甘夏の香り

千草

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島と伝説

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神青島。人口800人程の小さな島。
山と海に囲まれた自然豊かな有人島である。

古き良き伝統を重んじながら暮らしている。
お蔭で、古臭い習わしやしきたりがある。

その中でも有名なのが神降り子伝説。
神降り子様が訪れ、島に幸福を喚ぶ。
昔から語り継がりてきた伝説。


そんな、今の現代から取り残されたような
この島に生まれた俺は、酷くこの世を恨んだ。

(なんで俺がこんな所に生まれたんだ。
もっと自由にいろんな場所に行き来したり
簡単に友達の所に会いに行ったりしたい。)


小学生ながら、そんな事ばかり考えていた
俺の名前は、宍戸  海里。
宍戸一族の一人息子であり跡取り息子。
島からも家族からも大切にされてきた俺が
どんなに望んでも手に入れれなかったもの
それが、この島からの外出だった。


どんなに望んでも手に入らなかった。

出たいと願えば、それは絶対に駄目だと止められた。だけどそれは、俺の欲望を掻き立てるものだった。


出来事が始まる前日、
島から出る事で父親と喧嘩して不貞腐れていた
俺に父方の祖母が話しかけてきた。

「海里がこの島を出る時は、運命が上手くいかん時やな。
運命が上手くいくと、この島の本当の魅力が分かる。」

そう言われた。

その言葉を俺は鼻で笑った。

「俺に上手くいかん時なんかあるか。
全て上手くいって、こと無くして島を出る。」

まだ6年しか生きてない小僧が
そう言うものだから、祖母は笑いながら
いつか分かる。自分の傲慢さが。
と、笑いながら頭を撫でた。



そして、次の日祖母は行方不明になった。

書き置き一つ残して。


―10年後に神降り子が来る。
   それまでの準備の為に行きます。―

その書き置きを見た両親は、
何かを読み取り祖母の捜索を止めた。

何故だか分からなかったが、何かあるのだと思った。
時折、祖母の部屋の前を通り、
その部屋を覗いては、優しく笑う祖母が
いつもの縁側に座っていないことを、
酷く悲しく感じた事を今でも憶えている。


そして、祖母の行方不明から10年が経った。

俺は高校2年になり、
身長が180を超えたり、声が変わったりした。
クラスでもそれなりにモテたけど、
許嫁のいる俺がよそを見る事はなかった。

夏休みの間も、友達や許嫁が家に来たりして
賑やかに過ごす日々だった。


夏休み真っ只中の穏やかな日、
俺や周りの運命を変える出来事が起きた。



朝早くから1台のタクシーが俺の家の前に止まった。
俺の家が旅館だったため、
客が来たのだと、部屋の窓から見ていた。

降りてきた人が、白いワンピースを着ていたので
女の子だと分かり、日焼け防止なのか
顔が全く見えない程の大きな麦わら帽子を被っていた。
そして、女の子はチラリと上を見上げた。
見上げる青い綺麗な瞳が俺の視線とぶつかると、
大きなため息をついて中に入っていった。


