神様のあまやどり

まきまき

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神様のあまやどり

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アスラン・シュナーダは聖戦士だ。
産まれは、小さな商会の商人の息子だったらしいが、アスラン自身親をそこまで覚えていない。
幼い頃、教会の鑑定式で女神の言葉を感じることが分かり、そのまま教会で働く事になった。
俗世に縛られぬよう血の繋がりを絶ちきらせた。

教会は、白神女神という光神子を奉っている。
太陽と豊穣を司り、少女神と言われている。
気まぐれに神言を授ける事があり、古老たちは、女神が気に入る人間を神父や聖女に選んで教育していた。

本山は森に囲まれた辺鄙な場所にあるが、一国の社会がそこに存在していた。
近隣の国にも支部を増やし、人を守り、人を育てら人を指導する教会は、他の国からも監視対象の一つと思われている。

アスランは、人を導く神父として教育を受ける一方、肉体にも恵まれた彼は、教会が作る聖騎士会にも所属していた。
本人は、特に不満もなく、神の声が聞こえるとはそんなものかと、環境に順応していった。

従来の機敏な動きと柔軟性で、めきめきと聖騎士会でも頭角を現し、一目置かれる立場になっていった。
聖騎士で神父、という肩書きは珍しいらしく、古参の神父たちからも、孫のように可愛がられた。
背の高い、理知的な秀麗な顔立ちとすらりとした体躯、金色の髪をさらりと束ね、優しげな眼差しで説教をする。
文武両道を体現したような姿は、教会の広報塔として将来役にたつように見えた。

緑色の瞳は一般的だったが、教会が崇拝する女神と同じ見事な金髪は、関係者だけでなく、参拝にきた善良な信奉者にも喜ばれた。

十代を半ばを過ぎた頃、アスランは、教会から勅命を受ける。

アスラン・シュナーダに『勇者』の称号を与える、と。


この国では、『勇者』は複数居る。
体力、知力、奇跡と、其々に特化した者が選ばれるのだ。
彼らは国を離れ、数年の間、国を囲む森の中で、魔物と呼ばれる瘴気を含む理外のモノを退治する。





「本当に、こっちでいいのかしら」
「確かだ。白神女神が、案内している」
森深くにあった神殿の廃墟跡、ここ一帯の魔物の本拠地だった。
神殿は白神女神の教会より、歴史は古く、忘れられた教義が眠っていると、習ったことがある。
人がいた形跡はとっくに失われ、森に飲み込まれようとしていた。
その中で、二人の男女が歩いている。
1人はアスラン・シュナーダ。神父にして、聖戦士で勇者の1人である。
もう1人は、ラウラ・ハウンド。教会の聖女に任命され、彼女も勇者の1人になる。

二人は、周辺の魔物を全員で倒したのち、本隊から外れ、別行動をしていた。
「・・・・貴方しか見えないから仕方ないけど、信用してるからね」
ラウラは足下の蔦を鉈で切り裂きながら、アスランの後ろを付いていく。
「任せろ」

何も感じないただの廃墟だ。
ラウラは、アスランの背中を見ながら、溜め息つく。
アスランはたまに虚空を見つめ、しっかりした足取りで、神殿の奥に進んでいく。
勇者の中で、鮮明に白神女神の声を聞く唯一の男でもある。
ラウラもたまにお告げとして聞くことがあるが、アスラン程ではない。気まぐれな女神は、アスランを特に気に入っているのだと、自分を慰めている。


アスランは、魔物を壊滅する前日、白神女神の〝神言〟を聞いた。
『神殿に眠る黒神を、連れてきなさい』
黒神は、教義の中では、白神女神の兄神として扱われる。
白神を光とするなら、黒神は闇だ。
〝暗きもの〟と呼ばれる闇の元を、身体の中に溜めていく。
欲と死を司り、忌み嫌われた。
二神は同時に産まれてきたが、黒神は追放され邪教徒に信仰された。
時代の流れと共に忘れ去られ、白神女神だけが残った。
そんな昔話だけが伝わっている存在だ。

アスランが知っている白神女神は、無邪気な少女神だ。
小さい頃から、気まぐれに話かけられる。
時には災害の予言もするが、大体が少女らしいお喋りだ。
美しい金髪に美しい宝石のような青い目をしている。そして、無邪気に人に無慈悲だ。
幼い頃は、初恋として仄かに恋心を抱いた事もあったが、所詮神の考え方は分からないと、早々に割りきった。
教会に飾られている白神女神像は、大人の女性でいつも吹き出しそうになる。


白神女神は、アスランに、自分の声がはっきり聞こえるせいか、人使いが荒い。
こんな廃墟にお使いとは。
アスランは無表情に進んでいく。

最奥の部屋に〝それ〟は居た。
薄暗い壊れかれた石の祭壇の上、巨大な割れた水晶が散らばっている。
その横にゴミのように、倒れている子供がいた。長い髪は埃とゴミで、何色かも分からない。
「子供!?なんで、こんなところにっ?」
ラウラが叫んだ。
「〝こいつ〟だ」
そう言って、アスランはマントを被せ、抱き上げた。
「帰るぞ」
「本当にこの子?」
「知らん。だか、女神が言っている奴だ。帰ったら、女神から労りがあるぞ、よかったな」
「そう、ね・・・・・・」
ラウラは何も言わず、そのままアスランの後ろを付いていった。




今回の魔物征伐は、大勝利だった。
魔物が放つ瘴気がほぼ失くなったことが、教会によって確認されたのだ。
大元と思われる魔物を倒したので、今後数百年は、国を脅かす程の災難は起こらないだろうと言われた。
勇者たちは凱旋し、皆から熱狂的に迎えられ、そしてそれぞれの道を歩みだした。



そして、今、アスランは教会本部の奥、白神女神を祭る神殿の最奥にいた。
ここに入れるのは、教会のトップか白神女神の声を聞く〝愛子〟しかいない。
アスランは、愛子だ。

