手負いですが恋愛してみせます ~ 痛がり2 ~

白い靴下の猫

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部屋に戻るなり、メイはさとるに抱きつかれた。
「さとるさん?えーと、治療してもらっただけです。ご心配をおかけしました」
「風呂、一緒に入ろう」
「へ?まだ夕方にもなっていませんよ?!」
「嫌、か?」

久々に、さとるから嫌かどうかを聞かれ、メイは昔を思い出して固まる。
「い、いいえ」
メイの返事を聞くと、さとるは部屋のドアに鍵をかけ、メイの腕を引いて浴室にこもり、さらに浴室のドアにも鍵をかけた。
「あ、の?」
さとるは自分の服を脱がずに、メイの服を次々とどけて行く。
メイがさとるのシャツのボタンを2つはずしている間に、メイの方は下着までつるんとはずされてしまう。
おかしい、同じ時間が流れたとは思えない!

服を着たままのさとるが近づいてくると、つい一歩二歩と奥に逃げてしまい、メイの背中が壁にあたる。
メイが逃げられなくなると、さとるの唇が降りてきた。
深いキスを、される。
でも、いつもの吸い立てられるような、口の中を蹂躙されるようなキスではなくて。
メイの舌を味わうように。高級チョコレートでもとかすように。

触られてもいない体の中がくすぐったくなる感じがして、メイは思わず両手で自分の体を覆ってしまう。

さとるはメイから0.3歩だけ下がって、少しだけ寂しそうな目で言った。
「メイ、きれいになったなぁ」
さとるが、メイの体をくるっと洗面台の方に向けて両手をほどかせる。
洗面台側の壁面には大きな鏡がはまっていて、そこには、産まれてから一度も傷ついたことがないような白い体が、映っていた。

はじめて会った時に見せてしまった公開刑の傷も、再会するたびに増えていた傷も。
ラノンに付けられた鞭の痕も、同族からの悪意の痕も。
マッドさんの手術で、すべて、消えた。

背中にくっついたさとるが、メイの手を軽くホールドアップするように押さえてしまっているので、鏡と対面してしまって目のやり場に困る。

さとるは、そのまま、メイのうなじや首や耳の後ろに唇をなんども当てて、メイの顔が赤くなって行くのを見せた。

「このまま、きれいなメイを一緒に見ながら、しようか」
「え、えええっ?!」

メイが、あわててホールドされていた自分の両手を取り戻して、さとるの方に向き直ると、ぎゅっと抱きしめられた。

「なんで嫌?きれいすぎて、見てたら他の男のところに行きたくなっちゃう?」
「な、な、な、なんですかその言いがかりっ?!」

自分の方がよっぽどお誘い多いくせに!
クリスタの主要メンバーなら、あかりを休ませられるのはさとるしかいないのではと一度は考える。
メイを気遣って実践しないだけで、あかりを、シューバではなく、さとるとセットにして安心したいと思うはずだ。
正直メイですらそんな気分になることがある。
本人が気づかないはずがない。

さとるはシンクがない側の空いた洗面台に、メイを抱き上げて座らせた上に、メイの足の間に自分の体をいれて閉じられなくしてしまう。
それから、自分の体を大きく右に乗り出して、鏡の右下を押す。
ぽくっと音がして、右側の鏡が30センチ分くらい、メイの側を向いた。
裏側に歯磨きやら、化粧水やらがしまえるようになっていて、棚がわりなのだが、今の用途はどうやらそれではないらしい。

「メイの体、見える?」
みぎゃぁ!やっぱりそういう用途?!



洗面台に腰かけさせられた今のメイは、さとるさんより頭半分くらい背が高い。
だから、さとるさんの唇は、メイの下唇にも、メイの胸にも近くて。
さとるさんの息が当たると触ってほしいところが勝手に彼の方をむいてしまう気がしていたたまれない。

「や・・」
「俺が、嫌?」
そんなこと言ってない、そんなはずがない。
メイは、首を一生懸命横に振る。

少し下から見上げてくるさとるさんは、いつもより少しだけ幼く見えて、4年前を連想させる。
あの頃は。この人への執着が隠したくて命ごと懸けようとした。
傷が申し訳なくて、捨てられるのが怖くて、囮にした罪悪感に潰れそうで。
こんなに長く一緒に居られるなんて、思ってもいなかった。

