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8 肩のケガは嫌いだ
シューバは、あかりの肩にきれいに巻かれた包帯をほどいた。
腫れてしまって、色も変わっている肩に、薬を伸ばしていく。
できるだけそうっと塗っているつもりだが、傷がうずくのか、時おりあかりのうめき声が漏れる。
肩のケガは、嫌いだ。
3年前の別れの時も、あかりは肩をケガしていた。強く抱きしめることも、ひっつかんで引き留めることもできず、握手すらおざなりで。
それでもあの時は、傷があるからと、痛むからだと、理由を言ってくれた。
今は、それすらも言わない。
こんなにひどい怪我をしていたのに。
再会の時も、きっと怪我があった。
両肩を押さえつけて、壁に追い詰めたのを覚えている。
彼女が不快そうに自分を見上げる目が、我慢できなかった。
痛かったのなら、そう言ってくれればよかったのだ。
「ん、さとる?肩さわるな、いたい・・んうっ」
さとるの名前が出て、我慢できずに肩を掴むと、あかりはひどく顔をしかめて目を開けた。
「あ、れ?シューバく・・じゃない、シューバ?あー、私寝ちゃったのか。ごめん、ごめん」
ごめんはないだろう。
眠った理由は、シューバが打った薬のせいだ。
「アンタ、なんで肩のこと黙ってた?」
あかりは、肩?という感じで、自分のケガをチロリとみただけで黙殺した。
「違和感だなぁ。自分は『君』って呼ぶなっていうくせに、『アンタ』ってなんだかなぁ。そんな呼び方、してなかったじゃない?」
そうだ、そんな呼び方はしていなかった。
「あか、り」
呼んでみると、ずるりと、体の中から内臓を引きずり出されるような、嫌な感触がよみがえる。
彼女はそうっと手を放していったつもりなのだろうが、シューバには彼女が引いて行こうとする一瞬一瞬が臓腑を引きちぎられる程の苦しみだった。
なんでもする、なんでもするから、やめてくれ、止まってくれと、叫びたかった。彼女が考え直してくれるよう、毎日祈った。
祈りは、欠片も届かなかった。
それでもあかりは、呼ばれたら答える。
「はぁい」
3年前を思い出す。
あかりと『寝た』と言ったのは、シューバにとっては嘘ではない。
ただ、ふたりともそう言いう経験がなかったから、いろいろ引っかかって、最後までできなかったけれど。
2人してベッドからおっこちて、笑ってしまって、また今度!ってなる程度のことで。
そのあかりが今、目の前で、無造作に力の入らない四肢を投げ出している。
好きにさせてやると言わんばかりの態度で。
何の価値もないもののように投げ与えられた祈りの欠片。
何をしてもなじりすらしない彼女の態度は、どうせ先はないのだから、今だけは好きにさせてやろうと、口よりも雄弁に語っているようで。
そんな蜃気楼など、欲しくはない。
腫れてしまって、色も変わっている肩に、薬を伸ばしていく。
できるだけそうっと塗っているつもりだが、傷がうずくのか、時おりあかりのうめき声が漏れる。
肩のケガは、嫌いだ。
3年前の別れの時も、あかりは肩をケガしていた。強く抱きしめることも、ひっつかんで引き留めることもできず、握手すらおざなりで。
それでもあの時は、傷があるからと、痛むからだと、理由を言ってくれた。
今は、それすらも言わない。
こんなにひどい怪我をしていたのに。
再会の時も、きっと怪我があった。
両肩を押さえつけて、壁に追い詰めたのを覚えている。
彼女が不快そうに自分を見上げる目が、我慢できなかった。
痛かったのなら、そう言ってくれればよかったのだ。
「ん、さとる?肩さわるな、いたい・・んうっ」
さとるの名前が出て、我慢できずに肩を掴むと、あかりはひどく顔をしかめて目を開けた。
「あ、れ?シューバく・・じゃない、シューバ?あー、私寝ちゃったのか。ごめん、ごめん」
ごめんはないだろう。
眠った理由は、シューバが打った薬のせいだ。
「アンタ、なんで肩のこと黙ってた?」
あかりは、肩?という感じで、自分のケガをチロリとみただけで黙殺した。
「違和感だなぁ。自分は『君』って呼ぶなっていうくせに、『アンタ』ってなんだかなぁ。そんな呼び方、してなかったじゃない?」
そうだ、そんな呼び方はしていなかった。
「あか、り」
呼んでみると、ずるりと、体の中から内臓を引きずり出されるような、嫌な感触がよみがえる。
彼女はそうっと手を放していったつもりなのだろうが、シューバには彼女が引いて行こうとする一瞬一瞬が臓腑を引きちぎられる程の苦しみだった。
なんでもする、なんでもするから、やめてくれ、止まってくれと、叫びたかった。彼女が考え直してくれるよう、毎日祈った。
祈りは、欠片も届かなかった。
それでもあかりは、呼ばれたら答える。
「はぁい」
3年前を思い出す。
あかりと『寝た』と言ったのは、シューバにとっては嘘ではない。
ただ、ふたりともそう言いう経験がなかったから、いろいろ引っかかって、最後までできなかったけれど。
2人してベッドからおっこちて、笑ってしまって、また今度!ってなる程度のことで。
そのあかりが今、目の前で、無造作に力の入らない四肢を投げ出している。
好きにさせてやると言わんばかりの態度で。
何の価値もないもののように投げ与えられた祈りの欠片。
何をしてもなじりすらしない彼女の態度は、どうせ先はないのだから、今だけは好きにさせてやろうと、口よりも雄弁に語っているようで。
そんな蜃気楼など、欲しくはない。
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