【R-18▶︎BL】運命を捻じ曲げるほどの【本編完結】

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本編

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「…………ん?」

「いやその流れはもういいですって!だから、今の人と別れた後は俺と一緒に住みませんかって、言ってるんです!」

 耳まで赤くした遠藤にそう詰められると、なんと言葉を返せばいいのかわからなかった。頭で言葉がまとまらず、ついじっと遠藤のことを見つめていると、恥ずかしさに耐えられなくなったのかふいと遠藤は顔を逸らす。自分が見つめておいて何だが、熱いほどの視線が逸れたことに俺はほっとしていた。


「……ごめん、その……なんと言えばいいか言葉がまとまらないんだけど、遠藤はすごく魅力的だって思うよ。……って、俺が言うまでもなくそんな事はわかってると思うけど」

 あー、うーん……と小さく言葉を探すつなぎのような声を出しながら、俺はなるべく傷つけないような言葉を選ぼうとしたが結局、言葉で誤魔化すなんて器用なことはできなかった。

「でも、それは……恋愛感情にはならない。俺は遠藤のこと、可愛い後輩だって思ってる。それはこれからもきっと変わらない。俺の中で遠藤は、ずっと“可愛い後輩”でしかない」

 真っ直ぐ遠藤の目を見つめてそう言う。見開かれた遠藤の目は明らかに悲しげで、何かを言いたげに開いては閉じることを繰り返す口は空虚さを感じさせた。少しの間を置いた後、遠藤はぎこちなく笑みを浮かべて言葉を溢した。


「恋愛感情、なくてもいいんです。吾妻さんが俺のことを好きになってくれなくてもいいんです。ただ……俺は吾妻さんと一緒にいたいんです」

 人差し指で軽く突くだけで倒れてしまいそうだと思った。それほどまでに今の遠藤は体に力が入っていないように見える。縋るように見られると、揺らぐ心があるのも事実だった。


「……遠藤は、運命の番に会いたい?」
「…………え?」
「運命の番。……今までの人生を全部塗り替えちゃうみたいな、そんな衝撃的な相手が現れたら……どうする?」

 突拍子もない俺の問いかけに呆気に取られたのか、遠藤は「は?」と口から出てきそうなほどポカンとした表情をしている。普段は絶対見られない表情に、こんな状況だというのに不思議と小さく笑いが溢れてしまった。

「はあ……ええと、そうですね……。もし……もし、本当に今までの自分の人生が全て塗り替えられてしまうくらいの衝撃だったのなら……不幸だなと、思うでしょうね」
「不幸?運命の番に出会えたのに、どうして?運命の相手と番になれば、フェロモンに惑わされなくなるし、精神的にも満たされるのに……」

 予想外の言葉に少し前のめりになりながら遠藤にそう尋ねると、遠藤はふっと息を軽く吐き出すようにして緩く微笑んだ。

「例えばそうだなあ……吾妻さんはペットとか飼ったことあります?」
「ペット……犬なら、小学生の頃に飼ってたな……?柴犬となんかのミックスっぽい野良犬が近所を彷徨ってたから、保護して飼い犬にして」

 遠藤の突拍子もない質問に、今度は俺が間抜けな顔を晒すことになった。遠藤は少し考えるように目線を斜め上に逸らして口を開く。

「飼っていて、『血統書付きの綺麗で見栄えのいい犬の方が良かったなあ』とか思いました?」
「そんなわけない!……すごく可愛かったし、俺にとっては特別だったよ」
「……そうですよね、吾妻さんはそんなこと気にする人じゃない。……でも、どれだけ吾妻さんが心からそう思っていても、脳が“その美しい犬を手に入れろ!その犬だけを愛せ!”って命令してきたら、どうです?」
「それは、……」

 遠藤の言いたいことに気づき、それ以上の言葉は口から出てこなくなってしまった。

 ……それは、なんて残酷なんだろうと。


「大切にしてきたものが急に道端の石ころになってしまうような、そんな感覚を運命の番が強制するって言うなら……俺は、運命の番なんかに心底会いたくないですよ」

 目を閉じて笑った遠藤の顔は、笑っているのにどうしてか泣いているようにも悲しんでいるようにも見えた。ふと脳裏に五紀の「大丈夫だから」と言う声が響いた気がする。あの時、五紀もこんな顔で笑っていたんだろうか。


「……でも、俺は運命の番に出会ってないからこんなこと言えるのかもしれないですけど……信じたいです。そんな降って湧いた奇跡みたいなロマンチックな運命なんかじゃなくて、退屈にも感じられるような繰り返しの人生の中にずっといてくれた、地味で目立たないけれど確かに積み上げてきたものを選べるって。……そう自分を信じたいですよ」

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