祭壇の中央に光の束が立ち、長い髪の少女の姿を形作る。
『此度は、ご苦労であった、勇者よ』
光は、鈴のような耳に柔らかに入る音を発した。
「勿体なき、お言葉です」
『〝兄〟を取り戻してくれたことに、礼をいう』
「・・・・・・」
勇者の功績ではなく、黒神の事なのかと、アスランは少し憮然とする。
廃墟から連れてきた子供は、言われた通り、ここに放り込んだ。
それから見ていないが、どうなったのだろう。
あの時、途中で目が覚めたのか、薄汚れた子供は瞳に何も色を乗せず、馬車の中でぼんやりとアスランを見ていた。
秘密裏に行われた教会側の行動であったため、アスラン1人、教会に戻る名目で本隊と別に帰郷した。
真っ青な瞳は、目の前に浮かぶ白神女神とよく似ていた。
アスランは彼女の姿がどうにか分かるが、白神女神は、他の愛子には光の塊としか見えないだろう。
「彼は本当に、黒神なのですか?」
『私の同胞。〝兄〟になる。もうずっと離れていた。信仰の力を全部とられてしまって、神格は失くなってしまった』
「神格がなくなった?」
それでは、神ではない。
『誰も信仰せず、持っていた〝力〟だけを取られ続けていた。全部取られてしまった。黒神の力が尽きることは分かっていた。だから、貴方に連れて来てもらった』
確かに、魔物に信仰する者はいないだろう。

「・・・・・・」
『後は、黒神は消えるだけ』
薄情だなと思う。けれど、神の中では何かあるかもしれない。

とさりと音がした。
目の前には、廃墟から連れて来た子供が、倒れていた。
『黒神を貴方にあげる』
「え?」
黙って聞いていたアスランは、ぱちくりと輝く御光を見た。
『黒神は貴方にのもの。まだ、器に〝暗きもの〟が残っているから、浄化させて』
光のいくつかが、少年にまとわりつく。
「浄化とは、どうやって?」
『側にいて、触れるだけで浄化する。貴方の奴隷にすればいい。人の姿に変えておいた。でも、死なない。黒神は、全部忘れてしまっているけれど、側に居れば人の欲も増幅する』
「奴隷?欲の増幅?」
『黒神は欲が糧だったから。何でもさせればいい』
それだけ言うと、いきなり光が消えた。
残されたのは、ぼんやりと座り込んでいる少年とアスランだけだ。



部屋に連れて来て、アスランはどうしたものかと、床に座り込んでいる少年を見た。
首には細い銀の首輪があった。
教会所有の奉仕奴隷の印だ。
変に契約呪術がかかっていて、奴隷が主人を裏切れば首が締まり、切り落とすえげつない印だ。
「おい、話せないのか?」
「・・・・いいえ、よろしく、お願い、します・・・・・・」
のろのろと少年は頭を下げた。
まるで人形だった。
廃墟にいた時に着ていた長衣はそのままで、顔色も青白く、瞳もぼんやりしている。
薄い胸にガリガリの手足。
黒い斑の長い髪が汚ならしさを増長していた。
全体的に埃っぽい。
「お前、奴隷になったの、分かってるのか?」
「奴隷・・・・?」
「お前は器としか機能していなかったようだが、罪人だ。白神女神からも、お前の処遇は一任されている。死なないから、何でもしていいとな」
「・・・・・・」
「だから、お前は、俺の奴隷だ」
粗野の言葉遣いになったが、奴隷なのでいいかと思った。
押し付けられた感が強い。
「は、い・・・・・勇者、様」
すなおに黒神は頷いた。
「ん?勇者様か。奴隷に呼ばせるのは体裁が悪いな。ご主人様だ。これからはご主人様と呼べ」
「わかり、ました。ご主人様」
「名前は?」
「黒神、です・・・・・」
「それは別称だろう。名前を、忘れたのか?そうだな、汚い斑黒の髪だな。・・・・・ノアルだ。お前の名前は、奴隷ノアルだ」
「ノアル・・・・・」
「なんだ?気にくわないのか?」
「いいえ。あ、あの、ありがとう、ございます」
初めて、黒神であったノアルの瞳に光が宿ったような気がした。

「じゃあ、挨拶からだな」
そう言うと、アスランはノアルの頭を掴んだ。
「?」
「口を大きく開けろ」
ノアルは言われた通りに、口を開けた。
アスランは、躊躇なく自分の男根を突っ込んだ。
「がっ!?」
ノアルは、喉奥に強く当たる物に、吐き気と苦痛で暴れだした。
「大人しくしろっ」 
髪を握り上げ、物のように頭をストロークする。
「うえっ!がぁっ!っ!」
げほげほと、激しく咳き込み、吐きだそうとする。 
アスランは、頭を掴み、無理に何度も喉に突っ込む。
「歯を立てるな。頭を握りつぶすぞ」
しばらくすると、ノアルは涙目になりながら、大人しくされるままになっていた。
しばらくして、喉の奥に欲望を叩きつけると、アスランは立ち上がった。
何故か、異常に身体が高ぶっていた。
アスランは、売春宿に行こうと、シャツを直す。
ノアルは吐いて咳き込んでいた。
「出かける。床は掃除しておけ」
白い体液と胃の中の吐瀉物で、床が汚れていた。ぐしゃぐしゃになった顔で、ノアルは頷いた。
「・・・・・はい、わかりました」
よろよろと立ち上がる。


日が陰る頃、アスランが部屋の扉を開けると、床に散っていた汚れは綺麗に失くなっていた。
ただ、つんと据えた臭いが漂っている。
部屋の隅で、斑髪のノアルが踞っている。
「おい。奴隷が何をしている?主人が帰って来たんだ。出迎えろ」
「あ・・・・申し訳、ありません」
近寄って来たノアルを見て、顔をしかめた。
「汚いな。俺は汚物を抱く趣味はない」
ノアルは、床や家具をちゃんと拭き掃除していたが、自身の顔や身体はそのままで、異臭を放っていた。

アスランは、ノアルが状況をよく分かっていないのだろうと解釈して、おもむろに脇に抱き上げた。
「っ?」
「暴れるな。風呂場に行く」

アスランは、教会の中にある独立した個室に住んでいる。
前は共同の部屋であったが、勇者の称号を与えられた瞬間、部屋のグレードが上がった。
個室を与えられているのは、老中たちだけなのでとても気分がいい。
広い部屋に、トイレと風呂も併設され、門限もない。
決められた時間に、下位の神父達が掃除洗濯をしていく。
鍵は特にかかっていないが、教会内で不穏な動きをする馬鹿はいない。
風呂は常時、お湯が流れている。
火山が近くにあるおかげで、街はお湯に苦労しない。

