手負いですが恋愛してみせます ~ 痛がり2 ~

白い靴下の猫

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37 閃光弾 

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サシャの攪乱に乗じておとなしく脱出するはずだった雁さん一行が、幼稚園児の集団宜しく再外層のアラートを踏み抜き倒して撤退するものだから。
警護所はあっという間に空っぽになった。

えーっと、でも、二方面でアラートが鳴ったくらいじゃここまで慌てない?
雁さん、何やってんの?

しばらく様子をうかがっていると、警護所の集音マイクから派手な銃撃音までしはじめた。
こそっとモニターを覗いたあかりの顔から血の気が引く。

うそでしょ、お迎えだけの予定だった雁さんの部隊が、顔の下半分を布で覆っただけの簡易な変装で襲撃してる?!
だれがそこまで派手な援護をしろと?!

さとるもモニターをみるなり、「げ」というかおにかわる。
「おい、犠牲者とか捕虜とか出ないうちに、さっさと、にげるぞ!」

やむを得ずさとるのおんぶを享受することになった。
「右にまがって、階段降りる!左から二番目の扉から外に出た格納庫!」
「OK!」

あかりが、さとるの背からおりさえせずにシフト表を破り取って内ポケットにつっこむと、グライダーの座席に直接おろされた。
エンジン確認。
よかった。自力発航型だ。少々下手でも遠くまで飛べる。

「えい航とかしなくて大丈夫なのか?」
「平気。このまま飛べる。出口だけあけてくれる?」
「了解」
スイッチを入れて、出入り口のシャッターに向かったさとるをゆっくりと追いかける。軽いだけで、車輪もついているしセスナと要領はかわらない。

音より時間を重視してシャッターを跳ね上げたさとるに、『乗って』と声をかけて発進。
ふたり乗りだろうが、補助シートが外されていたので、あかりがなるべく前につめてママチャリ状態で乗る。

うわ軽い。
あっという間に機体が浮いて、たいして吹いていない風に簡単にあおられる。
高度をとる方に気を取られて、暗闇が方向感覚を奪う。

「げ。私、方向音痴かも?」
あてずっぽうに飛びながら、機体を安定させるだけで精一杯だ。
「あー、方向は1分以内にわかるから、高度に集中しとけ、下向くな?」
「一分以内?」
「きた」
「へ?」
地上側がひどく明るくなると同時に、後ろからさとるに耳を覆われる。
モーターグライダーと言っても上昇をとるのにエンジンを回していればそれなりにうるさい。
それなのに、エンジン音を吹き飛ばして、なお、耳がギーンとなるひどい音。

「え、M84?!」
閃光弾というやつだ。
ホゴラシュの軍部に非致死性の武器なんて常備されていないから、使うとしたら、雁さんで。

訓練受けてないうちのコアメンバーが居たら使えないだろうから、たぶん彼らは離脱させて、自分だけもどって部隊に合流したと思われる。

いやこれ、援護じゃないよね。
雁さん達に、何が起こったわけ?!大丈夫なの?!

「こんだけ雁さんのほうも無茶してくれたら、帰ってから怒られなくて済むな。で、畑里、方向は後ろだ。真後ろ。Uターンできるか?」

「できる、けど」
「んじゃ、あせるな。完全に戦闘状態になってて終わりそうにないから、火器類で明るいのもつづくだろ。要塞の向き見れば方向はすぐわかる」

「火器類で明るいくらいの戦闘?誰主導よ!報連相どこ行った?!」
「お前が言うな。さっきの照明弾の衝撃でレノが起きないようにでも祈ってろ」

「あんなご老体が照明弾の余波食らったら、睡眠薬なくても寝込んでるわよ!むしろ睡眠薬入れたのばれないんじゃない?」

「そりゃラッキーだ。おら、シャキシャキ飛べ。さっさとかえるぞ」

要塞が見えなくなるまで飛んだ頃には、あかりはずいぶんと操縦になれていた。
キュニで暴れた証拠品に乗ったまま、自分達の屋敷に突っ込むのもどうかと思ったが、こいつのステルス機能を信じることにして、直帰をめざす。

何しろ夜の闇が深くて。
星をみて飛んでいるうちは良かったが、いざ降りる場所を考える段になると地上は真っ暗で、目印に出来るようなものがなかったのだから仕方がない。

それに急がないと、マッドさん達が睡眠中のレノにちょっかいをかけるのに間に合わなくなってしまう。

さとるがメイに連絡を一本入れただけで、屋敷の上空には何の妨害もなくなった。
操縦になれたあかりは、屋敷のかなり遠くから動力を切っており、グライダーは生き物のようにしずかに、屋敷の滑走路に下りた。



さとるとあかりの阿吽の呼吸は、ますみすらあきれさせた。

あかりを歩かせずに抱いて戻ったさとるに、嬉しそうに駆け寄って、ご無事でよかったですと声をかけるメイを見て、ますみはため息をつく。

「さとる。メイにプレゼントするとか、愛してるって百回言うとか、なんか気遣いなフォローしないといい加減フラれるよ」

「ひでぇ。俺はメイに優しいと思うぞ。結婚してるんだぞ。そんな簡単にフラれてたまるか」

これだから、さとるは彼女さん達と長続きしなかったのだと。ますみは確信する。

「あの状況で、あかりさんが怪我したことに気づいて、何考えてるか読んで、フォローに入れるって、それ、むくれないパートナーのほうがおかしいでしょ」

「仕方がないだろう。ムキになった畑里止められるやつが他にいるのか。適当に止まってくれるなら俺だって強引にフォローに入ったりしねーよ」

出来ることが罪なのだ、とか、どっかの時代劇で言ってた気がするけど、そのパターンだとますみは思う。

さとるは「オリエンテーリングで使った手と同じだ」という。
あの時、さとるは別の班だった。

ひとりで離脱したあかりを追っていったのはさとるだが、小学校の縦割り班があかりと一緒で、そばで見ていたのはますみの方だ。
ますみの初恋は多分あかりだし、どの女性よりも長く彼女を見ていた。

それでも、あの緊迫した敵地であかりの顔を見て、ほのぼのと大昔の遠足を想い出すなど、百回繰り返しても自分には無理だとおもう。
あかりが同じ手を使ったことがあるかは問題じゃない、同じ手だと思い至れることを通じ合っていると言うのだ。

一方で、シューバはちゃんと拗ねた。

ですよね、とばかりにますみは応援する。
こっちが普通でしょ。

真夜中、だれもいなくなったレノの寝室に、双方向マイクから声が流れる。
マッドさんとノーキンが睡眠中のレノの脳を微細な磁力で触りはじめたのだ。

拗ねるシューバへの、あかりの愛しているよ系ご機嫌取りフォローが長引いて、気が散るから外でやれと、ノーキンに追い出された。ますみ達もなんとなく一緒に外に出る。

雁さんとメイが無事に戻ってきたのは朝になってからだ。
雁はあかりの足を見て顔をしかめたが、あかりはこれをプレゼント攻撃(シフト表とかステルス塗料とかだけど!)で沈めた。
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