公爵夫人、爆発により時を遡る

宵森みなと

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第9話 学び舎にて――静かなる反撃

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新学期の朝。城郭のように広大な王立学園には、若き才能と家柄を背負った生徒たちが集まり、春の陽気に包まれながらも、どこか緊張した空気が漂っていた。アリス=フィニスが、優秀な成績と見目麗しい容姿から早くも注目の的となっていたのは、入学直後からだった。

「――ねぇ、ちょっと話があるの」

そう声をかけてきたのは、金細工のような縦ロールを揺らす一人の上級生。彼女を筆頭に、見慣れぬ顔ぶれの三名の令嬢がアリスの前に立ちはだかった。

ロイドが隣の席から立ち上がりかけたが、アリスは彼を制するように、ふわりと笑った。

「大丈夫よ、ロイド。すぐに戻るわ」

その笑顔は優雅で、どこか懐かしさすら感じさせるものだった。ロイドは不安げに彼女を見送りながら、急いで隣のBクラウに駆け込み、レイブンと共にアリスの後を追った。

中庭の石畳に囲まれた噴水のそば、アリスは静かに立っていた。対するは、ユーリティオ公爵家のバーバラ嬢、サジナル伯爵家のマリーン嬢、コディル子爵家のリリィ嬢、そしてレジーン男爵家のモーロン嬢。どの娘も一癖ありそうな華やかな装いで、威圧するように囲い込む。

「あなた、入学してすぐに男子生徒からずいぶん人気だそうで、生意気ですこと」

「養子だって聞いたけど、所詮は平民上がりなんでしょ?」

「家柄も本物じゃない方なのに、あまり目立たないで頂戴!」

さも当然のように並べられる非難の言葉の数々。しかし、アリスはその場で一歩も退かず、ただ微笑んだまま言った。

「まぁ、皆さま。お名前を出して頂けなくても、わたくしは存じておりますが……」

その言葉に、令嬢たちの眉が一瞬ぴくりと動いた。まさか名家の名をすべて正確に把握しているとは思ってもいなかったのだ。

アリスは、優雅な動作でスカートをたおやかに揺らしながら一歩前へ出た。

「それで……本日は、わたくしに対し“ご忠告”とのことでよろしいのでしょうか?ならばいくつか確認させて頂いても?」

「確認、ですって?」

「ええ。上級生が四人も揃って、入学したばかりの下級生を囲み、“平民上がり”“生意気”と仰る場面を、すでに魔道具にて記録させて頂いておりますので。」

そう言って、アリスは袖の内から、魔力がほのかに灯る記録珠を取り出した。そこには、つい先ほどまでのやり取りが、音声と映像で収められていた。

「……なっ!」

「せ、先生に言いつける気!?」

「ええ、教師に提出いたします。そして祖母であるロゼット=フィニスにも。もちろん皆さまのご両親にもご報告致しますわ」

にっこりと微笑むアリス。

「もちろん、ご自身の発言と行いに誤りがないのでしたら、何もご心配には及ばないのでは?」

上級生たちは一気に動揺した。冷静で、そして美しく凛としたその態度に、言い訳をする余地すら与えられていなかった。

「ま、待って!わたくしたちは、ただ……忠告をしただけよ。嫌味のつもりじゃなかったの!」

「では、そのお言葉を信じて、今後一切、下級生への不当な発言や圧力は行わないという誓約書にご署名頂けますか?」

そう言って、アリスは小さな巻紙を取り出した。そこにはすでに誓約魔法が施されており、名を記すだけで効果が発動する仕様となっていた。

「これは……!」

「ご安心下さい。わたくしは先輩方に一切の恨みや悪意を持っておりませんわ。これは、わたくしの身を守るために記録と誓約書を残しておくだけですわ。先輩方がこの件を不満にお思いになり、何をされるか分かりませんので。」

彼女の言葉に、完全に言い負かされた令嬢たちは、観念して名を記した。

「ありがとうございます。先輩方のご忠告、心に留めておきますわ。では、ご機嫌よう」

そう言って、アリスは背を向け、その場を去った。姿勢正しく、背筋を伸ばし、微笑みを湛えたままのその姿は、まるで一輪の薔薇のように、毅然としていた。

物陰で見守っていたロイドとレイブンは、ただただ呆気に取られていた。

「……まさに、アリスティア様だな」

「うん…おばあ様だよ、あれは」

それの姿を幾人かの生徒が目撃していたが、一部の生徒たちの間で、“静かなる反撃の女神”と囁かれるようになった。
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