33 / 50
第33話『貯金の使い道』
しおりを挟む
「ひぃいいいいいいっ!?」
俺はあー姉ぇと母親の形相に悲鳴をあげた。
>>草
>>アネゴ好きだぁあああ!
>>これは残当www
「これからはおこづかいの使い道、お母さんが事前にチェックするから。イロハも言ってたじゃない。ひとりでできないことは手伝ってって。お金の管理、全然できてないわよね?」
「イロハちゃんにはこれから毎月、決まった額を貯金してもらう姉ぇっ☆ あたしに返済するつもりでいけば、積み立てることだって簡単だよ姉ぇ?」
「ご、ごごごめんなさぁああああああいっ!」
なんでこんなことに!?
俺がふたりから説教を受ける様子は、世界規模で拡散された。
各国のVTuberにつられて各国から視聴者も集まっていたらしく、さまざまな言語で字幕つきの切り抜きが作られてしまう。
それはある種のネットミームと化すほどだった。
* * *
「てなわけで、とりあえず残ったお金でお母さんにケーキでも買おうかなーと。ご機嫌取りしたら多少は制限が緩和されるかもだし。……くっ、この数百円があればまだスパチャが。いや、必要経費として諦めるしか」
「あはは、イロハちゃんは相変わらずだねぇ~」
学校で机に突っ伏してマイに愚痴っていると、ふと視線を感じた。
顔をあげてキョロキョロと教室内を見渡す。
「んんん?」
ウクライナからの転校生がじぃ~っと俺を見ていた。
俺はマイの服の裾を引いた。
「ね、ねぇマイ。なんかわたしあの子にめっちゃ見られてない?」
「うん? ん~、気のせいみたいだけどぉ~」
「あれ? 本当だ」
気がつけば転校生は顔を伏せていた。
気のせいだったのだろうか?
彼女の視線は手元に落ちている。
どうやらスマートフォンでなにかを見ているようだ。
最近、ようやく保護者からの理解も得られたようで、翻訳や勉強のためなら校内でもスマートフォンを使用してもよいことになった。
いろいろ気をもんでくれていた教師も、これで一安心だろう。
しかし、転校生はなにをしているのだろうか? 日本語の勉強中?
俺はスススっとその背後に忍び寄り、画面をのぞき込んでみた。
「!?!?!?」
俺の配信だった。
自分の席にすっ飛んで戻り、顔を伏せた。
バっ、バレてるぅううう!?
いやいや、そんなことないよな!? だって今まで大丈夫だったんだから!
ちゃんと配信内で話すエピソードにはフェイクを入れてた。
それに小学生でウクライナ語を話せる女の子なんてそこら辺にいくらでも……いるわけねぇえええ!?
しかも名前まで一緒だもんな!?
ちらっと顔を上げる。
転校生はまたじぃ~っとこっち見ていた。
これはセーフなのか!? それともアウトなのか!?
どっちなんだ!?
* * *
そんな風にやきもきしはじめて、数日。
「……あっれー?」
転校生から視線を感じるようになってからしばらく経つが、予想に反して、なにも事件は起きていなかった。
おっかしーなー。絶対、なにかアクションがあると思っていたのに。
「そんなに心配なら直接聞いてみればいいんじゃない?」
「いや、さすがにそれは」
あー姉ぇからの鋭い指摘に、俺は言葉を濁した。
変に掘り返すよりなぁなぁにしてしまいたい、というのが本音だ。
あとは話しかけづらい、というのもある。
なにせ最近はむしろ逆に、俺と彼女が話す機会は減っているのだ。
最初こそ教室内でのコミュニケーションに俺の手助けが必要で、ちょくちょく転校生やクラスメイトに呼ばれることがあった。
しかし現在は、彼らだけで解決してしまうことも多いのだ。
一番の要因は、校内でスマートフォンが利用可能になったことだろう。
それに、本人がものすごい勢いで日本語を覚えつつあるし、クラスメイトたちの慣れもあった。
人間、必要に迫られると早いもんだなぁ……。
さすがは適応能力のケモノだ。
「あたしはそんな心配しなくても大丈夫だと思うけどねー。どうしても気になるならマイにでも偵察頼んでみたら?」
「なるほど。そうしよう」
「それよりも!」
ずいっ、とあー姉ぇが顔を寄せてくる。
俺は「な、なんだよ」とその勢いに怯んだ。
今さらだが、ここはあー姉ぇの部屋だ。
