手負いですが恋愛してみせます ~ 痛がり2 ~

白い靴下の猫

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40 長寿国の底力

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メイは、自分の怪我にかなり無頓着だ。
おおきな怪我に頓着するのは、本人より痛そうな顔をするさとるへの気遣いで。
ほぼ崖と言えるような場所でも命綱をつけずに薬草採取するし、樹皮の堅い木に軍手をつけずにすぐ上る。重いものも限界まで担ぐし、戦闘になればいつも最初に出る。

死を恐れていないとはっきり表に出すのは、彼女なりの防御だ。

夫の神崎さとるは、かなり目立つ。それでもこれまでに、メイを人質にしてさとるに言うことを聞かせようとした事件が起きたことはない。
これだけ戦闘能力が発達したメイが、積極的死のうとした場合、生かしておくことは至難の業で、メイを死なせれば、さとるの暴発は必至で、絶対に損側に振れてしまう。

メイが命を惜しまないことが抑止力になっていることは、メイ本人も気がついている。
だからことさら、自分の鉄砲玉度をアピールするのだ。

分かっている、わかっているが、親友の娘、だと思うとつい、体が動いてしまう。
お嬢さん扱いしたい訳じゃないが、ぜひとも怪我とかしてほしくない。

だからと言って、武装勢力の残党がやぶれかぶれで拳銃を打ちながら突っ込んでくるレベルの日常的な攻撃で、メイの身体能力の方があきらかに勝っていて、さらに防弾チョッキを着ているのも知っていながら、反射的に背にかばってしまうとか、完全にアウトだ。

クリスタや『きゅーぶ』の要人の身辺警護や会社への物理的な攻撃への対応は雁が、電子的な攻撃への対応はさとるがトップで、サブは両方メイだ。しかもあかりが何かと頼るのはメイで、実質あかりの右腕扱い。
正直それだけでもメイ自身かなりな重要人物。

メイの身体能力と鉄砲玉アピールでギリギリ狙われるのをかわしているところに、雁が体を張って不自然にメイを守るとか我ながら馬鹿なのかと、雁も思う。

メイの父親の名前も実は悟という。雁とは幼なじみで、家族ぐるみの付き合いで、親友で。カンニングし合おうが宿題を交換しようが悟と雁の間で済んでいる限り親公認という徹底具合だった。

で、メイの父親の方の悟は、両親兄弟そろった、いわゆる太い実家もちだ。
豪快な祖父母は60を超えたばかりで、ホゴラシュ育ちのメイが思う『老人』とは別種の生きものと言うべきパワフルさ。

優なき今、敦子にいちばん影響力を持っているのは、あの祖父母だ。
ぐいぐい押してくる世話焼きだし、隙あらば、悟の年の離れた弟を敦子の婿に押しこもうとしたりしながら、メンタル的にはもうほぼ家族。
さらに困ったことに、メンタルだけではない。
ホゴラシュにいけるのならリラを探してくれと、古くから優や、雁が関係する組織に金を入れまくったせいで、はからずもクリスタの大株主だったりする。
さとるやますみは、優がホゴラシュの仕事から遠ざけていたせいで、それほどかかわっていないが、顔くらいは知っている。

メイが悟とリラの子とばれたら、ダース単位でボディガードを送り込んできた挙句、敦子を脅して危険なポジションから外すくらいはしそうな気がする。
悟を殺したのは、キュニ系の武装勢力だった。代変わりしたかもしれないし、分派したかもしれないが、今メイに弾を打ってくる回数が最も多いのもキュニ系の武装勢力だ。

そいつらに向かって、鉄砲玉アピールなどもってのほか。
『じいじとばぁばに任せろ、キュニごと焦土と化してやる』とか、もう耳元で聞こえてきそう。
バレたら120%口を出してくる。
ついでに言うなら、メイに万一のことがあった後でバレたりした日には、ホゴラシュごと転覆とかさせかねない。

多分、まだバレないほうがいい。のに、自分からバラすような行動をとってどうするよ。
警護担当のトップが、たいして危なくもない二番手をかばって指示出せなくなったとか、どんだけど素人だ。
ため息。

