『異世界に転移した限界OL、なぜか周囲が勝手に盛り上がってます』

宵森みなと

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第3章 王都編

第2話「神子の影、王都の陽」

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「——確認できたか?」

「はい、間違いありません。あの女、千年前の“光の神子”と、同じ魔力と同じ加護を持っています」

陰の回廊。淡い燭光の中、神殿付きの神官たちが囁き合う。
王都中央神殿の“叡智の間”にて、魔力登録で記録された新たな民の名が報告された瞬間、古の封印が軋んだ。

「まさか、今になって再び現れるとはな……」

「神殿が主導して囲わねば、下々の手に渡る可能性もある。あの力は、……時に災いを呼ぶ」

「けれど、当の本人には何の自覚もないようです」

「……なお悪いな」

神殿と貴族、そして王宮までもが、その名を聞き耳を立て始める——“芹澤まどか”。


「ふぁ~……快晴、観光日和!」

そんな各勢力の思惑とは無縁に、当のまどかは清々しい朝を迎えていた。
ラセルの手配で、王都散策用にと借りたシンプルなワンピースと歩きやすい靴に身を包み、いそいそと屋敷を飛び出していく。

「お偉いさんたちに囲まれるのなんて真っ平。今のうちに、平民の生活を楽しまないと!」

石畳を踏みしめ、露店が軒を連ねる通りを歩く。焼きたてのパンに果実酒の香り、流れる音楽と笑い声。
まどかは目を輝かせた。

「……こういうのが、したかったのよ」

魔法も使命も関係ない、自分だけのスローライフ。

しかし、彼女の平穏はまたしても、長くは続かなかった。


事件の発端は、ひとりの少女だった。

「——誰か、助けて!」

裏路地の一角で、不自然に人がはけた場所。まどかは、擦り切れた服の少女が男たちに囲まれているのを見つけた。

「……うっわ、王都って意外と治安悪いじゃん……」

関わらない方がいい。視線を逸らしかけたが、足が止まる。

少女の泣き顔が、なぜか昔の自分に重なった。

「……あーもう!」


「やめなさいよその辺で。ガキ相手に何してんの?」

まどかの声に、男たちはぎょっとして振り返った。

「何だ貴様……ああん? 旅人か? 口を挟むと——」

その言葉が終わるより先に、まどかの右手が動いた。
王都に来る前、クラウスから授かった“緊急護身用の魔法の指輪”。
それが起動し、男たちの足元に小さな爆発を起こす。

「ぎゃっ!?」

「痛っ! 何だ今の!?」

「無詠唱、指輪魔法……こいつ、只者じゃねぇ!」

煙の中で叫びながら、男たちは逃げ出した。残された少女が、ぽかんとまどかを見上げる。

「す……すごい……お姉ちゃん、魔法使いなの?」

「いや、ただのOLよ。元ね。たぶん……たぶんだけど」


少女の名はフィリア。浮浪児で、失踪した兄を探して王都に来たという。

だが、情報を求めるうちに“子供狩り”と呼ばれる人さらいの集団に目をつけられ、今朝も命からがら逃げていたのだ。

「それで……お兄ちゃんの名前は?」

「ルーク・バルデン。……たぶん、自警団にいると思うの」

「……バルデン?」

まどかの脳裏に、ある男の顔が浮かんだ。
そう、領地の自警団長——ルーファス・バルデン。

まさか、と思いながらも、偶然ではないような気がした。


その夜、まどかは屋敷の一室にフィリアを泊め、ラセルに「自警団への連絡を」と頼んだ。

「——随分と、巻き込まれていらっしゃいますね」

ラセルが苦笑する。

「他人のトラブルに首を突っ込むお人好しのつもりはないの。ただ……目の前で泣いてる子を、無視できるほど冷たい人間じゃないわ」

「……それが、貴女の“本質”か」

「……は?」

その言葉の真意を問う前に、ラセルはふと真顔になった。

「まどか殿、明朝、王宮からの使者が屋敷を訪れるとの報せが届きました」

「……え? 王宮?」

「貴女の魔力と“加護”が、思わぬ騒ぎを引き起こしたようです。……もはや、静かに暮らすだけでは済まされないかもしれません」


——知らず知らずのうちに、歴史は動いている。
“光の神子”の記録は、千年前に閉じられたはずだった。

だが今また、その名もなき存在が、騒がしげに現れた。

“芹澤まどか”という名を持って。
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