手負いですが恋愛してみせます ~ 痛がり2 ~

白い靴下の猫

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42 頭痛

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やばいなぁ。
駆け込んだ洗面所で頭痛にうずくまり、小刻みな呼吸で痛みを少しづつ逃がしながら、あかりは舌打ちをする。

もの心ついてから20年もたつと、痛みの質から体が訴える危険度が推測できるようになってくる。
あのインフルエンザの時はどうだった、ノロウィルスにかかった時はこうだった、と。

そこら辺の経験則から行くと、立っていられない程の頭痛の、間隔がだんだん短くなっていくとか、あまり縁起のいい話じゃない。

「あか、り?」
シューバの心配そうな声がして、洗面所のドアが、はじめ遠慮がちに細く、それからあかりがうずくまっているのを認めて、吹っ飛び開いた。

「あかり!どうした!?」

いや、そこまで激しい反応されると、条件反射でごまかしちゃうでしょ?!
こちとら、十代前半から妄想業界で大人と張り合ってきた、はったり人間なのよ?

「ぬ、抜け毛の回収!」

ごまかせているんだかどうなんだか。
駆け寄ってきたシューバの腕に抱えあげられて驚き過ぎて、それどころではなくなった。

だって、シューバ、うっすらだけど腕の筋肉、割れてるよ?
べつに筋肉フェチじゃないけど、つい数週間前に栄養失調で儚くなりかけていた時のイメージがあるからガン見してしまう。

「おろしていいよ!か、肩抜けたりしない?!」
「しない。最近ちゃんと食べているし。普通にトレーニングもする」

「そっかぁ。メンタル安定なのね。すごく嬉しい!」

「安定、はしていないぞ。神崎さとるがうらやましかった。レノの砦から戻った時、あかりを抱き上げていたから」

むしろ、不安定だ、と、シューバは思う。
処刑を、待つようで。

彼女も、ホワイト・プログラムが、組める。
マッドやノーキン程の腕はないにしても、自由に設計できるのは、今のところ世界で3人しかいないのだから、その希少さが知れようというものだ。

希少すぎるから、あかりは、シューバがそのプログラムを読めることに気づきさえせず、覗き込んだシューバに慌てることもなく。

それは何かと聞いたシューバに、お守りだと、答えた。

あかりにとっての自分が、未だに敵認定なのかもしれないと思うことがある。
だから、あかりの目障りになるなら、シューバの脳を好きに触っていいと、彼女を忘れるような、シューバにとっては処刑と等しい施術でも受け入れると約束した。

自分と自分の周りが彼女につけた傷のひどさを思い知って。
少しでも彼女の気が晴れるなら、あかりの気のすむようにしてほしかった。

彼女が、その約束をどうとらえているのかは、わからない。
でも、彼女の『お守り』が、シューバ用の、シューバがあかりを忘れるための、ホワイト・プログラムであることを知っている。

なにも言ってもらえず、頼られることも、なじられることもなく。

あかりは最近体調が悪い。
なのに、シューバか近づくと、かならずごまかす。
なにが、抜け毛の回収、だ。
立てもしない程、つらいくせに。

彼女の周りには、シューバより頼れる仲間がたくさんいるのを、嫌と言うほど知っているから。
あかりにごまかされると、それ以上聞けなかった。
苦しいのかとも、何かしてほしいことがあるかとも。

腕がくすぐったい気がして、あかりを見ると、ソファにおろしたあかりが、なぜだかシューバの二の腕の内側を、人差し指でなぞっていた。

「何を、しているんだ?」
「え、えへ。いや、これ、私のかぁ、と思うと感慨ぶかくて」

はむ。
あかりの唇が、指でなぞっていたあたりをはさむ。
温かくて、湿っていて、やわらかくて。
シューバを揺さぶる温度。

「おい・・」
「離れないぞぉ。私の事抱っこするためについた筋肉なら、私のだぁ」

なんだ、それは。
その基準で行くと、
あかりがいないと血液に温度を与えられない体も、
あかりがいないと光を感じられない頭も、全部あかりのものだ。

腕が記憶した温度が、欲しくて。
あかりの唇に触れると、人差し指の第二関節に『はむ』が来た。
それから、彼女の瞳がいたずら気味に動いて、唇で、ちゅ、と音をさせる。

「襲いそうだ」
「おう、良いよぉ。熱烈歓迎。今日の下着はレースで可愛め!」

うそつき。
笑顔とも、瞳の動きとも合っていない、血の気の引いた肌の色。

「・・・そんな顔色で、よく言う。私に体調不良を隠すために、襲われる、のか?」

あかりは、ちょっと気まずげな顔になって、頭をかいた。

「ごめん。さっきのごまかし方は無理があったよねー。私ってば割とはったり人生だったから、条件反射ででちゃうのよ。気にしないで」

「条件反射?私のそばが、敵地だから、ではなくて、か?」
声に混ざる、もどかしさとやるせなさがごまかせなくても、せめて、彼女を責めているようには聞こえませんように。身の程知らずにも腹を立てていると、気づかれませんように。

あかりは、首を少しかしげて、瞬きを数回。
それから、あわてた。
「へ?違います、誤解です!んと、最近いきなり頭痛することがあって、そうなると数分動けません!2回に1回は吐き気随伴だから、お手洗いへの駆け込みも必須。えーと、それから、それから、治まった後しばらく、寒くて手足がかじかんだみたいになって震えます!!でもそんなに頻繁じゃないから心配しないでください!」

『どだ?全部話したぞ?』そんな感じで、あかりがシューバを見上げる。

シューバは、あかりの膝にブランケットをかけ、温蔵庫からバーブティのボトルを出して握らせた。
大き目の毛布も抱えてきてすっぽり覆い、足は、スリッパを脱がせてソファにもち上げ毛布の中に押し込んだ。
それからシューバもソファーに上がって、両足の間にあかりを抱く。あかりの足先を自分の足の甲に乗せると、唇の温度が嘘のように冷たかった。
あかりの肩から前に腕を回して、ボトルを握る手ごと自分の掌でくるんでさする。

あかりは湯船にでも浸かったように、小さく『ぷはぁ』といった。

「嫌では、ないか?」
「ごくらくですぅ」

体から力を抜いて、頭も背中もシューバにもたせ掛けて。
あかりは、幸せそうに笑った。
まるで、シューバのことが好きでたまらないとでも言うように。

残酷だな、とシューバは思う。
あかりが今書いているホワイト・プログラムは、シューバからあかりを消すものだ。

あかりが消えたシューバなど、壊れて、空っぽで、不幸を呼ぶだけの、ラノンが出したゴミなのに。あの暗闇の底を這いずり回る、汚れきった加虐者に戻るのと、等しいのに。

あかりの首に、キスをする。
「ふふ、あったかぁい。大好きよ」

好き、か。
シューバから、あかりへの「好き」が、どんなものか知らないのだろう。

気が狂うほど、あかりの心が欲しい。得られないと思うだけで、呼吸さえままならないほど。
シューバの「好き」は、相手に忘れられるなど、耐えられることではないのに。

さとるとあかりがアイコンタクトで動けるだけで、あかりがマッドに頼るだけで、雁があかりを守るだけで、ロジュがあかりの手をとっただけで。
どす黒い嫉妬が噴き出して、体を溶かすほどなのに。

シューバが、あかりを愛さなくても、平気なくせに。
シューバをゴミにするプログラムが、『お守り』のくせに。

なぜ、好きという。なぜ、笑う。
慟哭が、情動が、抑えられなくなって、すがるようにして、首や背中に唇を這わす。
「ん。きゅう」
甘えたような声を出しておきながら、彼女の肩はこわばって。

何が、熱烈歓迎、なものか。
怯えて、いるのだ。
シューバになのか、幻影になのか、傷つけられた記憶になのかはわからない。
それでも、疑いようもなく。
シューバを叩きのめすほどに、怯えている。
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