「メイ、その、すまん。勝手に体が動く。完全に別シフトにして目に入らなけりゃましかもしれんが、さとるやあかりやマッシュの動線がこれだけ被りゃ避けようがない」

「いえ、大事にしていただいて、謝られるとか、そんな。ただその、ちょっと間がとりにくいと言うか・・・」

「ああ、完全に俺が邪魔している自覚がある。しかしだな、俺の挙動が不審になるほど、メイがキュニ人に怪我をさせられるのがマズイ。それはもう果てしなくマズいんだ」

「へ?」
メイがぼひゃっとした返事を返すと、雁は、携帯から写真を2つ出した。
ボディービルダーのチャンピオンベルトを掲げた初老の男性と、迷彩服に身を包んでモデルガンをかかげた中年女性。

「この二人が、メイの祖父母だ。見ての通り、趣味はボーディービルディングと、サバイバルゲーム。今回俺がまたホゴラシュに来ることになった時も、ゼロ数える気にならない額のドルを渡されて、リラの所縁に金を渡せなければ、全部ミサイルに変えて、息子殺した武装集団に打ち込んで来いと」
「む、むかしの・・」
「数か月前の写真だ」
ぶっ。
「ま、まちがいじゃないでしょうか?!私の父は、母と出会った頃にすでに二十歳を超えていたかと!ざっと計算しても、祖父母殿は60歳を超えているはずで、この方々のはずは!」
「両方とも65だ」
おかしいでしょぉ?!

メイの感覚で老人枠だったレノは多分60位だが、明らかにレノの見かけよりも一回りは若い。
ラノンは確かに70近かったと思うがすでに人外と言うか妖怪扱いされていた。

「日本は若返りの泉でもあるんですか?!」
「世界有数の長寿国だ。携帯写真でしか見たことないリラを嫁呼ばわりして可愛がって、息子を殺した恨みは実行犯のキュニの武装勢力に正しく一点集中。で、パワーも金もありあまったクリスタの大株主」

「うそ・・」
「本当だ。ごまかしたかったが、俺がアウトだ。この人たち、オシが強いんだ。あかりとも親戚同様。敦子に至ってはもう娘扱いされている」
「ひょっとして、私がキュニ勢力に怪我させらたらまずいって、そのせいですか。息子さんの仇に孫娘もろともとは、みたいな?」
「あたりだ。いずれバレる前提で考えると、メイのささくれがめくれただけでもミサイル飛ぶと思え、ってくらいには不味い」
「か、かくしましょう?!いえ、私がかくれます?!」

「あー、優の仇討ちも、最後までやるんだろ?今回は出合い頭の事故だから、俺らの実働部隊ですんだが、ロジュが協力的だし、クルラの記憶力も半端ないから、いずれ残りの奴らもわかるよな。仇討ちでサシャとますみが暴れても、お前、隠れていられるか?」

サシャと、ますみさんがダブルで大暴れ?!
サシャはますみさんの影響で、最近ものすごーく色々な爆発物に興味を持ち始めている。あの性格は正直爆発物を持たせてはいけないと思うのだが。
しかも、サシャは妊婦だ。

雁の要領がいくらよくても、初見でますみの動きに対処するのはほぼ無理だ。
ますみの初速はそれだけで凶器だ。

・・・え、誰が守るの?!
さとるさん?
いや、さとるさんだって優さんの仇を前に冷静でいられるはずなんてない。
メイだって、優さんの恨みはらすのは、なによりも自分で、とおもうのに。


だめ、怪我しちゃうよ!
「無理でした!ごめんなさい、当面、私は天涯孤独で、んで、フルで働きます!!雁さんも今まで通りでっ」
「そう、なるわなぁ。悪いが俺が行動つつしめるように協力してくれ。あと、気が向いた時だけでいいから甘えてくれると嬉しい」

そんな、わけで。
メイにとって雁さんは甘えられる人になり、これまではこっそりだった、雁さんの花束に顔をうずめる験担ぎが、大っぴらなラッキーモチーフになった。

えへへ。
これは、不貞じゃない、よね?
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