今日は呼び出されてここまで来た。その理由は間違いなく……。
「イロハちゃん収益を全部、使い切っちゃったでしょ? ちょっと”今後”について改めて話しておかなくちゃ、と思って」
「うっ、やっぱその話だよねー」
「そんなに怖がらなくて大丈夫。お説教はもう済んでるから、これ以上怒ったりしないよ。きちんと確認しなかったあたしも悪いし」
それならまぁ、大丈夫か。
と俺は姿勢を戻した。
「で、貯金が必要って言ってたけど具体的になんのため?」
「それはね……3Dモデルだよ!」
「えっ!? も、もう!?」
俺はまだVTuberデビューしてから2ヶ月しか経っていない。
いくらなんでも早すぎるのではないか、と困惑する。
「甘い! 甘すぎるよイロハちゃん! 3Dモデルの有無で、できることの幅がまるっきり変わってくるんだよ!?」
「まぁ、たしかに」
「それに3Dモデルは制作に費用もかかれば、時間もかかる! 修正や、全身トラッキングの設定を考えると余裕はまったくないんだよ! 今からお金を貯めはじめなきゃ全然間に合わないっ!」
「えーっと、間に合わないってなにに? たしかにあったら便利だろうけど、今のところ使う予定はないし、そこまで急がなくても」
「使う予定は……ある! あたしが3Dコラボをしたいから!」
「お前が理由かい!?」
「早く3Dを用意してくれないと、あたしがガマンできなくなっちゃうでしょ~!」
「あ~、はいはい」
俺は抱き着いてくるあー姉ぇを引きはがす。
ってこいつ離れねぇっ!? 力、強っ!? いや俺が弱いんだ。学校でも体育だけは評価めちゃくちゃ低いもんなぁ……。
「けれどマジメな話、視聴者を飽きさせないためにも、定期的に視覚的な新しさは必要だよ」
「なるほど」
「収益化記念ほど大きな……はっきり言っちゃうと”稼げる”イベントもしばらくない。このままダラダラとお金を貯めてても、3Dお披露目まで期間が開きすぎちゃう。だから路線変更!」
あー姉ぇはイタズラでも思いついたような表情で笑った。
自分の顔が引きつるのがわかった。あー姉ぇがこういう表情をするときはロクな目にあったためしがない。
「イロハちゃん、来月の収益が入ったら……新衣装を作ろう!」
俺はあー姉ぇと母親の形相に悲鳴をあげた。
>>草
>>アネゴ好きだぁあああ!
>>これは残当www
「これからはおこづかいの使い道、お母さんが事前にチェックするから。イロハも言ってたじゃない。ひとりでできないことは手伝ってって。お金の管理、全然できてないわよね?」
「イロハちゃんにはこれから毎月、決まった額を貯金してもらう姉ぇっ☆ あたしに返済するつもりでいけば、積み立てることだって簡単だよ姉ぇ?」
「ご、ごごごめんなさぁああああああいっ!」
なんでこんなことに!?
俺がふたりから説教を受ける様子は、世界規模で拡散された。
各国のVTuberにつられて各国から視聴者も集まっていたらしく、さまざまな言語で字幕つきの切り抜きが作られてしまう。
それはある種のネットミームと化すほどだった。
* * *
「てなわけで、とりあえず残ったお金でお母さんにケーキでも買おうかなーと。ご機嫌取りしたら多少は制限が緩和されるかもだし。……くっ、この数百円があればまだスパチャが。いや、必要経費として諦めるしか」
「あはは、イロハちゃんは相変わらずだねぇ~」
学校で机に突っ伏してマイに愚痴っていると、ふと視線を感じた。
顔をあげてキョロキョロと教室内を見渡す。
「んんん?」
ウクライナからの転校生がじぃ~っと俺を見ていた。
俺はマイの服の裾を引いた。
「ね、ねぇマイ。なんかわたしあの子にめっちゃ見られてない?」
「うん? ん~、気のせいみたいだけどぉ~」
「あれ? 本当だ」
気がつけば転校生は顔を伏せていた。
気のせいだったのだろうか?
彼女の視線は手元に落ちている。
どうやらスマートフォンでなにかを見ているようだ。
最近、ようやく保護者からの理解も得られたようで、翻訳や勉強のためなら校内でもスマートフォンを使用してもよいことになった。
いろいろ気をもんでくれていた教師も、これで一安心だろう。
しかし、転校生はなにをしているのだろうか? 日本語の勉強中?
俺はスススっとその背後に忍び寄り、画面をのぞき込んでみた。
「!?!?!?」
俺の配信だった。
自分の席にすっ飛んで戻り、顔を伏せた。
バっ、バレてるぅううう!?
いやいや、そんなことないよな!? だって今まで大丈夫だったんだから!
ちゃんと配信内で話すエピソードにはフェイクを入れてた。
それに小学生でウクライナ語を話せる女の子なんてそこら辺にいくらでも……いるわけねぇえええ!?
しかも名前まで一緒だもんな!?
ちらっと顔を上げる。
転校生はまたじぃ~っとこっち見ていた。
これはセーフなのか!? それともアウトなのか!?
どっちなんだ!?
* * *
そんな風にやきもきしはじめて、数日。
「……あっれー?」
転校生から視線を感じるようになってからしばらく経つが、予想に反して、なにも事件は起きていなかった。
おっかしーなー。絶対、なにかアクションがあると思っていたのに。
「そんなに心配なら直接聞いてみればいいんじゃない?」
「いや、さすがにそれは」
あー姉ぇからの鋭い指摘に、俺は言葉を濁した。
変に掘り返すよりなぁなぁにしてしまいたい、というのが本音だ。
あとは話しかけづらい、というのもある。
なにせ最近はむしろ逆に、俺と彼女が話す機会は減っているのだ。
最初こそ教室内でのコミュニケーションに俺の手助けが必要で、ちょくちょく転校生やクラスメイトに呼ばれることがあった。
しかし現在は、彼らだけで解決してしまうことも多いのだ。
一番の要因は、校内でスマートフォンが利用可能になったことだろう。
それに、本人がものすごい勢いで日本語を覚えつつあるし、クラスメイトたちの慣れもあった。
人間、必要に迫られると早いもんだなぁ……。
さすがは適応能力のケモノだ。
「あたしはそんな心配しなくても大丈夫だと思うけどねー。どうしても気になるならマイにでも偵察頼んでみたら?」
「なるほど。そうしよう」
「それよりも!」
ずいっ、とあー姉ぇが顔を寄せてくる。
俺は「な、なんだよ」とその勢いに怯んだ。
今さらだが、ここはあー姉ぇの部屋だ。
今日は呼び出されてここまで来た。その理由は間違いなく……。
「イロハちゃん収益を全部、使い切っちゃったでしょ? ちょっと”今後”について改めて話しておかなくちゃ、と思って」
「うっ、やっぱその話だよねー」
「そんなに怖がらなくて大丈夫。お説教はもう済んでるから、これ以上怒ったりしないよ。きちんと確認しなかったあたしも悪いし」
それならまぁ、大丈夫か。
と俺は姿勢を戻した。
「で、貯金が必要って言ってたけど具体的になんのため?」
「それはね……3Dモデルだよ!」
「えっ!? も、もう!?」
俺はまだVTuberデビューしてから2ヶ月しか経っていない。
いくらなんでも早すぎるのではないか、と困惑する。
「甘い! 甘すぎるよイロハちゃん! 3Dモデルの有無で、できることの幅がまるっきり変わってくるんだよ!?」
「まぁ、たしかに」
「それに3Dモデルは制作に費用もかかれば、時間もかかる! 修正や、全身トラッキングの設定を考えると余裕はまったくないんだよ! 今からお金を貯めはじめなきゃ全然間に合わないっ!」
「えーっと、間に合わないってなにに? たしかにあったら便利だろうけど、今のところ使う予定はないし、そこまで急がなくても」
「使う予定は……ある! あたしが3Dコラボをしたいから!」
「お前が理由かい!?」
「早く3Dを用意してくれないと、あたしがガマンできなくなっちゃうでしょ~!」
「あ~、はいはい」
俺は抱き着いてくるあー姉ぇを引きはがす。
ってこいつ離れねぇっ!? 力、強っ!? いや俺が弱いんだ。学校でも体育だけは評価めちゃくちゃ低いもんなぁ……。
「けれどマジメな話、視聴者を飽きさせないためにも、定期的に視覚的な新しさは必要だよ」
「なるほど」
「収益化記念ほど大きな……はっきり言っちゃうと”稼げる”イベントもしばらくない。このままダラダラとお金を貯めてても、3Dお披露目まで期間が開きすぎちゃう。だから路線変更!」
あー姉ぇはイタズラでも思いついたような表情で笑った。
自分の顔が引きつるのがわかった。あー姉ぇがこういう表情をするときはロクな目にあったためしがない。
「イロハちゃん、来月の収益が入ったら……新衣装を作ろう!」
2
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
せんせいとおばさん
悠生ゆう
恋愛
創作百合
