甘夏の香り

千草

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罪を罪とする日

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とうとう、3日目がきた。
落ち着かない俺は、祖母の部屋だった離れで
庭を眺めていた。

だが、あの女から言われた言葉が頭を反芻した。


『本日より3の時が経つ時、
そなたは人の山から崩れ落ちる。
取り戻したくば、己を見直し得を詰め。』


冷たい空気、青く揺らめく瞳が俺を見つめる。
どんなに離したくても離れない。

俺の周りをまとわりつかれるような。

昔にも、こんな瞳に見られた記憶がある。
何だったのだったけ…。


にゃー…。

ビクッ。

俺は顔を上げた。
庭の影から除く金色の瞳。
真っ黒な黒猫がこちらを除いてくる。

首に赤い紐を巻いた猫。


思い出した。昔、山で出会った猫。
千鶴と遊んでいると、足にまとわりついてきた。
追い払っても付いてくる。

苛立ち蹴り飛ばした。
すると、岩にぶつかり死んだ。


怖くて2人で逃げ出した。

久しぶりに思い出した、
怖くて嫌になる思い出。

俺は茂みに手を入れようとした。

「咲夜。出ておいで。」

にゃーん。

その声に、茂みから猫が飛び出した。
俺はその後をつける。
朝から猫を探している暇な奴は誰だ。

そんな興味本位だった。

表に出てみると、
青地に薄紫の紫陽花を描いた浴衣を着た
あの女が立っていた。

猫を抱き上げて優しく微笑んだ。

「目的の人は見れた?」

その言葉に猫は頷いた。

その仕草に笑うと、羽音が聞こえてきて、
1羽の烏が女の肩に乗った。

「お帰りなさい。叶羽。」

烏は頭を女の頬に擦りつけた。
微笑ましい光景をただ、ぼんやりと眺めた。

「まーた覗き見?いい趣味ね。」

そう言いながら猫を腕の中で撫でた。

「気づいとったんか。」
「えぇ。随分前からね。
…目と耳がいいからね…。」

そう、寂しげに呟いてきた。

「…今日が予言の日だけど、
ちゃんと悔い改めたのかしら?」

その言葉に俺は黙ったまま近寄った。

「改める事なんかない。
俺は、何にも悪い事してないからな。」

そう言って、女を人睨みすると、
俺は背を向けて歩いた。


チリン…

『猫を…私を殺したくせに…。』


ザァァァーー


凄まじい風の中で鈴の音と、
京都言葉で確かにそう聞こえた。

振り返ると、女と動物達は歩いていく所だった。

腕に抱えられた猫は、
金色の瞳を輝かせながらこちらを見ていた。
ゾクリと、背筋を何かが走った。

慌てて部屋に戻り、
部屋の窓から女の後ろ姿を見つめた。
薄気味悪いのか、神々しいのか分からない。


その日、俺は家に閉じ篭った。
あの金色の瞳が忘れられなくて。

夕方になると、下の階から母親に呼ばれた。
返事をして降りていくと、
黒地に鮮やかな牡丹が描かれた浴衣を着た
千鶴が玄関に立っていた。
俺に気づくと、千鶴は微笑んで手を降ってきた。

「なんや、お前も浴衣なんか着てどうしたん?」

「何ゆーとん、今日は夏祭りやろ?
あの女の子が、神楽殿で白拍子舞うみたいやから
一目見たろー思ったのと、前から約束してたで?」


その言葉に俺は、夏祭りを忘れていた事に気がついた。俺はため息をついて、千鶴に謝った。

そして、浴衣に着替えてくるから、
待っとくようにと伝えて慌てて上に上がった。


浴衣に着替えていると、
コンコンと、窓ガラスが鳴った。
何だと窓の外を見るの、朝の烏がいた。

口に何か加えている。

窓を開けると、烏は窓枠に手紙を置いて、
そのまま立ち去っていった。

紙を手に取り、中を開いた。
紙には、小さな可愛らしい文字で文が書いてあった。

『懺悔さすれば予言は消える』

俺はその手紙をビリビリと破いてゴミ箱に入れた。

「懺悔なんかみっともない事するか。」

そう言って、帯を締め直して部屋を出た。
この懺悔の必要性などつゆ知らずに。



祭りに行くと、昨年より人が増えていた。
昨年は、年寄りはさほど来てなかったのに
今年は、子供から年寄りまで沢山集まっている。

どうせ理由は、あの神降り子目当てだろ。
さすがの俺でも分かる。

千鶴と屋台を巡りながら歩いていると、
前方で風鈴を選ぶ千駿を見つけた。
色々な風鈴を眺めて、真剣な顔で選んだ。

通りすぎる人は、それを見て囁く。
カッコイイだの綺麗だの。
でも、一番は神降り子様へのプレゼントだと
呟くのが多かった。

たった3日で、あの女と千駿の仲は
島中に広まった。
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