11 / 49
第11話『青の天幕、緑の絨毯』
しおりを挟む
「「……」」
テオとエルフ少女のにらみ合い。
それを制したのはテオだった。
「はぁ~。わかったわよ。降参」
エルフ少女は嘆息し、警戒を解いた。
マジックで作られていた細剣が、光の粒となって霧散する。
「どうせなら、生きた状態でお父さんに見せたいし。けど、次にそんな反抗的な目をしたら許さないからね。だって、しつけは大事だから」
べつに死体でも構わない。そんなニュアンスだった。
ボクは今さらに気づく。
ここは異世界なのだ。
当然、命に対する価値観もボクたちとは全然ちがうのだ。
「……助か、った?」
いずれにせよボクは生き残ったらしい。
そう安堵したとき、下半身が一気に弛緩した。
「ぁっ」
じょじょろろろろ、ぶぶぶりゅびちゅ、と汚い音が部屋に響いた。
汚物の臭いがぷぅ~んと広がった。
「え、なに……ひ、きゃっ!? き、キモッ! 汚ッ! クサッ!」
エルフ少女は先ほどまでの高圧な態度とは一転、予想外な……いや、見た目に相応のかわいらしい悲鳴を上げ、全力でボクから距離を取った。
そして、我に返ってキレた。
「って、あぁあああもぉおおお~!? 最ッ悪ッ! あたしの秘密基地がクソまみれにぃいいい!? ちょっと、クソ人間! あんたもいつまでのんびり座ってんのよ!? 早く立って! 外に出て!」
エルフ少女は、ほとんどヒステリーに近い声で叫んだ。
ご、ごめんなさいぃいいい!
しかし、ボクも立ち上がりたいのだが腰が抜けていた。
結果、ばちゃんっ! と汚物でできた水たまりにケツを落っことしてしまう。
さらに、クソのしぶきがあたりに飛び散った。
彼女は「ぎゃぁああああああ!?」と悲鳴を上げた。
「なななっなにしやがんのよこのクソ人間!? さっさと外に出ろって言ってんでしょ! お願いだから早く出てよもうッ! あー殺す! 絶対殺してやる! だから外に出ろ!」
エルフ少女の髪が逆立っていた。
たぶんこれ、演出じゃない。魔力が顕現しようとしている証拠だ。
(あっ、ダメだこれ。今度こそ殺される)
エルフ少女の周囲にライトエフェクトが奔流となって表れる。
ボクが絶望とともに諦めかけたそのとき、身体がひょいと持ち上げられた。
「テ、オ……!」
そのまま外へと運び出されていく。
汚いものをつまむような持ちかたなのは、きっと気のせいだろう。
ボクはテオに心底感謝した。
やっぱり信じられるのは――”奴隷”だけだ!
「テオぉおおお、ありがとぉおおおっ!」
ボクはテオに抱き着いた。
べちゃっ、と汚れがついた。テオがどこかイヤそうな顔をしたのは、きっと見間違いだ。
「あーもう、キモい! あんたたち、ほんと最悪!」
失敬な! テオとの”友情”を貶さないでほしい!
ほんと不愉快しちゃう。
「マジック<クリーンナップ>」
ボクが部屋を出てすぐ、エルフ少女はマジックを唱えていた。
眺めている間に、室内から汚れが消えていく。
知らないマジックだった。
そもそも、ゲーム時代には『汚れ』という概念そのものが存在しなかったし。
どうやら現実との融合は、マジックの種類にまで影響を与えているらしい。
というか……。
「そのマジックで、ボクのこともきれいにしてくれればいいんじゃ」
ぼそり、とひとりごとを漏らす。
エルフ少女の長い耳は、それを聞き逃さなかったらしい。
「なにそれイヤミ? なんであたしが、そこまでしてあげなきゃいけないのよ!」
き、聞こえていたのか!?
ま、まぁ、そこまでは約束に入ってなかったし仕方ないよな!
部屋がきれいになるまで、おとなしく外で待っていよう。
いや、ビビッてなんかないっつの!
