ひどくされても好きでした

白い靴下の猫

文字の大きさ
94 / 141

94. 拘束、ではあるのだが

しおりを挟む
拘束、ではあるのだが。
パチドは、片方の腕にはまった軽くて弾力のある拘束具を見てため息をつく。犬の散歩に使う伸縮リードを改良したような透明な魔道具で、あきらかにグリーンのお手製。そしてその先についているのは当然グリーン。

なぜ、繋がれているのが杭ではなく、グリーンなのか。なぜ、場所が獄ではなく、司令官室なのか。

つっこみたいことが目白押しだ。
繋がっているグリーンも不自由なはずなのに、なぜかうれしそうに見えるのも、一緒に食べている食事中に、こっちの皿に好物を放り込んでくるのもやめて欲しい。

「なんで俺が働いているんだ?」

軍部の部下は、普通にパチドに指示を仰ぎに来るし、次々あがってくる報告にも目を通さされる。兵の訓練には出ていないが、デスクワーク的には、普段の倍は働いている。

「お前を獄につないで軍の機能が維持できるか、ばか者。だが、お前とミケを引き離しておかねば、また騒ぎが起きる」

「対症療法が過ぎるでしょうが。ミケが、本気で動いたら俺には止められませんよ?」

「どれほど甘いのだ。公妾の時ほどひどい拘束をしろと言っているわけではない。お前が絶対的な支配者として支配しろと言っているだけだ」

「そんな恋人も夫婦も長続きしませんよ」

「恋人でも、夫婦でもないだろうが!フェルニア貴族の当主にできたことが、なぜお前に出来ん!」

そう言う基準か、とパチドは頭を抱えたくなる。

「ミケの目的が違うからです!」

どこまでしゃべって問題ないだろうか。

「違わんだろうが。交妾として虐待した当主や魔術師たちに復讐するのも、監禁所で虐待したムーガルに復讐するのも同じだ」

「ミケが、フェルニアの魔術師に復讐したのは、大切な人と場所を奪われたからです。その復讐のために公妾に甘んじたのであって、公妾にされたことの復讐ではありません」

「・・・おまえは、あの監禁所の地獄を見ていないから、そう言える。死ねぬだけで受けねばならぬと諦められる苦しみではなかったはずだ」

「その場合、ムーガルは、普通謝罪しませんかね。許してもらえなそうだから殺してしまおう、というのは、喉が渇いたと言ったから喉を切ってあげよう系の嫌な思い出をほうふつとさせますが?」

堂々巡りを続けながら、グリーンはミケが自らの身を犠牲に交渉に来ることを、パチドは軍に非常事態が起きることを待っていた。



シェド、かえってこないなー。
使用人さん達、バタバタした感じだなー。

普段ミケの世話をしてくれるのは、女性なのだが、今日は何故か男性のレガスさんが隣の部屋に陣取っていて、ミケの用事もこなしてしまう。

レガスさんは、これを使用人に括るのは不味いのではないかという執事っぽい仕事+アルファをしていて、パチドもシェドも頼りにしているやり手さんだ。表には出していないけれど、多分魔力持ち。しかも忙しくなると、足の運び方とか変わってきて、そこら辺の兵士より絶対強いよ、この人、って思う。

そのレガスさんが、ものすごい勢いで、通信しながら、他の使用人さんに指示だししながら、なんか書類確認しながら、それでも、にっこりミケにスープとか、おやつとか出してくれたり、お風呂が沸きましたよとか、体調悪くないですかとか、外の空気を吸いたいときは言ってくださいねとか、過保護してくる。

「あの、レガスさん、パチドから私のこと、なにか頼まれています?」

「ええ、できるだけ外に出ないように『おねがい』してくれと」

おねがい、ってなんだ?
と思うけれどもあまりに忙しそうなので、ちょっと長話しはしにくい。

でも、最近はずっと一緒に食べていた晩ごはんにもシェドは帰ってこなくって。翌朝になっても帰ってこなくって。
ずんずん不安になってくる。でも、私を捨てるにしたって、普通自分の家には捨てていかないよね?

