手負いですが恋愛してみせます ~ 痛がり2 ~

白い靴下の猫

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17 彼女はきっと悲鳴を上げた

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シューバはあかりが人質狩りにあったと聞いて、すぐに調べさせた。
今の自分は3年前とは違う。キュニからでもタキュからでも、あかりを解放させる自信があった。
それなのに、情報がろくろく上がってこない。
苛立っているうちに、さとるがあかりを奪還して戻った。

唖然とした。

いくらさとるがクリスタの顔でも、シューバに比べれば、地の利に差がある。さとるが得られた情報が、シューバにまったく入らないなど、普通では考えられない。

シューバははじめて自分の側近や一族や手駒や、要するに『近く』を疑った。

恥も外聞もなくゼルダのCSIRTの人間を個人で使って、盗聴だろうがハッキングだろうが手段を選ばず『なぜ情報が上がってこなかったか』を調べさせたのだ。

CSIRT。ほんとうの、ただの、会社のIT系のセキュリティ部隊。
シューバの直属でもなければ、軍事的に訓練された精鋭でもない、ごく普通の庶民なゼルダの会社員。かかわりの少なさからスパイが少ないだろうという読みの大抜擢で、いきなりシューバから直接の指示系統に割り振られて。
ハチの巣をつついた状態になりながらもシューバの要求に必死で答えた。

その結果は恐ろしいほどクリアで、ゼルダにはあかりの情報をそのままシューバに上げないための統制システムが出来上がっていた。

情報を捻じ曲げるだけではない。キュニの意向に従って、あかりを陥れたり、おびき出したり、捕らえたりする実行部隊まで組織されていて、それを、シューバの側近であるタキュ人までもがサポートしている構造だ。ふざけるな。

今回の人質狩は、この実行部隊の一部の勇み足だった。あかりの顔をうろ覚えていた数人が、キュニの上層部があかりに気づいていない間に、自分の手柄にしたくて計画。
しかし、上からの命令がなかったため、別勢力の仕業だと誤解したクルラが、邪魔をしてしまった、やむを得ない連携ミスとして処理されていた。

クルラが自分のできる範囲で妨害しようとしたことは想像に難くない。だが、あかりの味方とまでは言えないだろう。

集音マイクの向こうで、クルラを慰めるキュニ人たちが、同じような言葉を繰り返す。
「あの女には、学習能力がないな。3年前にも死に損なったくせに、未だにシューバさまと喜んでふたりきりになる。何度でもチャンスはあるから気にするな」
「シューバ様の周りをうろつくのは、キュニの男の味が忘れられないか、無理矢理姦られるのが好きなのか。どちらにせよ好都合だ」

3年前に、死に損なった?
無理矢理なにがあったと?
シューバはあかりから、そんな話は聞いていない。

三年前の、肩の傷、首の包帯。
あかりはナノ磁石の実験で失敗したと。
『社外秘よ、内緒よ、傷はぜぇーったい見せないからね』と。

おざなりな握手、ろくに顔も見ないさよなら。
関係ないはずがないのに。なにがあったかわからない。

こんなにも、ひどい悪意と攻撃にさらされながら、あかりは、私に優しかったのか?
シューバを甘やかし放題だったあかりが、意図的にシューバに隠した事情があったのかもしれないと、冷たい予感が体を浸す。

CSIRTが盗聴からハッキングから囮捜査から金で解決できるすべての手法を駆使して明らかにした『敵候補』の人間の中には、あまりにシューバと近い人間が目白押しに詰まっていた。むしろ、敵でない人間を探す方がむつかしい。

ゼルダの中枢メンバーや、屋敷の使用人や、連携企業・運動仲間・親族・部族長レベルまで。明らかに政治的・経済的につながりが薄い者たちや敵対すらしている者たちが、あかりを害するときだけは団結してシューバを欺いていた。
タキュとキュニの共通の敵、あかりを陥れるためなら、先祖代々の恨みも憎しみも置いて連携できたわけだ。バカらしくもおぞましい身勝手と蒙昧。

その結果が、ホゴラシュとシューバの身勝手の結果が、彼女にひどい傷を負わせる事だった?
自分の周りの人間が、タキュ人もキュニ人も一丸となって、キュニの男にあかりを売ったのか?
シューバは、加害者と一緒に、彼女を待っていたのか?
彼女に、自分勝手な怒りをぶつけながら?
考えたことすらなかった。おぞましいのは自分だ。

彼女が私に会いたがらなかったのは、私をみると、ひどい記憶がよみがえるからだろうか。

再び、シューバの周りに売られたことで、シューバといてくれるリミットは、過ぎ去ったのかもしれない。

日本であかりの肩に手を回していた雁という男が、ホゴラシュに入国したという報告が上がる。
さとるやマッドを中心に、クリスタのメンバーがあかりをガードする警戒感は、ピリピリを通り越してバリバリと火を噴きそうだ。

だが自分はそこに、あかりを守る側に、入ってはいない。

頭では、わかる。
敵候補の人的な配置を見れば、明らかにシューバは警戒をされる側にはいる。まともな頭の人間ならそう判断する。シューバは加害者側で、縋ることすら許されない立場だと。

シューバにとっての彼女は、父親の支配から出て最初に感じた光で、悲鳴の聞こえない世界の象徴だったのに。
彼女はきっと、3年前に、悲鳴を上げた。
それがあったことすら知らず、自分のせいで彼女が悲鳴を上げているなど、考えたことすらなく。

私のせいで売られ、暴力を受け、意志を捻じ曲げられたのに。私に侮辱を受けたのだ。
私を、切り捨てたとしても、あかりに非はない。

それでも。会いたくて、仕方がない。
会わずに、どうやって耐えればいいのかすら、わからない。
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