「はぁ……」
手持ちぶさたになったボクは視線を前方へと向けた。
その景色でも眺めて時間を……。
「え?」
ボクの目がくらんだ。
それは強い日の光が差し込んでいたせいだ。
そこでボクは違和感に気づいた。
おかしい。そういえばここは、うす暗い森の中じゃないのか?
まさか、気を失っている間にそんなにも移動した?
いや、にしてはいまだに自然の匂いが濃すぎる。
「……っ」
やがて、光に目が慣れてくる。
視界が一気に広がり……。
「なんっ、じゃここはぁああああああ!?」
ボクは思わず叫んだ。
視界には……。
――どこまでも続く青い天幕と、眼下を埋め尽くす緑の絨毯が広がっていた。
ヒントはあった。
丸っこい部屋の形状、窓から手を伸ばして届く距離にある枝葉。
「まさか、ここ……木の上ぇ!?」
巨大樹の中でもさらに頭ひとつ高い、超・巨大樹。
その枝の1本に、ボクは立っていた。
「ねぇ、あんたたち。ほらこれ」
呆然と眺めていると、背後からエルフ少女に声をかけられる。
なにかが出入り口のすぐ外に置かれていた。
それは水の入ったバケツと、それから1枚のぞうきんだった。
まさか……。
「部屋に入るなら、きれいにしてからじゃなきゃ許さないから」
「ぃっ!?」
いやいや、待て! 待ってくれ!
汚れを落とすことに異論はないが、こんな場所でか!?
こんな見晴らし最高の場所で露出しろって?
なにより、もし落っこちたらどうしてくれるんだ!?
「ぁ……ぅ、うぁ」
下を見ると足がガクガクと震えた。
もしここへ運ばれるときに意識があれば、こんな場所に来るなんて絶対に拒否していた。
枝は太く、そう簡単に足を踏み外しそうはない。
それに、いざとなったらテオが助けてくれると信じている。
だからって怖いことには変わりない。
ボクはこの世界のトンデモさに圧倒されていた――。
テオとエルフ少女のにらみ合い。
それを制したのはテオだった。
「はぁ~。わかったわよ。降参」
エルフ少女は嘆息し、警戒を解いた。
マジックで作られていた細剣が、光の粒となって霧散する。
「どうせなら、生きた状態でお父さんに見せたいし。けど、次にそんな反抗的な目をしたら許さないからね。だって、しつけは大事だから」
べつに死体でも構わない。そんなニュアンスだった。
ボクは今さらに気づく。
ここは異世界なのだ。
当然、命に対する価値観もボクたちとは全然ちがうのだ。
「……助か、った?」
いずれにせよボクは生き残ったらしい。
そう安堵したとき、下半身が一気に弛緩した。
「ぁっ」
じょじょろろろろ、ぶぶぶりゅびちゅ、と汚い音が部屋に響いた。
汚物の臭いがぷぅ~んと広がった。
「え、なに……ひ、きゃっ!? き、キモッ! 汚ッ! クサッ!」
エルフ少女は先ほどまでの高圧な態度とは一転、予想外な……いや、見た目に相応のかわいらしい悲鳴を上げ、全力でボクから距離を取った。
そして、我に返ってキレた。
「って、あぁあああもぉおおお~!? 最ッ悪ッ! あたしの秘密基地がクソまみれにぃいいい!? ちょっと、クソ人間! あんたもいつまでのんびり座ってんのよ!? 早く立って! 外に出て!」
エルフ少女は、ほとんどヒステリーに近い声で叫んだ。
ご、ごめんなさいぃいいい!
しかし、ボクも立ち上がりたいのだが腰が抜けていた。
結果、ばちゃんっ! と汚物でできた水たまりにケツを落っことしてしまう。
さらに、クソのしぶきがあたりに飛び散った。
彼女は「ぎゃぁああああああ!?」と悲鳴を上げた。
「なななっなにしやがんのよこのクソ人間!? さっさと外に出ろって言ってんでしょ! お願いだから早く出てよもうッ! あー殺す! 絶対殺してやる! だから外に出ろ!」
エルフ少女の髪が逆立っていた。
たぶんこれ、演出じゃない。魔力が顕現しようとしている証拠だ。
(あっ、ダメだこれ。今度こそ殺される)
エルフ少女の周囲にライトエフェクトが奔流となって表れる。
ボクが絶望とともに諦めかけたそのとき、身体がひょいと持ち上げられた。
「テ、オ……!」
そのまま外へと運び出されていく。
汚いものをつまむような持ちかたなのは、きっと気のせいだろう。
ボクはテオに心底感謝した。
やっぱり信じられるのは――”奴隷”だけだ!