樹梨は小学校の教師をしている。今年になりはじめてクラス担任を持つことになった。毎日張り詰めている中、クラスの児童の流里が怪我をした。母親に連絡をしたところ、引き取りに現れたのは流里の叔母のすみ枝だった。樹梨は、飄々としたすみ枝に惹かれていく。
※学校の先生のお仕事の実情は知りませんので、間違っている部分がっあたらすみません。
義姉妹百合恋愛
沢谷 暖日
青春
姫川瑞樹はある日、母親を交通事故でなくした。
「再婚するから」
そう言った父親が1ヶ月後連れてきたのは、新しい母親と、美人で可愛らしい義理の妹、楓だった。
次の日から、唐突に楓が急に積極的になる。
それもそのはず、楓にとっての瑞樹は幼稚園の頃の初恋相手だったのだ。
※他サイトにも掲載しております
〈社会人百合〉アキとハル
みなはらつかさ
恋愛
女の子拾いました――。
ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?
主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。
しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……?
絵:Novel AI
百合系サキュバスにモテてしまっていると言う話
釧路太郎
キャラ文芸
名門零楼館高校はもともと女子高であったのだが、様々な要因で共学になって数年が経つ。
文武両道を掲げる零楼館高校はスポーツ分野だけではなく進学実績も全国レベルで見ても上位に食い込んでいるのであった。
そんな零楼館高校の歴史において今まで誰一人として選ばれたことのない“特別指名推薦”に選ばれたのが工藤珠希なのである。
工藤珠希は身長こそ平均を超えていたが、運動や学力はいたって平均クラスであり性格の良さはあるものの特筆すべき才能も無いように見られていた。
むしろ、彼女の幼馴染である工藤太郎は様々な部活の助っ人として活躍し、中学生でありながら様々な競技のプロ団体からスカウトが来るほどであった。更に、学力面においても優秀であり国内のみならず海外への進学も不可能ではないと言われるほどであった。
“特別指名推薦”の話が学校に来た時は誰もが相手を間違えているのではないかと疑ったほどであったが、零楼館高校関係者は工藤珠希で間違いないという。
工藤珠希と工藤太郎は血縁関係はなく、複雑な家庭環境であった工藤太郎が幼いころに両親を亡くしたこともあって彼は工藤家の養子として迎えられていた。
兄妹同然に育った二人ではあったが、お互いが相手の事を守ろうとする良き関係であり、恋人ではないがそれ以上に信頼しあっている。二人の関係性は苗字が同じという事もあって夫婦と揶揄されることも多々あったのだ。
工藤太郎は県外にあるスポーツ名門校からの推薦も来ていてほぼ内定していたのだが、工藤珠希が零楼館高校に入学することを決めたことを受けて彼も零楼館高校を受験することとなった。
スポーツ分野でも名をはせている零楼館高校に工藤太郎が入学すること自体は何の違和感もないのだが、本来入学する予定であった高校関係者は落胆の声をあげていたのだ。だが、彼の出自も相まって彼の意志を否定する者は誰もいなかったのである。
二人が入学する零楼館高校には外に出ていない秘密があるのだ。
零楼館高校に通う生徒のみならず、教員職員運営者の多くがサキュバスでありそのサキュバスも一般的に知られているサキュバスと違い女性を対象とした変異種なのである。
かつては“秘密の花園”と呼ばれた零楼館女子高等学校もそういった意味を持っていたのだった。
ちなみに、工藤珠希は工藤太郎の事を好きなのだが、それは誰にも言えない秘密なのである。
この作品は「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルアッププラス」「ノベルバ」「ノベルピア」にも掲載しております。
春に狂(くる)う
転生新語
恋愛
先輩と後輩、というだけの関係。後輩の少女の体を、私はホテルで時間を掛けて味わう。
小説家になろう、カクヨムに投稿しています。
小説家になろう→https://ncode.syosetu.com/n5251id/
カクヨム→https://kakuyomu.jp/works/16817330654752443761
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる