え込んでしまったが、そんな彼を静か寄り添い癒したのは、治療院で働く女性の存在だったらしい。
ゆっくりと、確かに――彼の中に希望が戻り始めていた。
そんな中。
セリーヌは、外務官室に本採用となり勤務し始めた。フリーになった途端、舞い込む縁談の数は文字通り“山のよう”だったが――
「わたくし、シモン様との婚約決めましたの」
そう微笑んで彼女が選んだ人は、他でもない。
シモン=アークエル。外務大臣にして、かつて巻き戻る前に婚約者だった男。
彼は、涙を浮かべ、嬉しそうに
「……俺を選んでくれてありがとう。今度は、絶対に守る」
そんな彼に、セリーヌは柔らかく微笑み
「今度は、二人で幸せになりましょうね」
そう告げた。
周囲の反応は、驚き半分、納得半分。すでに、外務官室での補佐をしつつ、シモンの体調に気を配る彼女と、以前は不健康が代名詞で、眉間に皺が寄って人を寄せ付けない雰囲気があったが、セリーヌの献身で健康的になり雰囲気も穏やかになったのだから。
シモンの家族も、即座に賛成してくれた。
「父上が無理して倒れないのも、あんな穏やかな顔してるのも、セリーヌのお陰だからな。」
「セリーヌ先輩が……お義母さんだなんて、嬉しいです。」
息子達のそんな言葉に、シモンは安堵した。
あの日、過労で倒れたシモンを懸命に看病し、外務官室でシモンの補佐として働き、常に彼を気遣っていたセリーヌ、一方ライナルトからの冷遇からの浮気によっての婚約破棄。ようやく報われたのだ――と、誰もが感じていた。
そして、二年半の月日が経つ。
セリーヌは十八歳の誕生日を迎え――
ついに、シモンとの結婚式の日を迎えた。
鏡の前で白いヴェールを整えながら、自分で苦笑する。
巻き戻る前の人生では、式の直前に馬車の暴走に巻き込まれ、命を落とした。
でも今回は違った。
事故そのものは、確かに“起きた”。
だが、シモンがずっと傍にいて、買い物にも行かせてくれなかったせいで――いや、おかげで。
セリーヌはその場に居合わせることはなかった。
「過保護ですわ、ほんとに」と口では言いつつ、嬉しかったのも事実。
馬車の暴走は店先を壊しただけで、けが人も出ず、あっさりと収束した。
晴れ渡る空。
白無垢の袖をそっと揺らしながら、セリーヌは窓からその青を見上げる。
(……確かにあの時、聞こえた)
『今度こそ、幸せになれ』
あの夢の中。
過去の自分が、もう一人の自分が、そう囁いてくれた。
そして目を覚ました時――隣にはシモンがいた。
そして、感じたのだ。
もう一人の“わたし”が、すっと胸の奥から消えていく気配を。
(助けられたのね……また)
ありがとう、と心の中で囁いて。
そして、強く誓う。
「――幸せになるわ。必ず」
鐘の音が、遠くから響いてきた。
重ねた祈りと想いを乗せて、新しい物語が始まろうとしていた。
扉の向こうでは、シモンが微笑んで待っている。
手を差し伸べるその姿に、もう迷いはない。
愛する人と、ただ真っ直ぐに、未来へ進むだけ。
今日という日を、永遠に忘れない。
そう思いながら、セリーヌは静かに一歩を踏み出した。
1,523
この作品は感想を受け付けておりません。
あなたにおすすめの小説
幼馴染最優先の婚約者に愛想が尽きたので、笑って家出しました ― 笑顔で去っただけなのに、なぜ泣いているのですか
ラムネ
恋愛
侯爵令嬢リオナは、婚約者アルベルトが「幼馴染が可哀想だから」と約束を破り続ける日々に耐えていた。領地再建の帳簿も契約も、実はリオナが陰で支えていたのに、彼は「君は強いから」と当然のように扱う。決定的な侮辱の夜、リオナは怒らず泣かず、完璧な笑顔で婚約指輪だけを返して屋敷を去った――引継ぎは、何一つ残さずに。
翌日から止まる交易、崩れる資金繰り、露出する不正。追いすがるアルベルトを置き去りに、リオナは王立監査院の臨時任官で辺境へ。冷徹と噂される監察騎士レオンハルトと共に、数字と契約で不正を断ち、交易路を再生していく。
笑顔で去っただけなのに、泣くのは捨てた側だった。
その結婚は、白紙にしましょう
香月まと
恋愛
リュミエール王国が姫、ミレナシア。
彼女はずっとずっと、王国騎士団の若き団長、カインのことを想っていた。
念願叶って結婚の話が決定した、その夕方のこと。
浮かれる姫を前にして、カインの口から出た言葉は「白い結婚にとさせて頂きたい」
身分とか立場とか何とか話しているが、姫は急速にその声が遠くなっていくのを感じる。
けれど、他でもない憧れの人からの嘆願だ。姫はにっこりと笑った。
「分かりました。その提案を、受け入れ──」
全然受け入れられませんけど!?