着ていた服はぼろぼろだったので、そのままゴミにした。
ノアルはされるままになっていた。
風呂に入ったこともないのだろう。

頭からお湯をかけ、手際よく石鹸で洗っていく。
教会の奉仕活動として、病院患者や乳児を洗っていた事がアスランにはある。
何度かお湯をかけ、洗うとやっと泡だってきた。
「・・・・・なんで、奴隷を綺麗に洗ってやってるんだ、私は」
不服そうに言うアスランに、ノアルはされるままになっている。
「・・・・・申し訳、ありません・・・・」
ノアルはシャボンが珍しいのか、不思議そうに、泡を見つめていた。

全身をくまなく洗いながら、傷や病気がないか調べた。 
傷はなく、子供特有の柔らかい肌だ。
やっと少年になったくらいの未熟な生殖器。
「剥けてもいないな」
アスランが何気に、先を擦った。
びくりとノアルが身動ぎした。
「ひぃ?止めて」
ノアルが怯えた。
何かむず痒い感覚がしたのだ。
「なんだ?・・・・お前、本当に精通もないのか?」
きょとんと途方に呉れたように、ノアルが見上げた。
笑う男の顔に、ノアルは無意識に怯えた。
その顔に、アスランの嗜虐心が跳ね上がる。
「そうか、そうか。神様は汚い俗世は知らないものな」
にやあと笑いながら、足首を持った。
「俺が教えてやる」

「や、やめてっ!」
ノアルが悲鳴をあげたが、泡でアスランは未熟なノアルの中心を握ると優しくしごきだした。
アスランの手の中で、少しずつ形が変わってく。
「あああ」
訳が分からないのか、ノアルが悲鳴をあげ、逃げようと腰を浮かす。
先端が熱い。
めりめりとした裂ける痛みと訳のわからない熱量がある。

「逃げるな。剥いてやってるんだ。暴れると引きちぎるぞ」
そう言ってきつく握りしめる。
「・・・・・・っ」
男の知らない顔がそこにあった。
ああ、自分は言うとおりにしないといけないのだ。 
絶望だった。
ノアルが大人しくなり、はらはらと涙を流した。その顔を見て、アスランはぞくぞくとした。
真っ白な雪を踏み散らかす高揚感。
俺好みの身体にしてやろう。
外で女を抱いてきた筈なのに、ノアルの背中にびちりと、アスランの肉棒が張り付いていた。

「俺も鬼じゃないからな。ちゃんといかせてやってから、抱いてやる」
アスランの腕の中で、ノアルが震えている。
「い・・・・?な、に?・・・・?」
「考えるな。気持ちいいだろう?」
「ひ・・・・?気持・・・・・・?」
自分の体温を感じさせながら、優しく泡で擦り上げると呆気なく、ノアルは達した。
悲鳴にも似た声をあげ、本能的に切なげに腰をアスランの指に擦り付けた。
「ひっ・・・・・っ」
本当に初めてだったのか、ノアルは自分の身体の異常に怖がって泣き出した。
「おい、何で泣く?ありがとうございます、だろう?」
「ひあ、ありがとう、ございま・・・・やあっ?」
ずるりと、ノアルの尻に指が入った。
中を探りながら、アスランが暴れようとするノアルを押さえつける。
「身体は人間と同じか。人の姿に落とされたとは本当なんだな」
「何を、して・・・・・っ!?」
「奴隷だろ?男はここで、ご主人様を喜ばせるんだ。俺は優しいからな」
「喜ばせ、る?」
「今から、〝これ〟を〝ここ〟にいれるんだ」
よく分かっていないノアルに、手を持っていき握らせた。
「ひっ」
ノアルが怯えた顔で、アスランの顔を見上げた。
「む、り、です・・・・・」
「無理じゃない。いれるんだ」
もう一度、アスランは言った。
ノアルが逃げ出そうとしたが、押さえつけられ、指を二本に増やされた。
泣き叫んで嫌がるノアルの口にタオルを押し込み、ゆるゆると指を抜き差しした。
「・・・・きついな。裂けてしまうが、すぐ治るのだろう?本当にいい奴隷だ」
ノアルが猿轡の喉奥で呻き声をあげた。
ぼろぼろと涙を流すノアルに、うっすら笑う。

アスランには元々、強い嗜虐心があった。
夜抜け出して、街で発散していたが、勇者の称号を得たお陰で、周りは聖人君子としか許さないし、認めてくれない。

初めての人間を本気で抱いたら、すぐ壊れてしまう。
でも、〝これ〟はヒトの形をした別の器だ。どんなに酷く扱っても、浄化の名の元に全てが許される。

白神女神は、私が黒神をこんな目に合わせるとわかっていたのだろうか?
いや、きっと分かっていた。
女神は自分に、『何をしてもいい』と言ったのだ。
肉棒に潤滑剤を滴ながら、まるで童貞の男の様に、アスランは急いていた。
ぴたりと尻に男根を当て、逃げる身体を押さえながら、ゆっくりと埋め込んでいった。
入れると同時に、がくがくと、ノアルは痙攣しているようだった。
猿ぐつわのせいで、声出せず、過呼吸のように暴れている。
「き、ついな」
抵抗する肉壁を無理に抉じ開けているせいか、強くアスランを締め付ける。
「ううううっ!!」
ぶちぶちとノアルの中で、何かが切れた音がした。
ノアルは絶叫しているようだったが、白眼を剥いて、何回もがくがくと痙攣すると、気絶した。
アスランは、弛緩した肉壁に薄ら笑いを浮かべ、奥深くに埋め込んだ。
ノアルの口に詰め込んだタオルを外してやりながら、アスランはがむしゃらに腰を動かしていた。

アスランは酷く興奮していた。
泡を吹き、気絶を繰り返すノアルの中を何度も抜き差しした。
『欲を増幅させる』とは、こういうことか。
頭の隅で、冷静なアスランが分析している。
それでも、抜けるような快感にアスランは抗えなかった。
人形のように無抵抗の少年の身体を、アスランは壊れた機械のように、犯しつづけた。
ノアルの太ももには、白濁した液体と赤い液体が、流れ落ちた。


