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第一章

6.歪んだ感情と願い

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「トウカが奴隷になるのを、ずっとまってだんだ」
嬉しそうにアスランは、微笑んでいる。
まるで人形みたいだ。
「待ってた?」
「トウカは私の奴隷にならなきゃ、駄目なんだから」

「・・・・・・」
唐突に、トウカは認識した。

自分は、アスランに騙されたのだ。

な、ぜ?
トウカの目の前が、真っ暗になった。

盗まれてはいなかった。
皆の前で、盗人に仕立てあげられたのだ。

「・・・・そんなに、神父様は、私が嫌いなんですか?」
トウカはぽろぽろと泣き出した。
ずっと慕っていたのに。
ずっと憧れていたのに。


アスランは戸惑った。
「・・・・嫌い?」
トウカが絶望した目で、自分を見ている。

嫌い?
何を言ってるの?

「すいません。もういいです。僕も嫌いになります。ごめんなさい」
「な、何を言ってるんだ!?わ、私を嫌いになるのは駄目だっ」
あわてて、トウカの涙を拭う。

私の奴隷に戻るだけなのに、何故泣くのだ?
そして、トウカは私を嫌いになると言う。

私のトウカなのに、私を嫌いになる。

アスランは怯えた。
トウカは、私を嫌いになろうとしている。
トウカが自分を怖がるのは別にいい。
だって、私がご主人様だから。
でも、嫌いになるのは駄目だ。
トウカは私を好きにならなきゃ、駄目だ。
私の事を慕ってくれていたじゃないか。
格好いい、といってくれた。

また、私の手から逃げて行ったら、私は絶望してしまう。
ぺたりとトウカの薄い胸を触った。
「貴方をいじめていいのは私だけだ。他の奴がひどい事をしたら、私が処理してあげる」
「・・・・どうして、わざと盗人にしたのですか?」
「盗人にならないと、奴隷に出来ないじゃないか」
不思議そうにアスランに返された。

「・・・・・・?」
「トウカは私の奴隷にならなきゃ。ま、また、私に無断で居なくなるんだろうっ。私に勝手にっ!」
「そんな」
「嫌いにならないで。何でも揃えてあげるから。あの糞ガキ、アークが好きなのか?アークも一緒に奴隷にしたら、いいか?私は不満だが、お前がそう言うなら」
「やめて、くださ・・・・。アークは、友達なんで、す・・・・」
アスランは泣くトウカに戸惑った。

どうして、私の奴隷になるのが嫌なのだろう?
前は、あんなに喜んでいたのに。
私の事を好きだと言ってくれたのに。
そして、気付く。


ああ、そうか。 
黒神は本物の人になってしまったから、全部忘れてしまっているのだ。

私が黒神のご主人様だから、私だけが黒神を嫌いになってもいいのに。

黒神は私の動作や仕草で、一喜一憂するんだ。

私の奴隷なんだ。

私は、黒神の特別なんだ。

前みたいに虐めてやってもいい。

私が酷い事をしても、嫌がらなかった。

私が嫌いだと言っても、耐えてくれた。

黒神は私のものなんだ。

なんでもしていいと言われてるんだぞ?

酷いことをしても許してくれる。

私が嫌いになっても慕ってくれる。

でも、黒神は私を嫌いになっては駄目だ。

私を一番に考えてくれなきゃ



その瞬間、アスランは動悸がした。
白神女神の言葉を思い出したのだ。

あの時、黒神は私の奴隷になったはずだと叫んだ。

『〝黒神〟は、です。御祓が終わった力を失くした非力な子供は、〝黒神〟ではありません』

『黒神は、記憶を失い、成長し、老いて死ぬ、人として生きます』

嫌だ嫌だ。黒神が私を忘れるなんて聞いていない。
黒神は私のだ。
前は、私の事を雛のように、慕っていたではないか。

忘れてしまったから、仕方がないのか?
トウカが他の人間についていったら、私は世界を壊してしまうかもしれない。


「い、いじめていいのは私だけだ。他の奴には触らせない。トウカが望むなら、お前をいじめた奴を排除する。私を見てくれるなら、何だって用意する」
アスランは泣くトウカの前に膝をついた。
「・・・・・・」
よくわかっていない目で、トウカはぼんやりと見つめ返した。

「そんなに奴隷印が嫌だった?首輪が目立つから?じゃあ、腕輪にする。目立たないだろう?アークとおしゃべりも特別に許してあげる」
おろおろとアスランは、トウカの前で膝をついた姿を晒している。

「わ、私の側にずっといるなら、印も外していい。外に出る時だけ、つける。それなら、いいだろう?」
無言のトウカにすがるようにつぶやいた。
「逃げないだろう?だって、私の奴隷だもの。私から離れていかないで」

「・・・・シュナーダ神父様は、私が離れて行くと思ったから、奴隷にしたんですか?」

こくりと頷いた。
そしてうっとりとトウカを見つめる。
「トウカは、私だけの神様だから、私以外に行ったら、駄目だ。勝手に出ていこうとしただろう」
「勝手に?」
「糞ガキと一緒に、出ていった」
「・・・・・・」
無断外出がきっかけなのは分かる。だが、トウカは引っ掛かる単語があった。
「神、様・・・・・?」

