31 / 42
本編
27
「…………ん?」
「いやその流れはもういいですって!だから、今の人と別れた後は俺と一緒に住みませんかって、言ってるんです!」
耳まで赤くした遠藤にそう詰められると、なんと言葉を返せばいいのかわからなかった。頭で言葉がまとまらず、ついじっと遠藤のことを見つめていると、恥ずかしさに耐えられなくなったのかふいと遠藤は顔を逸らす。自分が見つめておいて何だが、熱いほどの視線が逸れたことに俺はほっとしていた。
「……ごめん、その……なんと言えばいいか言葉がまとまらないんだけど、遠藤はすごく魅力的だって思うよ。……って、俺が言うまでもなくそんな事はわかってると思うけど」
あー、うーん……と小さく言葉を探すつなぎのような声を出しながら、俺はなるべく傷つけないような言葉を選ぼうとしたが結局、言葉で誤魔化すなんて器用なことはできなかった。
「でも、それは……恋愛感情にはならない。俺は遠藤のこと、可愛い後輩だって思ってる。それはこれからもきっと変わらない。俺の中で遠藤は、ずっと“可愛い後輩”でしかない」
真っ直ぐ遠藤の目を見つめてそう言う。見開かれた遠藤の目は明らかに悲しげで、何かを言いたげに開いては閉じることを繰り返す口は空虚さを感じさせた。少しの間を置いた後、遠藤はぎこちなく笑みを浮かべて言葉を溢した。
「恋愛感情、なくてもいいんです。吾妻さんが俺のことを好きになってくれなくてもいいんです。ただ……俺は吾妻さんと一緒にいたいんです」
人差し指で軽く突くだけで倒れてしまいそうだと思った。それほどまでに今の遠藤は体に力が入っていないように見える。縋るように見られると、揺らぐ心があるのも事実だった。
「……遠藤は、運命の番に会いたい?」
「…………え?」
「運命の番。……今までの人生を全部塗り替えちゃうみたいな、そんな衝撃的な相手が現れたら……どうする?」
突拍子もない俺の問いかけに呆気に取られたのか、遠藤は「は?」と口から出てきそうなほどポカンとした表情をしている。普段は絶対見られない表情に、こんな状況だというのに不思議と小さく笑いが溢れてしまった。
「はあ……ええと、そうですね……。もし……もし、本当に今までの自分の人生が全て塗り替えられてしまうくらいの衝撃だったのなら……不幸だなと、思うでしょうね」
「不幸?運命の番に出会えたのに、どうして?運命の相手と番になれば、フェロモンに惑わされなくなるし、精神的にも満たされるのに……」
予想外の言葉に少し前のめりになりながら遠藤にそう尋ねると、遠藤はふっと息を軽く吐き出すようにして緩く微笑んだ。
「例えばそうだなあ……吾妻さんはペットとか飼ったことあります?」
「ペット……犬なら、小学生の頃に飼ってたな……?柴犬となんかのミックスっぽい野良犬が近所を彷徨ってたから、保護して飼い犬にして」
遠藤の突拍子もない質問に、今度は俺が間抜けな顔を晒すことになった。遠藤は少し考えるように目線を斜め上に逸らして口を開く。
「飼っていて、『血統書付きの綺麗で見栄えのいい犬の方が良かったなあ』とか思いました?」
「そんなわけない!……すごく可愛かったし、俺にとっては特別だったよ」
「……そうですよね、吾妻さんはそんなこと気にする人じゃない。……でも、どれだけ吾妻さんが心からそう思っていても、脳が“その美しい犬を手に入れろ!その犬だけを愛せ!”って命令してきたら、どうです?」
「それは、……」
遠藤の言いたいことに気づき、それ以上の言葉は口から出てこなくなってしまった。
……それは、なんて残酷なんだろうと。
「大切にしてきたものが急に道端の石ころになってしまうような、そんな感覚を運命の番が強制するって言うなら……俺は、運命の番なんかに心底会いたくないですよ」
目を閉じて笑った遠藤の顔は、笑っているのにどうしてか泣いているようにも悲しんでいるようにも見えた。ふと脳裏に五紀の「大丈夫だから」と言う声が響いた気がする。あの時、五紀もこんな顔で笑っていたんだろうか。
「……でも、俺は運命の番に出会ってないからこんなこと言えるのかもしれないですけど……信じたいです。そんな降って湧いた奇跡みたいなロマンチックな運命なんかじゃなくて、退屈にも感じられるような繰り返しの人生の中にずっといてくれた、地味で目立たないけれど確かに積み上げてきたものを選べるって。……そう自分を信じたいですよ」
あなたにおすすめの小説
番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か
雪兎
BL
第二性が存在する世界。
Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。
しかし入学初日、彼の前に現れたのは――
幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。
成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。
だが湊だけが知っている。
彼が異常なほど執着深いことを。
「大丈夫、全部管理してあげる」
「君が困らないようにしてるだけだよ」
座席、時間割、交友関係、体調管理。
いつの間にか整えられていく環境。
逃げ場のない距離。
番を拒みたいΩと、手放す気のないα。
これは保護か、それとも束縛か。
閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。
ヤンデレだらけの短編集
八
BL
ヤンデレだらけの1話(+おまけ)読切短編集です。
【花言葉】
□ホオズキ:寡黙執着年上とノンケ平凡
□ゲッケイジュ:真面目サイコパスとただ可哀想な同級生
□アジサイ:不良の頭と臆病泣き虫
□ラベンダー:希死念慮不良とおバカ
□デルフィニウム:執着傲慢幼馴染と地味ぼっち
ムーンライトノベル様に別名義で投稿しています。
かなり昔に書いたもので芸風(?)が違うのですが、楽しんでいただければ嬉しいです!
【異世界短編】単発ネタ殴り書き随時掲載。
◻︎お付きくんは反社ボスから逃げ出したい!:お馬鹿主人公くんと傲慢ボス
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…
しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。
高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。
数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。
そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…
お兄ちゃんができた!!
くものらくえん
BL
ある日お兄ちゃんができた悠は、そのかっこよさに胸を撃ち抜かれた。
お兄ちゃんは律といい、悠を過剰にかわいがる。
「悠くんはえらい子だね。」
「よしよ〜し。悠くん、いい子いい子♡」
「ふふ、かわいいね。」
律のお兄ちゃんな甘さに逃げたり、逃げられなかったりするあまあま義兄弟ラブコメ♡
「お兄ちゃん以外、見ないでね…♡」
ヤンデレ一途兄 律×人見知り純粋弟 悠の純愛ヤンデレラブ。