その行動に俺は惹かれるものを感じ、
慌てて着替え、下に降りていった。

下に行く階段に近づくと、
両親が出迎えているのか、話し声が聞こえ始めた。


「はい。先月息を引き取りました。
なので、その知らせを伝えるのと巡るため
しばらく、この島にいる事が決まりました。」

鈴が鳴るような可愛らしい声がする。

「そうですか、ありがとうございます。
祖母も喜ぶことでしょう。
何卒、よろしくお願いします。」

その声に応えながら、
父親が深々と頭を下げている姿が階段を降りている最中に見えてきた。
正直、俺はかなり驚いた。

誰に対しても威厳ある父親が、
俺と同い年くらいの女の子に
頭を下げている光景がとても印象的だった。

「父さん。」

俺は、階段を降りると声をかけた。

「あぁ海里。おいで。」

父親は丁度良さそうに、俺に手招きした。
俺は父親の行動に従い、その横に立った。

「この方は神降り子様だよ。」

父親は、その子に手を向けて俺に紹介した。

そして、女の子は帽子を被ったまま
ニコリと俺を見て微笑んだ。
とても可愛いらしかったが、綺麗な愛想笑いだと分かった。

だけどそんな事よりだった。

「え?あれはただの伝説だろ?」

俺は、思ったことをそのまま言葉にした。

その言葉に両親は唖然とし、
さっきまで微笑んでいた女の子はため息をついた。



「呆れた。とんだバカ男ね。」
 

女の子はそう言って、被っていた大きな麦わら帽子を取った。
そしてそこから現れたのは、白く染まる長い髪の毛。
だが、中間辺から徐々に綺麗な桃色になっていた。

思わず目を奪われた時、入口から風が入った。

その風にのって、女の子から甘夏の香りがした。


神々しい。


その子を例えるにはそれが等しかった。


「図体ばっかり大きくなったガキね。」

そう言ってため息をつく女の子。
冷めた青い目から機嫌が悪いのが伺える。

「本当に申し訳ございません。
息子は島の外にばかり気が向いていて。」

それを感じた両親が弁解をした。

「なるほどね。でも、ここまで傲慢に
育ったのは貴方達が甘やかしすぎたから。」

「はい、反省しております。」


頭を下げる両親に、腕を組んで答える
その子の態度に俺は苛立った。

「神降り子だかなんだか知らないが、
何だよその態度。何様のつもりだよ。」

「っ!!?海里!!!」

俺の発言に、父親は勢いよく頭を上げる。
そして、顔を赤くしながら怒鳴った。

「宍戸さん。別にいいよ。
…そうね、一つ予言をしてあげましょう。」

そう言って女の子は俺を見て微笑んだ。
その微笑みが、さっきとはとても違い、
挑発的で喧嘩をする前のような顔をしていた。

俺から視線を外すと女の子は、手荷物から骨組みに飾りのついた淡い桜色の扇子を取り出した。
その扇子を閉じたまま顔の前で構え目を閉じた。


「宍戸 海里。そなたに予言を降ろす。」


その言葉を口にした瞬間、
扇子をバッと勢いよく開き大きな瞳を開く。
その行動と共に、彼女の雰囲気がガラリと変わった。

纏っている空気が少し冷たくなり、
青い瞳をゆらりと光らしていた。

その光景に、両親は手を握り息を呑んだ。

「本日より3の時が経つ時、
そなたは人の山から崩れ落ちる。
取り戻したくば、己を見直し得を詰め。」


そう言い終えると、
また、大きな麦わら帽子を被り
両親に会釈をして出ていった。

その両親の顔は酷く青ざめていた。

「なんだよ…今の。」

そう呟いた時だった。


ガツン


頭に響く痛みを頬に感じた。
そして、鈍く痛みが増していく。

「お前はなんて事をしたんだ!!!
神降り子様に啖呵切る様な事をして!!!」

さっきまで青かった顔が
腸煮えくり返っているように赤くなっていた。
俺は頬を擦りながら親父を見つめ反発した。

「だから、神降り子なんて伝説。
今どき信じてる方が可笑しいんだよ!!!
あんなの…ただの伝説なんだからさ!!!」

「~っ!!!お前と言う奴は!!!
まぁいい!!!今日から3日後よく分かるさ。
祖母の言いつけ通り、出ていくか出ていかないか。
私たちは見させてもらうからな!!!」

そう言って、父はズカズカと店の奥に
歩いていった。

母は、俺を心配しながらも父の後に
ついて行ってしまった。

「なんだよ!!!くそっ!!!」

俺は大声をあげて、
自分の部屋に駆け上がって行った。


そう、この日から俺達の日常が変わった。

あの予言を始まりに、
これからの未来平凡だった日常が、
すべて変わったのだ。
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