何を言ってるのだろう?
神様なんて知らない。
でも、ここで反論してもシュナーダ神父様は聞いてくれない気がする。

それに、今のアスランはとても怖い。
整った顔は全く表情が動かない。
全く知らない男の人みたいだ。

かかる息は荒く、ゾッとするような笑みを浮かべて、アスランはトウカの頬を撫でている。

「トウカは、黒神なんですよ?黒神なら黒神らしくしなきゃ。力は失くなっても、貴方がいるだけで皆の欲が高まるのに」
アスランは、少し困った顔をして、優しく微笑んだ。
「貴方を、白神女神から貰ったのに。女神は、ずっと一緒にいろと言ったではないですか。私の可愛い奴隷だ。ずっと、私の神様だ」
「神様なのに、奴隷?」
何を言っているのですか?
「それも、本当に忘れてしまったの?」

訳が分からないとトウカが見つめ返す。
アスランは、嬉しそうに瞳孔が開いた瞳で、トウカを見た。
「また奴隷にもどったら、私を裏切らないだろう?私の事をいつも、ずっと待っていてくれた。私の事を好いてくれた。ずっと一緒に居てくれると言ったのに、貴方は居なくなってしまった。奴隷なのに、ご主人様の言いつけをやぶったんだ。本当なら、ご主人様の私が、躾で折檻しなきゃいけないんだぞ?でも、お前は特別だから、許してあげる」
「・・・・・?」

アスランがトウカの頬を撫でる。

「私の奴隷だから、ずっと私だけのものだ。私がちゃんと管理して、甘やかして、ずっと一緒に居るんだ。今度は足を砕いてしまおうね?片足だけで大丈夫だから。痛くしないように、薬も使ってあげる。治るまで、痛くないようにするから。遠くに行けないように。出掛けたいなら、私が抱き上げて連れていってあげるから」

嬉しそうにトウカの額にキスをした。
「なんの、話し、です、か・・・・?」
「人の人生を送るなら、私がちゃんと指導してあげないと。私は、貴方のご主人様なんだから。ちゃんと管理しないと。今回、糞ガキの甘言に惑わされて、勝手に外に出ていったのは、私の管理不足だから許してあげます」

「アークは、罰を受けなくて、いいのですか?」
瞬間、アスランはトウカの首を絞めた。

ぐっ、とトウカの喉が鳴った。
「アークの話はするなっ!他の男の話なんてするなっ!俺がご主人様だから、俺だけを見て?ね?」
ぱっと手を放され、トウカは噎せながらアスランを見た。
アスランの眼は、ギラギラとしている。

「・・・・・・」
「俺よりあいつがいいの?ねえ、私よりあいつが好き?どっちがいい?」
「し、神父様、です」
「嬉しい」

アスランはトウカを抱き締めた。
がたがたとトウカは、恐怖で震えている。

「どうしたの?寒いのか」
アスランは不思議そうに見つめ返した。

「また、前みたいに、気持ちいい事をしようね。今日は、トウカにとって初めてだから、酷いことはしないよ」
服を剥ぎ取りながら、ペロリと頬を舐めた。

がたがた震えながら、トウカが暴れようとしたが、アスランがぐっと胸を押した。
「トウカはいい子だから、暴れてはいけないよ?手元が狂って、壊してしまうかもしれない」

アスランの目は、ぎらぎらとしている。

ヒッと、トウカの喉がなる。
「・・・・・い、やだ・・・・・」
楽しそうにアスランは、頬擦りした。
「身体は覚えているかな?初めての時は覚えてる?暫くは、加減を知らなかったから、すぐに泡を吹いて倒れていたよね?最初は、苦しがっていたけど、後から大丈夫になったよね?」

何故、怖がっているのだろう?

「ああ、普通のヒトの体になったなら、壊れても戻らなくなってしまうね。・・・・・・壊れてもいいか。トウカは私のだから」
嬉しそうにアスランは、露になった腹をついっと指でなぞる。

トウカの中心は小さく縮こまっている。
「ひ・・・・・・っ!嫌、です。許して、許して、ください」
トウカが暴れようとしたが、アスランに押さえ込まれた。
「逃げるのか?」

ぎらぎらとした獣の目に、トウカは泣き出した。
震えながら、トウカは答えた。
「怖い、で、す」
「・・・・・じゃあ、選ばせてあげる。私に抱かれたくないなら、代わりにアークを殺してやる。私に抱かれるなら、アーク何もしないよ?」
「・・・・・本当に?本当に、アークに、何もしないのですね?」

トウカは、再度尋ねた。
アスランの眉ねがピクリと上がったが、優しげな顔のまま頷いた。

「ああ、そうだ。
「・・・・・・わかり、ました」
「いい子だね、トウカ。大人しくしておくんだよ」
冷たい指先に、びくりとトウカが震える。
アスランは慌てて、手を温める。

「ふふ、私も緊張してるみたい。冷たかったね」
やっと手に入れられるのだ。




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