ノアルの意識が戻ったのは、全てが終わって、汚れた身体を洗われ、アスランに後ろから抱き抱えられ、一緒に湯船に浸かっている時だった。
「あ・・・・・・」
「起きたか?奴隷のくせに、主人の手を焼かせるとはどういうことだ?今度から、尻は俺がいつでも入れれる様に準備しておけ」
「はい、申し訳、ありませ・・・・・」


身体中が痛い。
痛みで泣きそうになる。
痛めつけられたのもあるのだが、アスランに触られると、びりびりとその部分が痛いのだ。
ずっと〝暗きもの〟の器に成っていたせいか、対極にある白神の加護を持つアスランの肉体に拒絶反応がある。
アスランもそれが分かっているのか、わざと身体を密着させる。

ノアルは意識を混濁させる。
「お前は、俺の性欲処理だ」
「は、い・・・・・」
虚ろなノアルの頭に刻み込ませるように、ゆっくりとアスランは呟いた。



アスランの奴隷になったノアルは、よく身をわきまえていた。
床下が居場所と思っているのか、毛布一つで過ごしている。
アスランが部屋にいる時は、部屋の隅で呼ばれる迄まっている。
部屋に居ないときは、見よう見まねで覚えた掃除をしている。
食事はいらないと言われたが、一緒に食事は取るようにした。
便利な子犬のようだとアスランは思った。

それに、一緒にいるだけでノアルを浄化するらしく自分の徳が積まれるのだ。
抱けば抱くほど、ノアルは白神女神の加護に触れ、早く浄化するようだ。
触られて痛がる姿も、アスランの欲求を満たした。
毎晩、抱いているせいか、数週間もすると、斑の髪の黒が、少し抜けてきた。

それに、ノアルは、自分の中の嗜虐心を、思う存分叩きつけられた。
『欲を増幅させる』
昼間に外でどんなに腰を振っても、ノアルに対して性欲が衰えることはなかった。
ノアルは、どんなにひどく扱っても、壊れない。
痛みは人並みにあるようだが、次の日には傷は治っている。
いつでも好きなときに抱けるのは、とても都合がいい。

「お前は、私の奴隷だからな」
そう言って何度も、中で出した。
身体の芯にびりびりと痛みが広がるのか、泣き叫んで嫌がるノアルを、何度も凌辱した。




黒神はずっと1人だった。
黒神は、アスランに『ノアル』と呼ばれる事をとても嬉しく思った。
黒神は産まれた時から黒神で、記憶は全部失くなってしまったけれど、話かけられることも敬われることもなく、ただの〝モノ〟だった。

妹神は、皆から愛されて、私はとても嬉しい。

妹神の身代わりで、闇の器に成ったことは、ノアルの記憶の中ではすでに消えてしまっていたが、ただただ、妹が愛されていることが嬉しかった。

器の役目さえ失くなってしまった自分は、消えていくだけだ。
姿も醜くなって、なんの価値もなくなった。
でも、アスランは私に『ノアル』と名前を付けてくれた。
嬉しい。
『私』を見てくれる。
アスランの奴隷になるのだという。
嬉しい。
側に人がいるのは、とても幸せ。




・・・・・・
勇者の称号を持った者は、聖戦士と神父以外にもう一つ仕事がある。
国の美姫と勇者の血が入った子供を成すために、抱くのだ。
数人懐妊したと聞いたが、多ければ多いほどいいのだろう。
この行為は、二十代後半まで続けられる。

明らかに種馬としての扱いだった。
性欲は強い方だが、義務として抱くのは辟易する。

アスランは、秀麗な顔立ちをしていて背も高く、神父としての職業のおかげで優しげにみえるのか、他の勇者達よりも指名が多かった。

相手の姫君やご令嬢に、自分の性癖を晒すわけにもいかず、ただ腰を振って中に出すだけの作業だ。
だだ、近頃は女を抱く時にノアルを思い出すようになった。
すがるノアルの顔を重ね、腰を振る。
何故か、ただの腰を振る作業も苦ではなくなった。




・・・・・・
ノアルがアスランの元に来て、半年がたった。

ノアルは、相変わらず従順で、自分の言うことを何でも聞いてくる。
髪もだいぶ黒が取れてきた。
くすんだ金髪だ。
アスランは、ノアルの青い瞳が好きだ。
姿は白神女神と似ても似つかないが、眼差しだけは似ている気がする。
深い青はとても綺麗だ。
苦痛に揺れる眼差しは、ゾクゾクする。


「お前、俺の子供が欲しいか?」
「?」
股間から顔をあげ、ノアルがきょとんと見上げた。
小さな口で、一生懸命舐めていた。
その頭を、アスランは優しく撫でた。

口でいかせたら、抱かないという嘘をずっと信じているのだ。
外から帰ったまま洗っていない肉棒を、噎せながら、ノアルは椅子の間から顔を出し、拙い舌技で舐めている。
袋も舐めろと前に言った事を覚えているのか、小さな口で咥える姿は苦しそうだ。
従順な様子は、とても可愛い。

ノアルは、人を知らないせいか、アスランが酷い事をしても、とても懐いている。

たまに来る下位の、自分の身の回りを従事する神父達には恐がって、クローゼットの奥に隠れていた。
前に、そのうちの1人に悪戯されたせいだろう。
上司の奴隷に、勝手に触ろうとするなんて、教会の体制も落ちぶれてきたなと思う。
もちろん、そいつは排除したが。

私の許可なしに、私の奴隷に勝手に触るなんてあり得ないだろう。
ノアルは、白神女神から賜った、何でもしていい私の奴隷なんだぞ。

ノアルは、初めて見たものを親と思う雛みたいなものかもしれない。
アスランは、ノアルが奴隷であっても、従順で懐かれるのは悪い気はしなかった。
アスランは酷い人間ではあったが、悪人ではない。
こんな従順で、自分好みになる小さな生き物が、子供を産めるなら、産ませたいと思った。
知らない女どもに、媚びて腰を振るのに嫌気が差していた。

「ご主人様、私は男なので子供を産めません」
言葉の真意を計りかね、ノアルは不思議そうに見ている。
「神様は産まないのか?」
「・・・・私は、一人だったので、わかりません。でも、男同士では、子供は産まれないと聞いています」
「そうだな。お前、女になったりできるのか?」
「分かりません」
「そうか、そうだな。お前が女なら、孕ませて産ませるのにな。今度、白神女神にお願いして、女に替えてもらうか」
「黒神の子供は、誰も欲しがりません?」
忌み子だ。
その言葉に笑う。
「俺の子供は皆欲しいんだよ。俺は種馬だから、国王の娘やら貴族、豪族の娘と寝て、子供を作るんだ。知らん女に腰を振るのは飽きた。勇者じゃなければ、普通に外に出て仕事して、飯を食ってぶらつけるのにな。お前も、黒神に成らなかったら、普通の生活したいだろ?」
「・・・・外に出たことはないから、わかりません」
困ったようにノアルは呟いた。
「ふん、つまらんな。あいつらは、俺ではなくて、勇者の血が欲しいだけだから、もっとつまらん」
アスランは少し拗ねたように呟いた。
こんなことは、ノアルの前でしか言わない。

「・・・・・私は、他の人を知らないけれど、ご主人様はとても強くて、いい男だと思います」
「・・・・・ふん、おべっかを使うようになったか?」
アスランはノアルを抱き上げると、服を剥ぎ、そのまま腰に、大きくなった肉棒を埋め込んだ。
「ううう」
ずぶずぶと埋まっていく感覚に、呻きながら、ノアルが反り返る。
床に押し付けられたが、ノアルはアスランが入れやすいように、足を開いた。
スムーズに入っていく肉棒に、アスランが目を細める。
内壁がぬるりとして、アスランを締め付けた。
「よしよし、ちゃんと濡らしているな。こうやって、いつでも入れれるように準備しておけよ」
「は・・い、わかり、ましたっ」
ずんっと奥にまで、腰を打ち付ける。
向かい合わせだったノアルの身体が、白魚の様に跳ねた。
「あ、うっ!!」
「ほら、ちゃんと奥を締めろ。教えてやっただろう?ここに力を込めろ」
ぱんと軽く尻を叩くと、きゅうと肉棒をきつく包み込んだ。
「は・・・・いっ。もうし、訳、ありま・・・・・・」
「いい子だ」
毎晩抱き潰していたせいか、ノアルの身体はアスランの肉棒を、内壁を傷つけることなく受け入れるようになった。
快感にも直結しだしたのか、ぎこちなく見悶えるようになった。
小刻みに動かしてやると、ぐにぐにと内壁がアスランを包み込んだ。
前立腺の裏側を擦りあげると、ノアルの青い瞳が揺れる。
「だ、め、・・・・許し、・・・・」
小さかったノアルの中心が、ぴんっと張ってくる。
身体の芯の痛みより、快感が勝りだした。
身体がアスランによって作り替えられたのが怖いのか、ノアルはいつも、いきそうになると泣き出す。はにかむように恥ずかしがる姿は、アスランの心を揺り動かす。
自分好みの身体に成ってきて、アスランはにやにやしていた。

「奴隷の癖に、主人に文句か?」
胸の突起もかりかりと弾くと、一層締め付ける。
ごりごりと前立腺を内壁から、強くすり付けると、ノアルはがたがたと震えた。
「や、ちがっ・・・・・いやあああっ」
一瞬、気をやったのか、ノアルの瞳が虚ろになる。
胸板に震える手を置き、はあはあと息を吐く。
ぽたぽたと白濁した液が、アスランの腹に跳ね落ちた。
「おい、奴隷が先に行くな」
肉棒を締め付ける感覚に目を細めながら、アスランがゆっくりと抜く。
「申し訳、ありま・・・・」
アスランが胡座をかいた。
「お仕置きだ」
両太ももを持ちあげ、そのまま自分の腰に落とした。
何回も何回も落とす。
「ひゃっ!ひっ!っ!ひっ!」
衝撃にノアルの身体が跳ねる。
ノアルが泣き叫び、逃げようとしたが、そのまま頭を押さえつけると、激しく腰を降り続けた。
「あああああああああっ!!」
「可愛い奴め。ずっと可愛がってやるからな」
ノアルが解放されたのは、ありとあらゆる体液を出しまくり、泡を吹いて、気を失った後だった。


・・・・・・
近頃、ご主人様はとても優しい。
性欲処理で動けなくなった自分を、お風呂に入れてくれて、閨で添い寝してくれる。

ベッドの中で、アスランの胸板にすがり付くように、ノアルは寄り添っていた。
もうすっかり夜になってしまった。

本当は、床下が寝床なのだが、動けない。
いつも、ご主人より先に起きようとして、いつも失敗してしまう。
早朝のご主人様の高ぶりを、身体で静めて、起き上がれるのは昼前だ。
簡単な朝ごはんも作れるようになったのに、いつもご主人様は、部屋を出ていってしまっている。
外に出て、何かお手伝いしようとしたが、ご主人様と同じ格好をした人達が沢山居て、怖くて出れなかった。

「身体は、痛くないのか?」
ぺたりと薄い胸を触られた。
ノアルはこくりと頷く。
「痛くありません。温かくて気持ちいいです」
ご主人様の、緑色の瞳が僅かに揺れる。

ノアルはアスランの瞳が好きだった。
自信に溢れていて、とても綺麗。
「ふん、〝暗きもの〟のカスが抜けてきたか。髪も黒が抜けたな」
「はい。ご主人様のお掛けです」
「ふふ、私の徳も増えたな」
アスランは近頃、ご機嫌なようだ。

ご主人様が嬉しいと、私も嬉しい。
「ご主人様が、望むものはなんですか?」
閨の中で、ぐったりとしている自分に、優しく頭を撫でてくれる。
優しい素敵なご主人様。
「決まってるだろ。名声と金だな。名声はもうあるから、金かな。金はいくらあってもいい」
「そうなのですね」
「ふん、俗物と思っているのだろう。神父でも金は欲しいんだ。何も考えていない黒神様は、人間の俗物なんて分からないか」
「はい。私は、よくわかりません。でも、ご主人様が、お金が欲しい事はわかりました」
「奴隷の癖に生意気だな。俺が飽きたら、身体でも売って、金を持ってくるんだぞ?」
ノアルはこくこくと頷いた。
「はい、わかりました」




・・・・・・
晴天だった。
朝起きると、ノアルの銀の首輪が外れていた。
「ご主人様っ、首輪がありませんっ!?」
慌てて、アスランに駆け寄ると、銀の腕輪をはめられた。
「今日は、外に行く」
短くアスランは答えた。
腕輪に彫られたユリと剣は、アスランが使っている紋章だった。
「ご主人様と同じ柄です」
嬉しそうに、左手の腕輪をかざした。
「奴隷首輪は目立つからな。俺から離れると、手首が千切れるぞ?絶対にはぐれるな」
「はい、ご主人様」
くすんだ金髪が揺れる。
少し艶も出できてるようだが、白神女神の美しい黄金の髪とは似ても似つかないなと改めて思った。
少し肉ついたが、まだ子供だ。
残念な黒神だ。
「服を買いに行くぞ」

従順なノアルにご褒美だ。
よく働くし、従順だし、具合もいい。
顔もまあ、気に入っている。
街で、ましな服を着せたら、少しは見れるようになった。
初めて、街中を歩いて、ノアルはくるくると表情が変わる。
ちょっと綺麗な風景を見せたら、感動している。

「ご主人様、とても綺麗です」
そうかと答えると、ぶんぶんと頭を縦に振って頷いた。

屋台の甘い揚げ菓子を食べ、串焼きを食べた。
時間になると優美な妖精たちが踊る中央のからくり時計を、口を開けたまま見ていた。
「口を開けたままは、ごみが入るぞ」
言うと、ノアルは花のように微笑んだ。

ありがとうございますと、はにかんだように俯きお礼を言った。
アスランは、何故かぼんやりとノアルを見ることしかできなかった。


姫を抱く仕事が終わったら、ノアルを連れて知らない土地に行こう。
白神女神にお願いして、国外でもいいな。
布教活動として、遠征に加わろうか。
僻地で、しばらく、ゆっくりしたい。
ノアルも、もっと外に連れていってやろう。
私の奴隷なんだ。
可愛いだろう。私のなんだ。

ノアルは無邪気に笑っている。



・・・・・・
「で、1日デートしたの?いいわね、青春を謳歌している人は。私なんて、また男に逃げられたのに!」
教会の近くの食堂で、聖女と呼ばれる同僚は、男らしく大きなジョッキを一気飲みした。
昨日、狙っていた男に振られたらしい。
清楚で美しい銀の髪が聖女として際立たせているが、昼間から酒を浴びてる姿はおっさんそのものだ。
ラウラは中身と外が釣り合って居ないとよく言われるが、その気取らない性格を好む男性も多い。
勇者の1人だ。国の有力者の嫁にと、引く手あまただ。
ただ、彼女自身が、細身の純情な少年が好きなだけだ。
だから、アスランの家で生活しているノアルを見せていない。
最初に見られていなかったのは、良かったと思う。
「お前が強すぎるからだろう。猫被り過ぎだ。デートではない。あいつが外を見たことがないと言ったから、見せてやっただけだ」
やさぐれて酒を飲むラウラの前で、魚のスープを飲んだ。

ラウラは、アスランが黒神を、白神女神から奴隷として、承った事を知っている。
アスランの聖人君子然とした顔の裏に、強い嗜虐心を持っていることも知っている。
だから、黒神といわれた子供の処遇を心配していたのだ。
真っ青な瞳の恋人は、黒神の事だろう。
青い目の人間は、稀だ。
アスランの噂を聞く限り、黒神と良好な状態を保っているようで、安心した。

「ふーん。服を買ってあげて、見晴らしのいい場所で料理を一緒に食べて、街中を恋人繋ぎで歩き回って、夜はしっぽりしけ込んだ癖に」
細目で、羨ましいと、アスランは言われた。
「おい、何で、内容を知っている?」
明らかにオフで、目立つ格好はしていないはずだ。
「噂になってたわよ。聖戦士の勇者様が、知らない恋人とデートしてたって」
「・・・・・デートではない」
ただの奴隷だ。
少し、言い澱んだ。
「そ。まあ、いいけど。大分、〝暗きもの〟が抜けたみたいね。相手の子、白神女神みたいな青い目で綺麗な金髪だって、皆言っていたわよ。やっぱり、勇者様は女神みたいな人を恋人にするのねって」
盛りすぎだろうと、アスランが笑う。
「綺麗な金髪?くすんだ金髪だろう。あいつの髪の斑の黒は、ほぼなくなったがな」
「何言ってるの?元々、金髪だったじゃない。少し、くすんでいたけど」
ラウラが見た、崩れた神殿で、アスランに抱かれて移動しているときに、布の隙間からこぼれた黒神の長い髪は汚れていたが、くすんだ金髪だった。
〝ああ、白神女神の兄神だから、髪の色も同じなのね。でも、汚れを受けているせいでくすんでいる〟
と思ったのを覚えていたのだ。
「綺麗な髪に戻るなんて、白神女神のご加護があったのね」
「・・・・・・」
胸騒ぎがした。
確かに、黒の斑髪だった。
自分だけに、見えていた?
何が?
もやもやしたまま、アスランは同僚の話を聞いていた。




・・・・・・
それは突然、だった。
貴族の娘との逢瀬が終わり、家の扉を開けた時、アスランは異変に気付いた。

部屋は物音一つしなかった。

「・・・・ノアル?」
寝室に向かった。
シーツは綺麗に整えられていた。
それを剥いだが何も居なかった。
しん、と静寂だった。
「・・・・何処にいる?かくれんぼ、か?」
わざとおどけて言ってみた。
ベッドの下にも、クローゼットにも居なかった。
風呂場を開けても、いない。
「ノアル?出でこいっ」
焦ったように、クローゼットをひっくり返した。
ふと、アスランは気付いた。
テーブルに、奴隷の首輪と腕輪が置かれている。
「え、あ?そんな?まさか・・・・・」
アスランはそれを持つと、神殿に向かった。
これは付けた本人と白神女神にしか外せないはずだった。



神殿の奥に押し入るようにアスランは、神殿の扉を開けた。
煌々と明るい広間は、一瞬暗くなり、そして激しい光の束が中央に集まってくる。
人の形をとる前に、アスランはすがるように叫んだ。
「あいつが居ないんだっ!」
不敬であったが、構わず叫んだ。
『あいつ、とは?』
形付いた白神女神は、アスランの前に立つ。
きょとんと白神女神は不思議そうに、見つめ返した。 
「黒神だっ!黒神が居なくなったっ!何処に行ったんだっ!」

『おかしな事。勇者アスランよ、貴方は望んだではありませんか?』
望んだ?何を?
「何を・・・・」
『富と名声を。沢山のお金が欲しいと、黒神に願ったでしょう』
黒神は、欲と死を司る。
「何を言って・・・・・」
そして、はたとノアルと話した内容を思い出した。

〝ご主人様が、望むものはなんですか?〟

「い、や、そんな。あれは言葉のあやだ。黒神は?体現出来る力もないはずだ。黒神は何処に行ったの、ですか?」
神格は失くなったはず。もしかして、金を作る為に、身体を売りに行っていたのか?
ひゅっと喉がすくむ感じがした。

私のノアルなのに、馬鹿な話を真に受けて、身体を売りに行ったのかもしれない。
私に歯向かうなら、首輪は喉を押し潰すが、『私の為に』身体を売るのなら何も起こらない。身体を売った相手が、私より具合が良くて付いていってしまった?

青くなったり白くなったりしているアスランの顔を見ながら、コロコロと花のように女神は笑った。
『曲がり間違っても、私の兄神。身体を無下にすることはない』
「では、何処に・・・・・」


『黒神の御祓は終わり』
「御祓?」
『貴方が側にいてくれたおかげで、黒神の中に燻っていた暗き物は浄化された』
「浄化?」
白神女神は、少女のような悪戯っ子のような声音になった。
『黒神の中に、精を注いだでしょう?貴方は神父で聖騎士。肌を合わせるだけで、中に残っていた暗き物は、浄化されてしまう。それはとても黒神にとってはきついこと。でも、貴方は片時も黒神を離さなかった。黒神は、本当に、力がない、ただの器』
「ま、まだっ、まだ全然、貴方みたいに神格化していないっ」
自分以外にはわからない、くすんだ金髪が、何よりの証拠だ。
『・・・・・人の世に混ざるのに、神になっても仕方がないでしょう』
言われて、ポカンと光を見つめ返した。
「人の世?」
『黒神は、記憶を失い、成長し、老いて死ぬ、人として生きます』
呆然と聞いていた。
「記憶、失くす・・・・・・」
自分のノアルでは、失くなる?
『もう黒神はいないのですから、記憶があっても仕方がないでしょう?』
まるで、だだっ子の子供に言い聞かせるような声音だった。
「黒神は、私の奴隷だと言ったではないですか!何をしてもいいとっ」
ずっと側にいると、ノアルも言っていた。
『〝黒神〟は、です。御祓が終わった力を失くした非力な子供は、〝黒神〟ではありません。貴方に、加護と幸いを。これは、黒神だった少年から』
目の前にざらざらと大量の金貨と宝石が落ちてきた。
『貴方に感謝の言葉しか、述べていませんでした。奴隷の身だけれど、とても良くして頂いたと』
「あ、ああああああああっ!」
絶叫したが、誰も答えてくれなかった。


 
アスランは、脱け殻のようにテーブルに置かれた金貨と宝石の山を見ていた。
キラキラと乱反射している。
『ご主人様?』
ノアルに呼ばれた気がして、びくりとアスランはみじろいだ。
幻聴だった。
ペタペタと歩きながら近付いてるノアルが、すでに脳内に再生されている。
ぼうとしながら、椅子に座ったまま虚空を見つめた。
「ノアル・・・・・・」
綺麗な泉のように青い瞳は、いつも潤んで自分を見ていた。
『ご主人、様、苦し・・・・・・』
組みし抱かれるノアルはいつも苦しそうに見上げていた。

違う。
違う違う違う。
もっと優しくしたかったんだ。
もっと優しく触りたかったんだ。
もっと優しく囁きたかったんだ。
ああ・・・・・、今なら、ずっと横において、甘やかして、閉じ込めるのに。

私の可愛い黒神が勝手に、出ていってしまった。
人になるなんて、聞いていない。
人になったから、黒神ではなくなるなんて。
黒神は黒神だ。
私の黒神なのに。


捕まえないと。
私を忘れてしまうなんて。
捕まえて、ちゃんと、ご主人様は自分だと、教えてあげないと。

人になりたかったのか?
私ではものたりなかったのか?
そうだ。
私がちゃんと人の理を教えてあげないと。

黒神は、私の奴隷だから、ちゃんと管理しないと。
忘れてしまったなら、思い出させればいい。
子供が欲しいなら、私が用意してあげよう。
番も用意して、一緒に暮らせばいい。


アスランは、にやあと虚ろに微笑んだ。





勇者たちが大きな禍を放つ魔物を倒して、数年後。
近隣の国々は、小さな瘴気はでるものの平穏な日常が続いていた。
国同士の紛争は、協定により激減し、変わりに国交間の商業が発達した。
勇者を多く輩出した中央教会は、着々と信者を増やし、僻地まで布教の波がやって来た。


深い森の中、1人の神父が布教活動の一貫として、僻地に赴任するために、馬車に揺られている。
眉目秀麗なその姿は、神々しくも見え、御者は彼を乗せ、教会に案内する事は誇りだった。
神父は、窓から外を見るが、その瞳は何の色も映していない。
ふと、道の脇奥に少年が踞っているのが見えた。
その姿に気付き、馬車の中から御者に停まるように声をかける。

「もし?何か気分が悪いのかい?」
近付いて、手に草が握られて、無心でむしっていたので、違うと思ったが一応声をかけた。
髪を無造作に束ねた後ろ姿。麻のシャツとズボンは、平民の一般的な服装だ。

「違いますっ!すいません、山菜を取ってましたっ」
あわてて少年が振り返り立ち上がった。

綺麗な金髪に、真っ青な瞳をしている。
かわいらしい丸みのある頬、長い睫毛のした大きな瞳が煌めいている。
女の子と思ったが、薄い胸と朝のシャツとズボンだから、少年だろう。
田舎の子供にしては、とても毛色がいい。
首や腰に、教会の護符や手作りの魔物避けの鈴が沢山ついている。
よほど可愛がられているのだろう。
少年は、汚れた指先を後ろのシャツで拭きながら、見上げた。
「間違わせてしまって、ごめんなさい」
純朴な様子に、神父は微笑んだ。
「そう、良かった。街は、こちらの方向でいいかい?」
「はい。新しい神父様ですか?」

心配してくれた長身の青年は、街の神父様が着ている立襟の祭服によく似ていたが、紺色ではなく、白と青でとてもきらびやかだ。
彫りの深い、すっと通った鼻筋、優しげな眼差しでこちらを見ている。身体もしっかりしていて、凄く格好いい。
今まで、年寄りの神父様しか見たことがなかった。こんな若い神父様、初めて見た。
都会の神父様だろうか?
穏やかな瞳はとても優しそう。
それに、花のとってもいい匂いがする。

「ええ、こちらの町に赴任してきました。供は後から来る予定ですが、先に来て迷ってしまって」
後ろを見ると、馬車と御者が待っている。
中央教会の紋章が、馬車には飾ってあった。
「では、僕が神父様、町の教会にご案内します」

「君は、ここの子供?」
「はい。今は町の外れに住んでいるけど、前は教会に住んでいたんですよ」
「何故、こんなところに?」
馬車で行っても、結構な距離だろう。
街の片鱗は見えない。
「教会の近くの料理店のお手伝いをしてるんです。とても美味しい野草だから、採りに来ていました。神父様も食べに来て下さいね」
「ああ、必ず行くよ」
「前を走って行きますから、馬車で付いてきてくださいね」
「・・・・・御者に話して、一緒に馬車に乗って行けばいい。私も1人で中にいるのは寂しかったんだ」
「え、でも」
神父は優しげに微笑んだ。
「子供が、こんなところに居ては、危ないですよ。窓から見て、道を間違っていたら教えて欲しい。あまり、馬車なんて乗ったことないだろう?」
「・・・・・・は、はい」
少し恥ずかしそうに、好奇心の色も瞳に滲ませ、少年は頷いた。


「神父様、この馬車、とても上等ですね。すごく揺れが少なくて、ふかふかです」
集合馬車以外の馬車に初めて乗ったのか、とてもはしゃいでいる。
神父は目を細めた。
「そうだろう。教会に住んでいたのなら、案内もして欲しい」
「はい、神父様」
「名前はなんと言う?」
「トウカです」
「トウカ、よい名前だ」
「はい。教会の聖女様がつけてくれたのですよ」
「教会の養い子なのか?」
「はい。教会の前に倒れていたそうです。記憶を失くしていて。神父様たちには、とてもよくしてもらいました。早く独り立ちして、教会に恩返しがしたいです」
「そうか、私の名前はアスラン・シュナーダだ。これから、宜しく頼みます」
「はい。シュナーダ神父様」

『はい、ご主人様』
くすんだ金髪が神父の目に映る。
真っ青な瞳は変わらない。
今度は、私の名前を呼んでくれるはずだ。

神父は、少し笑うとトウカを膝の上に乗せた。
「神父様?」
「馬車は揺れるから、私の膝の上に乗っていなさい」
ぎゅうと抱き締めた。
「神父様?」

見ツケタ。
モウ、絶対、離サナイ。

 アスランの心は、歓喜で溢れていた。




教会の最奥部、神殿の中、聖女ラウラは御光に尋ねた。
「どうして〝彼〟だったのでしょう?」
ラウラは、白神女神を見たことはない。ただ、光の束にしか見えない。
アスランは、神は少女神だと、事も無げに言っていた。
アスランが、周りを振り切り、1人巡業を始めて数年が立つ。
行く先々で、説法をし、信仰者を増やし、教会を潤している。が、
『黒神は何が欲しかった?』
問いかけに問いかけで、返される。
「・・・・信仰、ですか?」
『違う。黒神は、ただ〝人〟の側に寄り添いたかった』
「だから、アスランが選ばれた?」
『黒神はずっと1人だった』

『黒神の力が尽きることは、ずっと前から分かっていた。黒神は望んでいた』
「何をでしょう?」
『ずっと、側にいてくれる強い人間。死なない人間。だから、強くて狡猾で執着の強い子供を選んだ』
「〝あれ〟は、異常です」
勇者という名声をけった同僚を思う。
独自の派閥を作り出してきている。
廻った教会に、独自の彼自身の信奉者を置いているようだ。
反旗を翻したら、教会本部も只ではすまないだろう。
『アスランは私を裏切らない』
「・・・・・・」
『黒神は逃れられない。だから、寂しくない』
「・・・・・・」
ああ、我々と女神とは考え方の、尺度が違うのだ。でも、白神女神様、黒神は人になったのですよ?
ラウラは思う。
白神女神は、とても楽しげに輝いている。

あの男に追いかけられるなんて、人だったから辛すぎるでしょう。
そう思い、ラウラは光の消えた神殿の中で、1人顔をしかめた。



馬車はゆっくりと街に向かっている。
「神父様?ご気分が悪いのですか?」
微動だにせず、抱き締めるアスランに、トウカは不安そうな声を出す。
「・・・・そうかも知れない。旅疲れがあるかも」
「だ、大丈夫ですかっ?」
「ああ、こうしていたら、楽になる」
「教会に着いたら、お医者様をお呼びしますね」
可愛い。
このまま、既成事実を作ってしまおうか。
ああ、駄目だ。人の目がある。
もう、黒神は人の子で、奴隷ではない。
いっそうのこと、奴隷にしてしまおうか。
そうだ。罪をでっち上げて、教会に従属させよう。
窃盗罪なら、両手両足を切ることもできる。

トウカ
いい名前だ。
もしも、名付け親の聖女が若い奴だったら、追放しよう。
こんな辺鄙な教会では、若い神父はいないだろうけど。
色目を使う人間は、全部潰してしまわなきゃ。
トウカは、私がずっと横にいるのだから。

先に足を潰してしまおうか。
腱だけを斬るのは慣れている。

「神父様?暖かいですか?」
「ああ、大分、気分がいい」
ああ駄目だ。嫌われたら、駄目だ。
また、あの蜜月のような甘い生活を送るのだ。
腕の中の黒神は、とても可愛い。
私のだ。
やっと見つけた。
もう、絶対逃がさない。

アスランはどろりとした瞳で、幸せそうに微笑んだ。
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