「・・・いまだにそう言う目をするよな。俺は別に、守りたい男じゃない。伴走OK、なんなら守られるのも好きだ。でも、置いていかれるのは我慢できない」

このどっちむければいいかよくわからない目がどうかしましたか?!という気分で、メイはもう、ぎゅっと目をつぶることにした。

そうすると、上半身に続けざまの攻撃が来た。
まさか、三面六臂の阿修羅像さまだったとか?顔3つありませんか?!と罰当たりなことを考える程、吸われ、こすられ、舐られる。

「あっ、う、置いて行くって、私がどこに行けると・・んんっ」

あまい刺激にじっとしていられなくて、かといって既に洗面台深くまで腰掛けてしまっていて、逃げようもなく。
気が付いた時には、左足が洗面台の上に乗せられて、膝まで立てられていた。
右足はぶらんと下げたまま、そんなことをしたら、足が開いてしまう訳で、どう考えてもすごい恰好になってしまっていると思う。

とても目を開けられない。
「どこにでも行けちゃうだろ、メイ。こんなにきれいで、何でもできて。特に相手が男だったりした日には、だれでも下心でドアを開けちゃう」

内容は特にメイの行動を咎めるものではないけれど、声のトーンが少しだけ苛立っている。
自分が目をつぶっているせいなのに、彼の表情が見えなくて不安でたまらなくなる。
洗面台につっぱって自分の上半身を支えていた右手をはずして、そろそろと前に伸ばしてみるが、何も触れない。
さとるの方がよっぽどどっかに行ってしまいそうだ。

「さとるさん?手を、握ってくれませんか?」
自分の手が泳ぐだけで泣きそう。
「あの、今の、出ていけ、じゃないですよね」
子どもの頃は、返事なんてないのが当たり前だったのに、今は、返事がないと、怖くて、怖くて。

そうか、ずーっと毎日、彼が返事を返してくれていたのだと気づく。
幸せが続くと恐怖が増す。ゼルダの夜会でのシューバの言は、メイにとってこの上もない真実だった。
『2~3年という時間は、求めれば得られると知った人間が、その可能性を潰した人間を全身全霊で恨めるようになるのに、十分すぎる時間』なのだ。

「昨日のことは謝りますから。さっきのひそひそも、3年以上も一緒にいられて、浮かれていただけですから。お願い、『まだ』だと、言って」

出ていけも、さよならも、もういらない、も『まだ』だと。今ではないと言って、安心させて。きっと役に立ってみせるから。

手は握ってもらえなかったけど、さとるさんの唇が首とか胸とかに集中して、チリチリとしたちいさな痛みが走る。
あ、キスマークだ。見なくてもわかる。
痛覚が鈍いから大丈夫だと虚勢を張ったメイに、痛がりだよと言いながら、つけてくれたやつ。

いっぱい吸われて、怖いのが消えると、体がくにゃっとやわらかくなった。
我ながら現金。
鏡に左肩をついてよっかかってしまって、左足なんて多分さとるさんに持たれてる。

それから、左腿の内側にも、チリチリ攻撃が来て、腰と下腹の間に、ズキズキが溜まっていく。
足の間からはずかしい音がして、身をすくめると、もういっぽうの手も参加して、たくさんいたずら、される。
遊ばれているみたいなのに、むずむずとうずうずがひどくなって、もどかしくて、恥ずかしくて、ぴいぴい泣いてしまいそうになる。

はやく、お風呂に入って、ベッドに行って、抱かれたい、と思いかけてその絶望的な工程の多さに愕然とする。
ここから降りて、さとるさんの服を脱がせて、お風呂に入って、体を洗って、温まって、体を拭いて、着替えて、歩いて、ベッドに行くの?
そんなに我慢できるだろうか。

それなのに、メイを液体みたいにかき回しながら、容赦なくうずうずをひどくされる。
あと、たぶん、メイの顔が見られている。
真っ赤になって、ぐにゃぐにゃで、泣きそうで、ろくでもない状態の顔。

もうだめだ、泣く、溶ける、立てなくなる。その前に抗議しよう!
そう意を決して目を開けると、思った以上に近くに、思った以上に優しい目が、あった。

メイが長いこと目をつぶってからさとるさんを見た時は、彼は必ず想像したより数倍やさしい目をしている。いつもいつも、いちども裏切られることなく。

さとるさんの目だけを見ていられれば幸せだったのに。
自分の視力の良さと視野の広さを恨めしく思う。
とろけきった顔で、湯気の出そうな肌の色で、洗面台の上で足を広げて。さとるさんの手はふやけませんかというほど濡れていて。
そしてなにより、キスマークがすごすぎて。一瞬、あの鞭痕だらけだった昔に帰ったのかと、心臓が軋むほど。

「あ・・」
「どうせ、俺は、傷とセットだよな。これなら、どこにも行けないから、いっしょにいてくれるだろう?」
「きゃっ、ああっ」
頭が、昔に引っ張られそうになると、うずうずの中心をつまんで転がされたり、押しつぶしてゆすられたりした。

「で、なんだっけ?『まだ』だって、言えばいいの?」

ちがう、その『まだ』じゃない!
さとるの指が引いて行くのを感じて、半狂乱で縋る。

「いやっ、虐めないで、おねがい、おねがいっ」
頬と額にキスをしてくれて、ズボンをくつろげている音がした。

「じゃ、台から一遍降りて、で、反対向いて」
両脚だけ台から下ろして、上半身をうつ伏せに洗面台に乗せられてしまう。

自分の上半身は、胸と両腕を半分潰しながら洗面台の上に斜めに乗り上げて、シンクの側の鏡が顔の前に来る。
その状態で、両脚の間を後ろからさとるさんのモノでなぞられて、足先が跳ねた。
もう頭の中が真っ白で。
角が当たるとちょっと痛そうだと言って、さとるさんがタオルを折りたたんで腰と洗面台の間に敷いてくれる。

「も少し足開ける?」
さとるさんは、少しずつ動いてくれながら、たくさんメイを触って、名前を呼んでくれる。
うれしくて、幸せで、ふわふわして。

でも、目を開けて、鏡の中のさとるさんを見て、一瞬で、メイの心臓は縮みあがった。
さとるさんが、腕を動かしてシンクの栓をして蛇口のノブを上げたのだ。
水が、シンクを満たしていくにつれ、メイの体も水に沈んだように冷たく、重くなっていく。

それでももう一回目を閉じて、必死に呼吸を整える。
大丈夫、こわく、ない。

昔、せっかく汲んできた井戸の水に、顔を突っ込まれたことが何度もある。
髪の毛をひっつかまれて、桶の底で額が擦りむける程押し付けられて、鼻に水がはいって、痛くてたまらなくて、咳が出そうになる。でも咳をしてしまうと、空気はあっという間に肺から出てしまって、引き上げてもらえるまで待てずに気絶する。

大丈夫、さとるさんは、わたしを殺さない。
きっと、そんなに苦しくなる前に、出してくれる。

「メイ?」
水音がとまって、目を開けると、さとるさんは、シンクのはじまで来た水を自分の手ですくって、メイの髪の毛につけ、オールバックにするみたいに撫でつけていた。
我ながら、ものすごくなさけないとおもえる顔が鏡に映っている。
「なにを、してます?」
「いや、鏡に映るメイの顔みながらしたいんだけど、動くと髪の毛が顔にかかってもったいないから。水で固まらないかなって。髪ゴム、みあたらないし」

あ、顔、を、見ながら。って鏡で?
それは、すごく恥ずかしい気がする。
けど、でも、いまは。なんというか、自分の想像と現実のギャップが大きすぎて、虚脱してしまって。
そ、そうでしたか、その水は、整髪料がわり、でしたか。

さとるさんは、だまってしばらくメイの顔を凝視していた。
それから、メイの体から少しはなれてしまう。
寂しさが全身を襲って顔を伏せると、抱き上げるようにして体ごと起こしてくれた。

「ひょっとして、俺に、なにか酷いこと、されると思った・・・のか?」
「ち、違います」
さとるさんの目が見られない。
「冷たい水、かけられる、とか?」

それは、酷いのでしょうか。今まだ気温高いですよね。
たぶん風邪ひいたりすら、しないと思いますよ?

「顔、むりやり浸けられる、とか?」
ふつう、そっち、想像しません、か?

さとるさんは何も言わずに、その場で自分の服を脱いで、メイを抱っこして浴室に入り、メイごとざぶんと湯船につかった。

ぴぇーん。この人勘いいもんね。私が顔浸けられる方想像したの、ばれたと思う。
怒られる、かなって、そう思ったけど、優しいままで。
メイの髪の毛を洗ったり、ひたすら世話を焼いてくれる。

なに、そういう神様なの?新種の天使様なの?

そして
「夜、また最初っからやろうな」
って。

うーむ、KOされていいですか?
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