手負いですが恋愛してみせます ~ 痛がり2 ~

白い靴下の猫

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43 治療拒否?

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あかりがシューバに不調を隠さなくなれば、頭痛の間隔が短くなっているのも、継続時間が長くなっているのも、気づかないはずはなかった。

クリスタには優れた医者が何人もいるし、設備も最新だ。彼女を休ませられる仲間もいる。
最善を尽くしていないはずはないし、シューバが治療方針に口を出せるはずもない。
それでも、ただ見ているのが限界になって、マッドの研究室まで出向く。

あかりの情報をマッドに乞うのは心情的には嫌だったが、どうせホゴラシュに、マッド以上の医者は居ない。

「おい、きかせてくれ。あかりの頭痛の原因は、なんだ?治療がうまく進んでいないのか?」

きょとんとしたマッドの顔が、一瞬で深刻な表情に変わる。
「頭痛?あかりさんが?」

「・・・きいて、いないのか?」
マッドがきいていないと言うことは、あかりが治療を受けていないと言うことだ。
普通の頭痛でないことぐらい、本人も当然わかっているのに?

「私にもノーキンにも相談していません。シューバは彼女から直接きいたのですか?」

「ああ。きいたし、実際にみる。周期的だ。頭痛で立てず、嘔吐もある。てっきり治療中だと。なぜ・・」

「私たちに隠したのはわざとで、治療拒否・・という事ですよ」

治療拒否?理由は?目の前が真っ暗になる。

「ひどくなっているんだ。あんなの普通の頭痛じゃないのに・・」

マッドは最後まで聞く前に内線電話をひっつかんでおり、噛みつくように叫んだ。
「ノーキン、さとる、至急集合。あかりさんに緊急事態です!」

ノーキンは、「最近の検査結果をもって、30秒で行く!」と、
さとるは、「雁さんもよんでくれ!畑里がもたないって予言してる!」と言った。

3人の反応から、あかりの不調を疑っていたのだとわかる。この中をごまかしきっていたのか?

医者2人とさとるに比べれば、雁の表情はまだ柔らかかった。
「シューバは、良くまぁ、あかりに吐かせたな。お手柄だ」
シューバにそう声をかけた後、雁は、さとるの正面を向いた。

「さとる。シューバに全部話せ。んで、あかりはとっ捕まえて強制入院。あいつが心を痛めている面倒ごとはシューバの方に負ってもらえ」

「雁さん・・・」

「お前ら全員あかりの術中すぎるぞ。うちの姪っ子はな、ちょっと出来がいいだけの学生なんだ。俺から見ればシューバとあかりじゃ、シューバの方が格段に丈夫だよ。あいつがシューバを守ろうなんて100年早い」

それでもさとるは、迷って見えた。

シューバは思う。自分のどこが丈夫だと。この期に及んで、あかりのことについては、さとるが決めるものだと、クリスタの誰も疑っていないのが悔しいと思うほどに、脆弱だ。

「畑里が、鉄壁でも盤石でもないことは知っているつもりです。でもあいつは、自分よりシューバが傷つくのを痛がる。シューバを使って畑里を楽にしようとすれば、きっと何も話さなくなる。最悪、優がカウルにやったみたいな逃げ方、しかねない」

末期の癌だった優は、強制捕獲して治療を受けさせようとしたカウルから逃げ、そのくせカウルを絶対に見捨てられず、デジュの罠にかかった。優の最後は、心中とも、戦死とも、病死とも、尊厳死とも、バラバラ殺人とすら言えるもので。本人はそこそこ満足して、多分笑顔で死んだ。が、最善からはあきれる程遠かった。

「お前の連想はそっちか」
雁がため息をつく。

何十秒も黙ってから、マッドが、口を開いた。
「あかりさんが、優さん似なのは、わかります。でも、優さん程、死の近くに居るわけじゃない。あかりさんが、シューバに助けを求めた可能性は、あります」

シューバは耐えられなくなって、口をはさんだ。
あかりが、シューバを頼ったのではないことは、自分が一番よく知っているから。

「誤解、だ。助けを求められたんじゃない。むしろ逆だ。あかりは、私を切り捨てることを、きめた。」

「はぁ?」
「どういうことだ?」
「痴話げんかは抜いてしゃべれよ?」

3人分の声がかぶる中、マッドの声だけが、震えるように目立った。

「・・・なぜ、そう思ったんです?」

「あかりが書いている、ホワイト・プログラムを、みた。彼女は私からあかりを削除するつもりだ。不調を話してくれたのは、ただの、処刑前のサービスだ」

入り口で、驚いて、本題前に引っかかった声が人数分帰ってくる。
「「読めるのか?!」」
「「お前、どういう脳みそしてやがる?!」」

異能者の群れの癖に、よく言う。
シューバから見れば、さとるのメタマテリアル設計用の最適化プログラムより幾分わかりやすいと言ってやりたい。

そしてマッドの確認。
「あかりさんは、シューバがソレを読める事、知らないんですね?」
「知っていて嬲る程、残酷ではないだろうな」

自嘲気味というにはあまりに昏く返したシューバをみて、さとるは決断した。
「・・・わかった。ひとつ残らず吐く。畑里が直接シューバを刺してりゃ世話ないぞ。あー、シューバは先に深呼吸した方がいい。相当腹が立つからな」

それから、さとるは自分から、深海に潜る前のような深呼吸をして話し始めた。

長い時間をかけて語られた、あかりの受難は、シューバの想像をはるかに超えて、陰惨で、無道な、苛虐だった。
息が詰まる程、加害者をどんな殺し方をしても飽き足らないと思うほど。

それでもさとるの話は続く。

気の毒だが、お前にかけられてる暗示みたいなやつ、もう本当にぐちゃぐちゃで、これ以上手が出せない。

直接の暗示スイッチみたいな録音機は、こないだレノの砦に入った時に畑里が破壊したし、母親使われるリスクもマシになったと思うけど、多分まだ爆弾が埋まってる。

レノが畑里に打った薬は、1月もあれば恐怖で狂って死ぬような極悪品だった。頭痛も多分その薬の後遺症だ。
レノは、薬で恐怖に狂って母親と同じ匂いとやらをまき散らして死んでいく畑里をイニシエーターにして、おまえを操るつもりだったらしい。
それを知った畑里は、恐怖に狂うんじゃなくて怒り狂ったんだ。シューバに何てことしてくれるんだ!って。あとはもうお前の中の爆弾を何とかしようと必死で。

だから、あいつが自分の記憶をいじったのは、3年前にレノに打たれた薬に対抗するためだ。
強姦されたらメンタル回復に時間がかかるものよ、とか、平気で俺らに嘘ついて、休んでるふりして戦い続けて。たった2年半でレノに負けないポジション築いて帰って来た。

疲れて当然なのに。雁さんから見たら精神ボロボロだろうがって一目瞭然なのに。
止まる気も休む気もなくて。

薬の後遺症がひどくなっていくのに治療拒否、な。
治療の内容が、シューバを傷つけるような、例えばもう一度シューバを忘れるとか、そっち系だと踏んだならやりかねないと俺は思う。

悪いのは、視野角がマイナスまでぶっ飛んだあいつだけど、裂かれようが、焼かれようが、立てなかろうが、畑里はシューバを守りきるよ。
なぁ、そんなあいつが、自分の記憶をシューバから忘れさせるプログラムを書いたとしたら、どんな覚悟だ?

さとるの話はそこでとまったが、雁があきれたように呟く。

やれやれ、姪っ子。まぁた自分が死ぬ前提か。これだから恋するお年頃は面倒なんだ。ちょっとしたことで死ぬの生きるの振れやがる。
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