手負いですが恋愛してみせます ~ 痛がり2 ~

白い靴下の猫

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21 言い訳ならある

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やって、しまった。
あかりは、シューバを払いのけた自分の右手を左手で抑えた。

シューバの目は、傷ついたというよりは、諦めを受け入れたような。
切れかけていた命綱の最後の繊維が解けるのを、ただ確認しているような。そんな色だった。
こんな顔をさせたくないから黙って出てきたのに。

言い訳なら、ある。

出ていたパーティがキュニ人主体で敵だらけで、メンタル的に臨戦態勢だった。
エスコート役がロジュで、とらわれた時の記憶に引っ張られやすかった。
首にスカーフを巻いていて、電撃の痛みが想起されやすかった。
シューバが殺気立って乱暴に触れるから、体が勝手に反撃した。

敵中で全神経がささくれ立っているあかりを、いきなり物陰に引っ張り込んで、よりにもよって首のスカーフを掴んだシューバが圧倒的に悪い。
あかりの臨戦態勢が解けるのも待たずにパーソナルスペースを割ったシューバが一部の隙もなく悪い。

でも、とてもじゃないが、そんなことはおくびにも出せないようなシューバの顔色。

「ご、ごめ・・ん、来ているとか、思わなくて。ちょっとナーバスな仕事中だったから」

ごまかしようのない勢いで、シューバを払いのけてしまったから。その言い訳に一生懸命で。
シューバが何を考えているかまで、頭が回らない。

ポンコツ化した自分の頭をグーで殴ろうとして、シューバに止められる。

「ゼルダでも、レノの首でも、私の命でも、メモひとつで差し出すのに。そんな顔をしてまで、何をしている」

そんなモノは、いらない。
状況が気に食わないから、気に食うように作り変えているだけで、単発のモノが欲しい訳じゃない。

「も、問題の解決をはかっているところ、で、順調だから、もう少し、待っていて」
そのもう少し、の間に、シューバが壊れることを何よりも恐れていたくせに、あっさり自分で彼の傷口を踏み抜くとか。どれだけ無能だ。

こっちを向けとばかりに、握られた手首を引き寄せられても、視線がシューバの顔まであげられない。
グーのまま、シューバに握られているあかりの手は、ごまかしようのないほど震えていた。

思い出してはダメなのに。
痛みへの恐怖も、自分の無力感も、敵な男どもへの嫌悪感も。

自制に失敗したのだ。もう、敵中に戻って、ロジュとの蜜月をアピールして、ゼルダに入っているスパイを威圧して、といった今日の目的を果たせる気がしない。

失敗を認めた途端、緊張が維持できなくなって、目の前が薄暗くなる。
気が付くと、シューバに抱えられるような格好で引きずられていた。
裏口に回ることすらせず、敵のど真ん中を突っ切って。

自分の顔から血の気が引いていることも、体の震えが止まっていないことも自覚があったから、連れ出されるまま抵抗もできなかった。
どう、見えただろうか。
キュニ1のロジュと、タキュ1のシューバに、二股をかけた挙句の修羅場にでも?

そう見えているならむしろ行幸だ。
怯え、震えている、弱みだらけの自分を敵中にさらすよりは。

キュニの勢力に拉致され、凌辱されたあと、助けてくれたさとる以外の男性に嫌悪感が出るようになった。

ますみやマッドですら、急に触られるとダメなときがある。
そなるともう、そこら辺に出回っているオヤジどもなど、どうにもならない。
ホワイト・プログラムを使って、頭を鈍磨させているうちは良かったが、記憶を戻したら、嫌悪感もついてきた。

それでも3年前より随分マシだ。
いろんなことが、マシになった。

武器も手駒もふえた。『きゅーぶ』の政治力と、クリスタの技術力と、ゼルダの経済力とを、尖らせまくる3年間だったから。
萌え業に軸足があるはずの『きゅーぶ』がいまや多国籍なロビイストの群れだ。
あかりは自分の体自体は安全な日本から出さず、雁をボディーガードに張りつけて、警戒感の鈍磨を補った。