「レガスさん、ひょっとして、色々困ったことになっています?」

「いえ、大したことでは・・」

と言いかけたところで、使用人さんから声がかかる。

「レガス様、表にレンツ様です。どうしますか?追い返しま・・」

「入れて!無理なら私が会いに行きます!」

レガスさんの前に私が答えていた。

レガスさんがちょっとだけ『しまった』的な顔をしたけれども、どう考えてもレンツから話を聞く方が早い。

レンツは両側に2人使用人をくっつけて入って来た。
何だ、この厳戒態勢。

「いつから要塞化したんだよ、この家は」
まったく同感だ。

「よく来てくれました。あと、一昨日はどうもありがとう。とてもたすかりました」
頭を下げると、レンツは『お安い御用だ』と言って、ちょっと笑った。

「この様子だと、パチドは自分が捕まるの、織り込み済みか?」

「捕まった?!なんで?一昨日の件では、命令違反はしてないはずよ?!」

「総司令直下の兵士200人を一遍に瞬間転移させたそうだぞ?命令違反以前の問題だろうが」

に、200人?!それで魔素欠だったの?!

「レガスさん!パチドは仕事に出かけたのではなくて出頭したの?!」
「いえ・・」

「お前が、黒い魔素だって指名手配されたから撤回させに行った。だが、捕まったところを見ると決裂したんじゃないのか?」

「黒い魔素?!いやいや、それなら、ムーガルの役人半数は死んでいるはずとか思わない?!」

黒い魔素は、冥界から噴き出してくる魔素で、噂では、時たま黒い魔素を使えるすごい魔術師が出るけれども、そう言う人以外は、触れただけでばたばた死ぬし、たくさん外に漏れ出れば、風は止み、波も止まり、天変地異が起こるという。ちょっと狙った人を殺せます、とかとは、スケールの違う話だ。

「向こうも言いがかりは百も承知だと思うぞ。ミケを攻撃されたくなければ、名家の嫁とってグリーンの家継いで、ムーガル王への忠誠を示せってパチドに迫っている最中だとさ」

「なに、あたし人質なの?!今、なんかよくわからないけど私、めちゃくちゃシェ・・パチド怒らせちゃっているのに、無理がない?」

「痴話げんかのレベルじゃないだろうが。パチドはお前を傷つけられて怒っていて、造反しかねない。ミケがそばにいれば、1師団どこにでも転移できるような最高実力者が、だぞ。軍は気が気じゃなくて当然だ」

そりゃ気が気じゃないだろうけど。

「うー、レガスさん、私、絶対外に出ちゃダメ?」

「いえ、絶対ではないのですが、おねがい、と」

「この場合、そのおねがい聞いていると、私、相当足手まといだと思うのですが?!」

ピンポーン

要塞化したこの家に普通のお客があり得ぬ以上、なるはずのないチャイムの音が響く。
レガスさんも私も一瞬固まったのち、叫んだ。

「入れろ!」
「入れて、ルカよ!」

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結・おまけ追加】期間限定の妻は夫にとろっとろに蕩けさせられて大変困惑しております

紬あおい
恋愛
病弱な妹リリスの代わりに嫁いだミルゼは、夫のラディアスと期間限定の夫婦となる。 二年後にはリリスと交代しなければならない。 そんなミルゼを閨で蕩かすラディアス。 普段も優しい良き夫に困惑を隠せないミルゼだった…

【完結】恋につける薬は、なし

ちよのまつこ
恋愛
異世界の田舎の村に転移して五年、十八歳のエマは王都へ行くことに。 着いた王都は春の大祭前、庶民も参加できる城の催しでの出来事がきっかけで出会った青年貴族にエマはいきなり嫌悪を向けられ…

遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。

沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。 すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。 だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。 イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。 変わり果てた現実を前に、 夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。 深い後悔と悲しみに苛まれながら、 失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。 しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。 贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。 そして、母の心を知っていく子供たち。 イネスが求める愛とは、 そして、幸せとは――。

借金まみれで高級娼館で働くことになった子爵令嬢、密かに好きだった幼馴染に買われる

しおの
恋愛
乙女ゲームの世界に転生した主人公。しかしゲームにはほぼ登場しないモブだった。 いつの間にか父がこさえた借金を返すため、高級娼館で働くことに…… しかしそこに現れたのは幼馴染で……?

