さようならの定型文~身勝手なあなたへ

宵森みなと

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第28話 幸せの行き先

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あの夜の、あの一瞬の真実が――すべてを変えてしまった。

結果として、ライナルトは騎士団から処分を受け、団長の肩書きを奪われた。
しばらくは平騎士として籍を置いたものの、周囲の目や噂に耐えきれず、あっさりと辞職し、
気づけば、マデラン伯爵家の屋敷に閉じこもる生活を送っていた。

後任の団長には、実力も統率力も申し分のないカイザーが選ばれた。
騎士団は再び安定し、王国の防衛線は以前にも増して堅牢なものとなっていった。

もちろん、セリーヌとの婚約は破棄。
ライナルト有責での正式な破談であり、セリーヌは“晴れて自由”の身となった。

ジークとバーバラもまた、あの夜を境に別々の道を歩むことになった。離縁後、バーバラは実家の男爵家へ戻ろうとしたが、迎え入れられることはなく、そのまま消息不明に。

ジークもまた、長年の裏切りに打ちのめされ、心に深い闇を抱え込んでしまったが、そんな彼を静か寄り添い癒したのは、治療院で働く女性の存在だったらしい。
ゆっくりと、確かに――彼の中に希望が戻り始めていた。

そんな中。

セリーヌは、外務官室に本採用となり勤務し始めた。フリーになった途端、舞い込む縁談の数は文字通り“山のよう”だったが――

「わたくし、シモン様との婚約決めましたの」

そう微笑んで彼女が選んだ人は、他でもない。
シモン=アークエル。外務大臣にして、かつて巻き戻る前に婚約者だった男。

彼は、涙を浮かべ、嬉しそうに
「……俺を選んでくれてありがとう。今度は、絶対に守る」

そんな彼に、セリーヌは柔らかく微笑み
「今度は、二人で幸せになりましょうね」
そう告げた。

周囲の反応は、驚き半分、納得半分。すでに、外務官室での補佐をしつつ、シモンの体調に気を配る彼女と、以前は不健康が代名詞で、眉間に皺が寄って人を寄せ付けない雰囲気があったが、セリーヌの献身で健康的になり雰囲気も穏やかになったのだから。

シモンの家族も、即座に賛成してくれた。

「父上が無理して倒れないのも、あんな穏やかな顔してるのも、セリーヌのお陰だからな。」
「セリーヌ先輩が……お義母さんだなんて、嬉しいです。」

息子達のそんな言葉に、シモンは安堵した。

あの日、過労で倒れたシモンを懸命に看病し、外務官室でシモンの補佐として働き、常に彼を気遣っていたセリーヌ、一方ライナルトからの冷遇からの浮気によっての婚約破棄。ようやく報われたのだ――と、誰もが感じていた。

そして、二年半の月日が経つ。

セリーヌは十八歳の誕生日を迎え――
ついに、シモンとの結婚式の日を迎えた。

鏡の前で白いヴェールを整えながら、自分で苦笑する。

巻き戻る前の人生では、式の直前に馬車の暴走に巻き込まれ、命を落とした。

でも今回は違った。

事故そのものは、確かに“起きた”。
だが、シモンがずっと傍にいて、買い物にも行かせてくれなかったせいで――いや、おかげで。
セリーヌはその場に居合わせることはなかった。

「過保護ですわ、ほんとに」と口では言いつつ、嬉しかったのも事実。

馬車の暴走は店先を壊しただけで、けが人も出ず、あっさりと収束した。

晴れ渡る空。
白無垢の袖をそっと揺らしながら、セリーヌは窓からその青を見上げる。

(……確かにあの時、聞こえた)

『今度こそ、幸せになれ』

あの夢の中。
過去の自分が、もう一人の自分が、そう囁いてくれた。

そして目を覚ました時――隣にはシモンがいた。
そして、感じたのだ。
もう一人の“わたし”が、すっと胸の奥から消えていく気配を。

(助けられたのね……また)

ありがとう、と心の中で囁いて。

そして、強く誓う。

「――幸せになるわ。必ず」

鐘の音が、遠くから響いてきた。
重ねた祈りと想いを乗せて、新しい物語が始まろうとしていた。

扉の向こうでは、シモンが微笑んで待っている。
手を差し伸べるその姿に、もう迷いはない。

愛する人と、ただ真っ直ぐに、未来へ進むだけ。

今日という日を、永遠に忘れない。

そう思いながら、セリーヌは静かに一歩を踏み出した。
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