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ゼルダの夜会の後日

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「メイ、ちょっとおいで」
マッドさんに呼ばれてついて行くと、医療ジェットに連れ込まれた。
「君もあの水、飲んだでしょう?昨日の会食時の、防犯カメラ映像に映っていましたよ」
あー。確かにこの人なら。
治療の手がかりになる情報はかけらも逃さない人だから、防犯カメラの映像くらいチェックするか。

うかつだったなと、メイは反省する。
「ほんの、少しです。ナノ磁石とdeltaFosBでしたか?ひどいことを考えますね。ジアモルヒネ自体は意識を犯すほどじゃなかったから気になって」

ガンッ
カーテンの後ろからパイプベッドを蹴り飛ばした音がして、メイが『しまった』という顔になる。
メイは未だに、さとるに怒られるのは弱い。

「さとる、怒らないという約束ですよ」
マッドがあきれたように仲裁する。

「怒ってない、いら立ってるだけだ。飲んでないフリしやがって。言い訳があるなら言ってみろ」
「すみません。単発で効果が弱い薬を入れた理由が推測できませんでした」
「だから?」
「あかりさん狙いかなと思いましたし、クルラの体は薬物治療中で過敏です。私がいちばん暇でした。せっかく飲んだので自分で、あの水の理由や効果を見つけようかと」

そういってさとるの手を逃れて、するりとマッドの後ろに回り、ひそひそ声を出す。
「マッドさん、マッドさん、気になりませんか。本当に何でも言うこと聞いてしまう程の禁断症状を人工的に作れるのかとか。さとるさんに怒られないようにしてくれたら、私が実験体やりま・・・きゃいん」

さとるはマッドの背中からメイを引っぱり出す。メイのほっぺたをつまんで。
「マッド、実験じゃなくて、治療だけしろ」
「えーっと、ち、治療の途中で、ちょっと多めにデータとる位は・・・」
「このジェット鉄くずにするぞ!」

もう、しょうがないな。
そんな感じで、メイは自分の頬をさすりながらさとるの耳に口を寄せて可聴域ぎりぎりでささやく
『これ、たぶん、後日の拷問とか意思を捻じ曲げた行動させる用です。私からデータが取れないと、さとるさんがあかりさんにつきっきりになって寂しいのでデータをあげたいです』

じとっ。
そんな擬音がぴったりな目でメイを見て、さとるが大人しくなる。
「本当に、苦しくなったり、後に響くようなことしないか?」
「「約束します!」」
何故だかマッドまで一緒にこたえて、ふたりの声がはもる。
さとるが眉間と鼻にすごいしわを寄せて、引いた。
「部屋で、待ってる」
そういって、ジェットを降りたのだ。

さとるが視界から消えるなり、マッドが言った。
「すっごいですね、メイ。いつの間にこれほどのさとる操縦術を?」
うずうずの顔が、実験データをとれるプラスアルファに輝いている。

どうやらマッドは、さとるとメイのカップル観察が好きらしい。
「日々成長しております」
とメイが答えると、マッドは、ぷふふと笑って、メイの髪の毛を撫でた。

「本当に、データ取りだけです。脳までナノ磁石持って行ったりしませんから、楽にしてて」
そう言いながら機器類をセットし始める。

「私は、構いませんよ、マッドさん。クルラの体もあかりさんの心も心配でしょう」
クルラは体で、あかりは心、ね。
よく見ているなぁと感心しながらも、マッドはメイの目を覗き込むようにして、噛んで含めるように言い聞かせる。
「あなたが一番心配ですよ。さとるまで御せるようになってしまったら、誰があなたを止めるんです」
「御したわけでは、ないです、よ?」
マッドがもう一度メイの頭を撫でる。
メイは、指数関数的に増えていく頭を撫でられる回数をカウントして楽しんだ。

マッドは、あかりの体内のナノ磁石の位置と、体外から位置を動かせるか、転写因子が動いているかのデータをとり、メイに教え、それから凝集包埋と排出の処理をした。

「見つかりさえすれば、処理はむつかしくないけど、悪用が簡単だなぁ。ナノ磁石に自分のロット番号でも覚えさせるか、包埋処理を専門知識なく出来るようにするか・・・」
ぶつぶつぶつ。ニコニコ。がさごそ。ニヤニヤ。

あー、なんとなく、わかってしまったな、とメイは思う。
「マッドさんは、昔からそんな感じですか?」
「はい?そんな感じ?」
マッドは手を休めずに聞き返した。
「怖いことが頭に浮かぶ度に、無理に楽しそうな顔をして、対策のめどが立つまで動き続ける」
この人多分、サイコパスどころか、マッドサイエンティストですらない。

楽しそうに見せる癖がついたのは、止められたくないからだ。
真剣な顔で同じことをやったら、まず間違いなく、そんなに根を詰めるな、見ていられないと周りからストップが入るだろう。

マッドのニコニコ顔が、やれやれ顔に変わる。
「全く。最近若い女の子に優しくされることが増えて感慨深いですよ。今日の分の治療は終わりです、メイ。さとるが心配しているから、まっすぐ部屋へ戻ってあげて」
「はい、マッドさん」

メイは静かにジェットから出て行った。
今日手伝えることは、もうないだろうから。
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