魔法師団長の家政婦辞めたら溺愛されました

iru
恋愛
小説家になろうですでに完結済みの作品です。よければお気に入りブックマークなどお願いします。 両親と旅をしている途中、魔物に襲われているところを、魔法師団に助けられたティナ。 両親は亡くなってしまったが、両親が命をかけて守ってくれた自分の命を無駄にせず強く生きていこうと決めた。 しかし、肉親も家もないティナが途方に暮れていると、魔物から助けてくれ、怪我の入院まで面倒を見てくれた魔法師団の団長レオニスから彼の家政婦として住み込みで働かないと誘われた。 魔物から助けられた時から、ひどく憧れていたレオニスの誘いを、ティナはありがたく受ける事にした。 自分はただの家政婦だと強く言い聞かせて、日に日に膨らむ恋心を抑え込むティナだった。 一方、レオニスもティナにどんどん惹かれていっていた。 初めはなくなった妹のようで放っては置けないと家政婦として雇ったが、その健気な様子に強く惹かれていった。 恋人になりたいが、年上で雇い主。 もしティナも同じ気持ちでないなら仕事まで奪ってしまうのではないか。 そんな思いで一歩踏み出せないレオニスだった。 そんな中ある噂から、ティナはレオニスの家政婦を辞めて家を出る決意をする。 レオニスは思いを伝えてティナを引き止めることができるのか? 両片思いのすれ違いのお話です。

【第一章】狂気の王と永遠の愛(接吻)を

逢生ありす
ファンタジー
 女性向け異世界ファンタジー(逆ハーレム)です。ヤンデレ、ツンデレ、溺愛、嫉妬etc……。乙女ゲームのような恋物語をテーマに偉大な"五大国の王"や"人型聖獣"、"謎の美青年"たちと織り成す極甘長編ストーリー。ラストに待ち受ける物語の真実と彼女が選ぶ道は――? ――すべての女性に捧げる乙女ゲームのような恋物語―― 『狂気の王と永遠の愛(接吻)を』 五大国から成る異世界の王と たった一人の少女の織り成す恋愛ファンタジー ――この世界は強大な五大国と、各国に君臨する絶対的な『王』が存在している。彼らにはそれぞれを象徴する<力>と<神具>が授けられており、その生命も人間を遥かに凌駕するほど長いものだった。 この物語は悠久の王・キュリオの前に現れた幼い少女が主人公である。 ――世界が"何か"を望んだ時、必ずその力を持った人物が生み出され……すべてが大きく変わるだろう。そして…… その"世界"自体が一個人の"誰か"かもしれない―― 出会うはずのない者たちが出揃うとき……その先に待ち受けるものは? 最後に待つのは幸せか、残酷な運命か―― そして次第に明らかになる彼女の正体とは……?

【R18】熱い夜の相手は王太子!? ~婚約者だと告げられましたが、記憶がございません~

世界のボボブラ汁(エロル)
恋愛
激しい夜を過ごしたあと、私は気づいてしまった。 ──え……この方、誰? 相手は王太子で、しかも私の婚約者だという。 けれど私は、自分の名前すら思い出せない。 訳も分からず散った純潔、家族や自分の姿への違和感──混乱する私に追い打ちをかけるように、親友(?)が告げた。 「あなた、わたくしのお兄様と恋人同士だったのよ」 ……え、私、恋人がいたのに王太子とベッドを共に!? しかも王太子も恋人も、社交界を騒がすモテ男子。 もしかして、そのせいで私は命を狙われている? 公爵令嬢ベアトリス(?)が記憶を取り戻した先に待つのは── 愛か、陰謀か、それとも破滅か。 全米がハラハラする宮廷恋愛ストーリー……になっていてほしいですね! ※本作品はR18表現があります、ご注意ください。

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

処理中です...