形だけの結婚を了承しつつも、心で号泣してる姫。
武骨で不器用な王国騎士団長。
二人を中心に巻き起こった、割と短い期間のお話。
夫と愛し合った翌朝、一方的に離縁されました【完結】
星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
美しい公爵夫人マルグリートは、冷徹な夫ディートリヒと共に、王国の裏で密かに任務をこなす“悪女”。
だがある日、突然夫から離婚を言い渡される。しかもその裏には、平民の愛人の存在が──。
失意の中、王命で新たな婚約者・エルンストと結ばれることに。
どうやら今回の離婚再婚は、王家の陰謀があるよう。
「悪女に、遠慮はいらない」
そう決意した彼女は、華やかな舞踏会で王に真っ向から言い放つ。
「わたくし、人の家庭を壊しておきながら悪びれない方に、下げる頭は持っていませんの。
王族であられる前に、人におなりくださいませ。……失礼」
愛も、誇りも奪われたなら──
今度はこの手で、すべてを取り戻すだけ。
裏切りに燃える、痛快リベンジ・ロマンス!
⚠️本作は AI の生成した文章を一部に使っています。タイトル変えました。コメディーです。主人公は悪女です。
白い結婚は終わりました。――崩れない家を築くまで
しおしお
恋愛
「干渉しないでくださいませ。その代わり、私も干渉いたしません」
崩れかけた侯爵家に嫁いだ私は、夫と“白い結婚”を結んだ。
助けない。口を出さない。責任は当主が負う――それが条件。
焦りと慢心から無謀な契約を重ね、家を傾かせていく夫。
私は隣に立ちながら、ただ見ているだけ。
放置された結果、彼は初めて自分の判断と向き合うことになる。
そして――
一度崩れかけた侯爵家は、「選び直す力」を手に入れた。
無理な拡張はしない。
甘い条件には飛びつかない。
不利な契約は、きっぱり拒絶する。
やがてその姿勢は王宮にも波及し、
高利契約に歪められた制度そのものを立て直すことに――。
ざまあは派手ではない。
けれど確実。
焦らせた者も、慢心した者も、
気づけば“選ばれない側”になっている。
これは、干渉しない約束から始まる静かな逆転劇。
そして、白い結婚を終え、信頼で立つ家へと変わっていく物語。
隣に立つという選択こそが、最大のざまあでした。
「君は完璧だから、放っておいても大丈夫」と笑った夫。~王宮から私が去ったあと「愛していた」と泣きついても、もう手遅れです~
水上
恋愛
「君は完璧だから、放っておいても大丈夫だ」
夫である王太子はそう笑い、泣き真似が得意な見習い令嬢ばかりを優先した。
王太子妃セシリアは、怒り狂うこともなく、静かに心を閉ざす。
「左様でございますか」
彼女は夫への期待というノイズを遮断し、離縁の準備を始めた。
白い結婚なので無効にします。持参金は全額回収いたします
鷹 綾
恋愛
「白い結婚」であることを理由に、夫から離縁を突きつけられた公爵夫人エリシア。
だが彼女は泣かなかった。
なぜなら――その結婚は、最初から“成立していなかった”から。
教会法に基づき婚姻無効を申請。持参金を全額回収し、彼女が選んだ新たな居場所は修道院だった。
それは逃避ではない。
男の支配から離れ、国家の外側に立つという戦略的選択。
やがて彼女は修道院長として、教育制度の整備、女性領主の育成、商業と医療の再編に関わり、王と王妃を外から支える存在となる。
王冠を欲さず、しかし王冠に影響を与える――白の領域。
一方、かつての夫は地位を失い、制度の中で静かに贖罪の道を歩む。
これは、愛を巡る物語ではない。
「選ばなかった未来」を守り続けた一人の女性の物語。
白は弱さではない。
白は、均衡を保つ力。
白い結婚から始まる、静かなリーガル・リベンジと国家再編の物語。
白い結婚で結構ですわ。愛人持ちの夫に興味はありません
鍛高譚
恋愛
公爵令嬢ルチアーナは、王太子アルベルトとの政略結婚を命じられた。だが彼にはすでに愛する女性がいた。そこでルチアーナは、夫婦の義務を果たさない“白い結婚”を提案し、お互いに干渉しない関係を築くことに成功する。
「夫婦としての役目を求めないでくださいませ。その代わり、わたくしも自由にさせていただきますわ」
そうして始まった王太子妃としての優雅な生活。社交界では完璧な妃を演じつつ、裏では趣味の読書やお茶会を存分に楽しみ、面倒ごととは距離を置くつもりだった。
——だが、夫は次第にルチアーナを気にし始める。
「最近、おまえが気になるんだ」
「もっと夫婦としての時間を持たないか?」
今さらそんなことを言われても、もう遅いのですわ。
愛人を優先しておいて、後になって本妻に興味を持つなんて、そんな都合の良い話はお断り。
わたくしは、自由を守るために、今日も紅茶を嗜みながら優雅に過ごしますわ——。
政略結婚から始まる痛快ざまぁ! 夫の後悔なんて知りませんわ
“白い結婚”を謳歌する令嬢の、自由気ままなラブ&ざまぁストーリー!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる