手負いですが恋愛してみせます ~ 痛がり2 ~

白い靴下の猫

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41 まてません

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シューバをレノと引きはがすのは、母親殺しベースで仕掛けられた罠の解除と、あかりが構い倒すという安定剤でおつりが来た
だが、クルラはそうはいかなかった。
ちょこまかとレノの手下らしき男どもがクルラに探りを入れてくる。
クルラをレノからどう引きはがすかという話題になるたびに、あかりはマッドさんに落とさせろと言ってはばからない。

ノーキンと雁さんが微妙な顔をする。
何と言えばいいのかな、うん、人に歴史あり、とかそういうやつ?
マッドがクルラを口説くのには、あと10年位かかっても不思議じゃない、それなりの理由があったりなかったりするのだと。

「まてるか!」
ついにあかりが、切れてノーキンとクルラ用のホワイト・プログラムを組み始め、さとるがデスクの前に割り込んで止める。

「またんかい!マッドごとお前んとこの恋愛めきめきプログラムにつっこむきか?!冗談は自分とこのカップルだけにしろ?」

マッドとクルラは18才も離れてるぞ!兄貴としては、クルラには幸せな恋愛をしてほしい!
「シューバがこれ以上、私に恋愛めきめきするところ見たいわけ?」
「みたかねーよっ。そうじゃなくて、なんでマッドなんだよ!」

「お互い、意識しあってるじゃない、時間の問題よ!」

いや、確かに意識し合っている気はするが、時間の問題・・・っていうほど仲良しだったか?

「も、お前の脳内分類が大雑把すぎてシューバが哀れになって来たぞ!」
「大雑把って、失礼な・・・」
「シューバが標準体重になってから言え?」
「う」

ひるんだあかりがキーボードから手を離した隙に、さとるがすかさずノートPCの蓋を閉じる。
ぶすくれた顔はしているが、一応、話し合う気はあるらしい。

「マッドがどうか知らないが、クルラはおびえているんだろう?」
「んー、それも解せない。怯え始めのきっかけ、きいた?」
「クルラが、レノのところに虐められ込みで薬もらいに行ったのをマッドが止めて、かわりに虐めたせいとか聞いたぞ?」

「マッドは男女観まともだし、なんかあったら治療するの自分だしで、そんな無茶はしないと思う」
「シューバもクルラにケガはなかったといってたな。殴ったりはしてないだろうけど・・虫歯でもえぐったか?」
「彼の職業倫理から考えて、歯はないわー」

「じゃ、野獣化したかも」
「野獣より果汁になりそう」
「本人にきけよ」
「そうよねー」

うーん、ほんの数秒考えこんだあかりは、こくりと頷いた。
「よし、くっつく気があるなら、早回ししていいか聞いてくる!」
「いきなりそこきくの?!」

結論だけ言うならば、マッドが早急に告白してみるからちょっと待ってくれと懇願して保留になった。
さとるは、あかりの恋愛情緒は壊れているにちがいないと、確信をつよめた。



コンコン

「どーぞぉ」
あかりが戻って来たのかと思ってPCもそのままにドアを開けたら、雁さんだった。

「くつろいでいるところ悪いな。あかりが来たろう。その、精神的に普通だったか?」

こういう質問が来ると言うことは、雁さんから見たら普通じゃないと思われる。

「行動が普通じゃなくなる程度には、精神は普通に見えましたが」

外側だけ見る分には、リコーダー練習で近所から野鳥をけした時レベルには普通だ。
あいつは追い詰まっているときに苦手分野に手は出さないから。
いや、傷もちハートな男女の恋愛沙汰を、ちゃんと苦手分野と認識していれば、だが。

「そうか。あー、あかりの警護メンバー増やせるか?」
また襲撃予告でもあったか。
「メイを中心に数人で組ませます」

「うーん、メイは優秀だが、他の仕事も忙しいだろう。今回は安心感重視だから、メイじゃなくて質より量でいい」
「安心感って、畑里の、ですか?あいつが、怯えているんですか?」

それは一大事だ。

「いや。怯えてりゃまだ簡単なんだが・・・。今のところ、自分への情報にわざわざ遮断かけようとしたり、イレギュラーが起こったとき用のプランBに異様にこだわる位かな」

自分への情報を遮断・・・って、拷問される予定でもあるのか?

「自分の心身を守るほうに頭が行ってない、と」

「だな。あかり、ケガとか治りわるいだろ。普通、ケガかありゃかばうのに、最近わざわざケガで動かない側をガードに使うようになった」

「・・・こないだのレノの砦に行った時のせいですよね。理由わからないけど、反射的に肩かばって足くじいたのが自分で許せないみたいで。あいつ、銃の腕とかあるんですか?」

「一応撃てる、が、反対の肩でも足でも怪我がありゃ当たらない程度の腕だし、関係ないと思う。そもそも痛みが続く中での作戦行動とか日本の女子学生の学習範囲外だろ、メイじゃあるまいし」

「畑里のメンタルケア重視だとやっぱりメイつけたほうが良くないですか?」

「あー、なんて言えばいいのかな。普通の人間は、恐怖や痛みで心が倦むと、気持ちが途切れたふとした瞬間に行動がとち狂うんだ。でも、戦士っぽい育ちしたやつは、それを回避する方法をそれぞれ編み出す。メイの場合は『いざとなったら死ねばいい』対応だろ。有効なのは認めるが、姪っ子にまねてほしいとは思わん」

そうか、雁さんから見ると、メイは、『いざとなったら死ねばいい』対応なのか。それはそれですこぶる心が痛い。

「もう、タキュへのプレッシャーは充分だし、ロジュに会うのをやめさせたらマシになりませんか」

「ロジュな。あいつ、思ったより使えたみたいで、完全に手駒カウントだ。切らないと思う」

「畑里を止められる人間がいないんです。昔からですけど」

「それでも適当なところで止めないとな。メイは・・育ち方が戦士向きだった。あかりは、育ちだけで言えば、むしろお嬢さん育ちだぞ。いつまでもメイみたいにいられると思っているあいつが甘い」

「このまま煮詰まると、畑里どうなりますか」

「怪我の痛み抱えながら、自分の損壊シミュレーションに、毎日焼き切れるくらい頭を使っていたら当然心が倦む。心が倦むと判断のほころびが増えて短期間で命に係わるミスをする」

雁の言葉は、さとるの頭の中に優の声をリフレインさせる。
ひとは生き物、生き物はナマモノ、ナマモノは腐る条件が決まっているのよ、根性も性格も関係ないの!
優の読みは、いつも確率的に正しかった。雁さんの読みもきっと正しい。

「最悪力づくで止める、っていうオプションで考えるなら、俺が畑里につくべきですね」

「理屈上は、な。だが、シューバが嫉妬して不安定になったら、あかりの行動がさらにぶっ飛ぶ」

「俺と畑里は・・・」
「息が合い過ぎだな?」

「でも・・」
「あー、例えばだ。俺が、メイがちょっと怪我しそうになる度にすっ飛んで行っちまうとする。十年以上やったことがない、持ち場放棄を連続で冒してだぞ。メイの事信じていても、もやもやならないか?」

「・・・なります」
じつは、最近、そういうもやもやが、あった。
雁が買ってくる野草の花束に、メイが顔をうずめるようにして微笑んでいるのを目撃するだけで、ヘロヘロになる。

「まぁ、それが100倍ひどくなった感じだ。だから、当面、質より量でたのむ」
100倍、ひどくなったら。
それはもう・・・高出力熱核爆弾。

「わかり、ました」

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