時間は薬だ。睡眠も薬だ。汎化も薬だ。
多分、ホゴラシュに帰りたくなったのは、体内の物質が恐怖条件を忘れたせいだから、戻る時期としては正しい。
だが、記憶を戻さずにホゴラシュに体を持っての来たのは自殺行為だ。

警戒感が切れているあかりがシューバに感じた想いは、たしかに『消えてしまう方でごめん』だった。
自分があの時何を思ったか、正確に覚えているのに。同じ想いでシューバの前に自分を投げだすことは、きっともうできない。
  
ち、と舌打ちの音が聞こえ、外に意識をもどすと、走っている自動車の後部座席に、シューバと並んで座っていた。
ブランケットをかけられて、手をシューバにさすられているところから考えるに、舌打ちはあかりの震えが止まらないことに対する焦りの表れだろうか。

深く、深呼吸を二回。
敵中からは離脱した。シューバは敵ではない。力を抜け。痛みに備えるな。

右手をぐーぱー。
大丈夫だ。シューバがあかりに仕掛けてくることなど、ミギとペギがじゃれつくのとかわらない。
左手をぐーぱー。

震えが止まるところを想像して、自分の手をその想像に重ねる。
呼吸はゆっくり目に。肩の力を抜いて。顔をあげろ。
えらいえらい。よくできたぞ、私。
次は、視線を、シューバに向ける。

そして、自分と同じくらい、血の気の引いたシューバの顔がみえて、自分の失敗をかみしめる。
うん、ごめん、遅いよね。

私は、なにがあっても、シューバに怯えてはいけなかった。
私は、どんなときでも、シューバの手を払いのけるべきではなかった。

シューバは、3年前も極端に食が細くなったことがある。
食べず、動かず、筋力をおとす。
どう見たって運動神経が鈍いようには見えないのに、運動という運動を拒否するようになるのだ。
シューバのその行動の意味に気づいたのは結構たってから。

ラノンの屋敷で生き延びるためには、他人の苦痛に巻き込まれてはいけなかった。
シューバは、自分が生き延びるために、他人の苦痛への共感能力を失ったと思っている。
自分は、いつでも他人を傷つけることができてしまうと思っている。

だから、無意識に、弱くなって、物理的に誰も傷つけられなくなりたいと願うのだ。
特に、自分が信じられない時や、自分の大切な人を傷つけたと思った時、その症状は酷く出る。

例えば、メイを壊したと思った時。父親を殺したと思った時。
それから、たぶん、あかりに優しくできないだけでさえ。
食べなくなり、動かなくなり、物理的な世界の自分を弱めていく。

伝えてあげたかったのに。
シューバがどれだけ優しいか。
あかりをどんなに幸せな気分にしてくれたか。
ラノンの作った檻をやぶってくれたことが、どれだけ奇跡的で、ありがたかったか。

呼吸が楽になっていく。
シューバの体温を、感じられるようになっていく。
失敗したけれど、遅かったけれど、大丈夫、遅すぎはしない。

「あの、ね。シューバ。腕、細すぎ。縋りにくい、よ。怒っても、怖くない、し」
文句らしきものをいいながら、シューバの腕にくるまる。

大丈夫だ、震えるな、怖くない。
震えも、こわばりも、意志の力を最大限駆使してといていく。

「怒ってなど、いない」
まるで私の方が怒ってでもいるように、シューバの言葉はしどろもどろで。

「うっそ、だぁ」
ちょっと強がり入りで、軽く聞こえるように返してみる。

「ちゃかすな。言いたいことを言ってくれ。私を、罵っていいし、消えろといっていい。あかりが、我慢する事なんて・・」
そんな顔、しないでよ。
私の、大事な大事な・・・・えーっと、推しなんだから。

私はつよい子出来る子丈夫な子。
できる事なら何でもする。できない事でも何とかする。

「あなたが好き。怒らないなら、別れていた間も好きだったって言う。怒るなら、言わないけど」
駆け引きと、言うなら言え。

「おこら、ない」
「じゃぁ、ずっと好き、よ」

震えを止めて笑ってみせる。
だって、告白だもの。幸せそうでないと、恰好がつかない。

私の手の震えがとまるのを感じて、シューバが顔を上げた。
彼の喉が、震える。

「・・・あかりが、すき、だ」

うん、よし。
たいへんよくできました。

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