「テオぉおおお、ありがとぉおおおっ!」
ボクはテオに抱き着いた。
べちゃっ、と汚れがついた。テオがどこかイヤそうな顔をしたのは、きっと見間違いだ。
「あーもう、キモい! あんたたち、ほんと最悪!」
失敬な! テオとの”友情”を貶さないでほしい!
ほんと不愉快しちゃう。
「マジック<クリーンナップ>」
ボクが部屋を出てすぐ、エルフ少女はマジックを唱えていた。
眺めている間に、室内から汚れが消えていく。
知らないマジックだった。
そもそも、ゲーム時代には『汚れ』という概念そのものが存在しなかったし。
どうやら現実との融合は、マジックの種類にまで影響を与えているらしい。
というか……。
「そのマジックで、ボクのこともきれいにしてくれればいいんじゃ」
ぼそり、とひとりごとを漏らす。
エルフ少女の長い耳は、それを聞き逃さなかったらしい。
「なにそれイヤミ? なんであたしが、そこまでしてあげなきゃいけないのよ!」
き、聞こえていたのか!?
ま、まぁ、そこまでは約束に入ってなかったし仕方ないよな!
部屋がきれいになるまで、おとなしく外で待っていよう。
いや、ビビッてなんかないっつの!
「はぁ……」
手持ちぶさたになったボクは視線を前方へと向けた。
その景色でも眺めて時間を……。
「え?」
ボクの目がくらんだ。
それは強い日の光が差し込んでいたせいだ。
そこでボクは違和感に気づいた。
おかしい。そういえばここは、うす暗い森の中じゃないのか?
まさか、気を失っている間にそんなにも移動した?
いや、にしてはいまだに自然の匂いが濃すぎる。
「……っ」
やがて、光に目が慣れてくる。
視界が一気に広がり……。
「なんっ、じゃここはぁああああああ!?」
ボクは思わず叫んだ。
視界には……。
――どこまでも続く青い天幕と、眼下を埋め尽くす緑の絨毯が広がっていた。
ヒントはあった。
丸っこい部屋の形状、窓から手を伸ばして届く距離にある枝葉。
「まさか、ここ……木の上ぇ!?」
巨大樹の中でもさらに頭ひとつ高い、超・巨大樹。
その枝の1本に、ボクは立っていた。
「ねぇ、あんたたち。ほらこれ」
呆然と眺めていると、背後からエルフ少女に声をかけられる。
なにかが出入り口のすぐ外に置かれていた。
それは水の入ったバケツと、それから1枚のぞうきんだった。
まさか……。
「部屋に入るなら、きれいにしてからじゃなきゃ許さないから」
「ぃっ!?」
いやいや、待て! 待ってくれ!
汚れを落とすことに異論はないが、こんな場所でか!?
こんな見晴らし最高の場所で露出しろって?
なにより、もし落っこちたらどうしてくれるんだ!?
「ぁ……ぅ、うぁ」
下を見ると足がガクガクと震えた。
もしここへ運ばれるときに意識があれば、こんな場所に来るなんて絶対に拒否していた。
枝は太く、そう簡単に足を踏み外しそうはない。
それに、いざとなったらテオが助けてくれると信じている。
だからって怖いことには変わりない。
ボクはこの世界のトンデモさに圧倒されていた――。
10
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった
ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます!
僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか?
『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件
さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。
数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、
今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、
わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。
彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。
それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。
今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。
「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」
「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」
「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」
「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」
命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!?
順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場――
ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。
これは――
【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と
【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、
“甘くて逃げ場のない生活”の物語。
――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。
※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる