解放

かひけつ

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第1章 ■てくれ

既視感

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☆side??
夢から覚めた。内容は覚えていないが、心地よいものだった気がする。そう思いながら目を開けると、見知らぬ部屋だった。既視感があるようなないような…。ベッドに寝ていたようだ。部屋には、ほかに目ぼしいものはあまりない。

 どことなく息が詰まる。

自分の体を見ると、病院の患者さんが着るような服でその隙間からは10歳程だろうか、幼く、貧弱そうな身体が目に入った。

 「えっとこの服の名前は……確か」

そこまで言って気が付く、この服の名称だけでなく、何故ここにいるのかも、自分の名前も、

 「思いだせない……」

頭が真っ白になる。頭を抱える。思考の渦と違和感、それらが産む恐怖感に支配されそうになって、うずくまった。

 「その服の名前は病衣だよ」

混乱する僕に声が降りかかる。恐る恐る見上げると、正面の窓のようなガラスの奥に人がいた。サングラスをしていて表情は読めない。

 「君の状況では、検査衣・・・と言った方が正しいのかもね……」

ボクはその人に縋るように、

 「ここから出して下さい、お願いします」

そう言いながら、頭を下げた。話が通じることを信じて……。しかし、それに対する返答は返ってこなかった。



初めてここに来てから1週間が経った。結局、自分の名前も正体も分からずじまい。毎日同じような日々だった。IQテストをやった。文章を読むのが遅く、あまり頭の回転が速くなかった。でも、頭が悪いとは思わない。冷静に、丁寧に、考えればそれなりには考えられる。

 身体の精密検査・・・・をされた。

虚弱体質以外特にはないらしい。医者たちは笑みを浮かべていた。

 どこか卑しい、下品さを孕んだものだった。

軽い運動もした。ランニングや武道、マット運動もした。虚弱体質のせいであまり走れず、すぐ息が上がった。武道は話にならないほど弱かった。

 それはいい。が、反応が気に食わない。

こっちがどれくらい動けるかを分厚いガラス越しに眺めるだけ。武道と言っても鍛えるわけでもなく、どれくらい対応できるか、言わば、反抗された時にどれくらいの力を有しているかを量られているようなものだ。気分が良いわけがない。

 分析を続けよう。

マットとは相性がよく。体が柔らかかった。だが、歳相応のものにすぎず、特質として取り上げるものでもない。1日3食。質素すぎず、それでいて、本格的とも言えない。ここ料理の一番の特徴は独特なソース・・・・・・だった。

 美味しいとは思わなかった。

でも、嫌いになれない料理で、栄養バランスは良さそうだった。少なくとも、施設ここの日常ではこの時間が一番幸せだった。まぁそんなご飯も少し多いから残してしまうのは自分が少食だからだろう。

 大した自由時間などなく、今に至る。

睡眠時間は8時間しっかりとらされた。少しばかりショートスリーパー気質があるようで、目が覚めたりもしたが、グラさんにバレて寝かされた。目を瞑って寝たふりをしていた。今がまさにそうなのだ。

 「起きてるだろ…?」

 「……」

ボクの担当が、見回りに来た。サングラスの男の人をグラさんというあだ名にしている。本人に言うと微妙な顔をされるのだが、気に入っている。

 「…緊張とか不安とかで張り詰めるのも分かる……」

 「……」

どうやら心拍数とか脳波とかで検知したのだろう。形容し難い不安のような感情が突沸のように肥大化することがあるから感情は厄介だ。

 「ちゃんと…寝てくれよ…。もしかしたら…」

『もしかしたら…』という言葉にゾクリと神経を尖らせる。極力感情は抑える。グラさんはしまったみたいな言葉の詰まらせ方をする。

 「……とにかく早く寝るんだ。寝不足で危ない目に合うかもしれない…!寝ろ寝ろ!」

 「……」

返事はせずに寝る体勢を変える。グラさんは退室してくれる。グラさんあの人は割と顔にでるのだ。初めて会った時はそこまで見る余裕がなかったけど、甘い人だ。だから…悪意はない。けど、これから何かある。



布団の中で、1週間の生活を改めて整理する。

 検査は

勿論、根拠のないのではなく、論理的に考えたもとで、だ。誘拐か監禁か、よく分からないが、これだけの大掛かりな施設なのだ。精密検査これっぽっちのはずがないんだ。

 これは確信だ。ほぼほぼ確実に言える。

2つ違和感。一番の違和感は、グラさんの「検査衣」と言った時の顔だ。どうしても耳に残ってよくよく思いだすと、凄く悲しそうにつぶやいていた。それがどうしても心残りだった。《もしかしたら…》も同じようなことが言える。その後の言いたいことを不安を与えないために飲み込んだとしか思えない。

2つ目の違和感、それは

 ボクは自分の状態を把握していた。

しかし、ボクの過去の状態だけだと矛盾が生じる。虚弱体質とか、少食とか……。その証拠と言えるかわからないが、ランニング中、もっと速い世界を求め憶えていた。昔は走れたのだとしても、この体だ。昔だと、もっと幼い体など、そんなに走れるだろうか?虚弱体質が後からなったからそう思っただけとも考えられるが、何故かこのくらいの年代の子どもの走る子の見える世界を知っていると訴えてくるのだ。

 ボクの結論は……。

 「起きろ」

結論を出す前に、布団をめくられた。急に開けた視界の端で苦悶の表情を浮かべるグラさんを確認したところで、首元を掴まれ宙に浮く。目の前には白衣を着ても滲み出る狂気と俺様臭、貴族オーラを纏うピアスをした男が立っていた。

 「さぁ、検査実験の時間だ」

ここまで最悪の第一印象があるだろうか?合わない人間だとすぐに理解したが、反抗はせずにされるがままにする。理性が暴れても無意味だと分かっているからだ。捨てるべき感情が静かに募るのは仕方ないことと言えた。
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